ごはんを作ろうと思うが、その前にみんなに合う服をポケットから探すことにした。

 作るのは時間がかかるから、今は持っているものからあり合わせることにする。


「どうしようかなあ」


 服や装飾品を次々に出して広げると、みんなが覗き込んできた。

 プレゼントを貰う子供のようなキラキラした目で、私が並べるものを見ている。


 そういえば、まだコボルトだったセドリックさんとクレールさんに、布を選んで欲しいと言った後に解呪をして倒れてしまっていた。

 せっかくだから、今回も好みのものを選んで貰った方がいいかもしれない。


「いっぱい出すので、自分で選びます?」


 そう尋ねると、みんなから嬉しそうな声が返ってきた。

 よそうそうなもの、ちょっとふざけたものなど、手当たり次第に出す。


「どれでもお好きなものをどうぞ」


 みんなの楽しそうな顔がキョロキョロと動く。


「先輩とかこのワンピースはどうですか? って、痛っ! なんで殴るんですか!」


 ゴブリンのクレールさんに花柄のワンピースを進めたセドリックさんが殴られた。

 それを見てみんなが笑っている。

 本当に仲がいいんだなあ。 


 微笑ましい様子を眺めながら、私はごはんの準備について考え始めた。


「皆さん、食べてはいけないものはあります? アレルギーとかないですか?」


 まずは人様にお食事を提供するにあたって、気を付けなければいけないことを確認する。

 これ、最重要です。

 あとは衛生面に気をつけます。


「おれはありません。大丈夫です!」


 誰かにリボンをつけられたセドリックさんがそう答えると、騎士達もコクコクと頷いた。


「ふふっ、了解しました。では、今まで普段はどんなものを食べていたんですか?」

「んー……もっぱら肉ですね! 森に動物はいるんですよ。だから捕まえて、そのまま食べていました」

「そのまま? 生? 焼かないの? あ、もしかして熱いのがだめなの?」

「いえ、熱くても大丈夫です。最初の頃は人らしい食事がしたくて、捌いたり焼いたりして頑張っていたんですけれど、段々面倒になってしまって……ね?」


 セドリックさんの問いかけに、騎士たちは揃って苦笑いだ。


「じゃあ、何か食べたいものはあります?」

「おれは肉です!」

「え? ずっとお肉だったんでしょう? 他のものが食べたくならない?」

「はい! ですから、生じゃない調理された肉が食べたいです!」

「な、なるほど……?」


 肉ばかり食べていたのに、肉から離れないのはすごい。


「セドリックさんは肉料理ということですが、皆さんはどうです?」


 騎士たちに問いかけると、ゴブリンのクレールさんと目が合った。


「ギギッ」

「あ、先輩。『何でもいい』は一番困る回答ですよ! ねえ、聖女様」


 通訳してくれるセドリックさんの言葉に思わず笑ってしまう。

 よく分かっていらっしゃる!


「ふふっ、そうね」

「……ギギッ、ギギギ」

「ああ。それは確かにそうですね。『作ってもらえるのなら何でもありがたい』と言っています』」


 クレールさんは目つきが鋭くて、ゴブリン姿だということを差し引いても近づきがたい空気が出ているけれど、すごく気づかいをする人のようだ。

 でも、クレールさんにも喜んでもらいたいから、そんなに気を使わないで欲しい。

 あと、その麦わら帽子、似合っていますよ。


「久しぶりに食べる『料理』になるんですよね? 出来るだけご希望に沿いたいので、好きな素材とか、甘いのが好きとか、辛いのが好きとか、好みだけでもいいので是非教えてください!」


 笑顔でそう伝えると、クレールさんは少し悩んだ後答えてくれた。


「……ギギッ」

「へえ! 意外ですね! 甘いものが食べたいそうです!」


 セドリックさんに驚かれ、クレールさんはちょっと恥ずかしそうだ。

 麦わら帽子のつばで顔を隠してしまった。可愛い。


「甘いお料理というより、デザートにします?」


 聞いてみると、まだ少し恥ずかしそうにコクンと頷いてくれた。


「任せてください!」

「プ!」


 クレールさんに向け、拳を掲げて意気込みを見せた私の前に、ぽよんとスライムのリュシアンさんがやって来た。

 体には色んな布が巻き付いている。

 苦しくないのだろうか。


「リュシアンは辛いものがいいそうです。そういえば食堂でも馬鹿みたいにスパイスをかけていたなあ」

「ぷ! ぷー!」

「いや、だって……あんなにかけたら料理を食べているんじゃなくて、スパイスを食っているようなものだろ?」


 リュシアンさんは辛党ね。

 辛いものが色々と思い浮かぶ。何にしようかな。


 考えていると、ハーピーのパトリスさんが翼の腕で器用に挙手をした。

 あ、アクセサリーなども上手に持ちますね!

 セドリックさん、クレールさん、リュシアンさんは、パトリスさんから渡されたものだと渋々つけているのは、もしや……パ、パワハラ…………見なかったことにしよう。


「ヒューヒュルー」

「ああ、確かに! おれ達まともな野菜食べてないですよねえ。雑草とかは食べてみたけれど……」


 え、雑草!? 本当に!?


「ちゃんとした美味しいお野菜、いっぱい食べましょう!! サラダとかスープとか、他のお料理にもたくさん使いますから……!!」


 体が資本の騎士たちが生肉や雑草ばかり食べていたなんて、私は泣きそうだ!

 美味しいものをいっぱい食べてもらおうという気持ちが一層増した。

 これは私の使命だわ!


「団長はどうです? 聖女様に伝えたいご希望はありますか?」


 セドリックさんの問いかけに、フェンリルのエドヴィンさんは遠慮がちに声を出した。


「……グルルッ」

「あー! それは欲しいですね! あのー……聖女様、お酒ってあります?」


 ああ。なんだか言い辛そうにしていると思ったらお酒か!

 料理じゃないから言いにくかったのかな?

 もっとグイグイ来てくれてもいいのに!

 そう思いながらも、私はドヤ顔で答えた。


「あります! 樽で!」

「やったああああああっ!!!!」

「ギギギギッー!!!!」

「ピ! プ~~~~!!!!

「ヒュウーヒュウウウウッ!!!!」」

「グオオオオオオオオっ!!!!」


 私の返事を聞いて、騎士たちが歓喜の雄たけびを上げた。

 わあ、耳が痛い!

 やった! やった! とはしゃぐように飛び跳ねる騎士たちを見ると、私も嬉しくなってきた。

 こちらの世界に来て月日が流れ、私もお酒が飲める歳になったから飲もうかな?

 今まで飲んだことがないけれど!

 とにかく先に腹ごしらえをしなければ。

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