邂逅
ミコトが目にしたのは何年も雨が降らなかった砂漠のオアシスのように涸れ、焼け焦げた噴水。その様子に呆気にとられる人々がいた。どうやら、遠くから見えた火柱はこの噴水に向かって放たれたモノらしい。
「何の前触れもなしに、このレベルの炎魔法かよ……」
ミコトが”管理”している世界でも「魔法」はポピュラーな技能に当たる。この世界の住人なら誰もが優劣はあれど魔術を使う素質があるし、魔力という概念も存在している。しかし、この惨状を引き起こした火柱は理解の範疇を超えていた。ある程度の”調整”がかけられているはずのこの世界ではありえない――ありえてはいけないことだった。
どこからか、情けなく怯えた声が聴こえた。パッとその声が聴こえた方向を見ると、何かから逃げるように男たちが走り去っていった。そこに残っているのは、一人だけ。
「ソウイチ……」
データで顔は知っていたが、実際にこの目でその姿を見るのは初めてだった。未知の存在に対する胸のざわめきを抑え込むため一息、深呼吸をする。物憂げな表情を何とか抑え、ミコトは一歩ずつ足を踏み出しそれに近づいていく。ファーストコンタクトのいい挨拶が思いつかず、とりあえず初対面の体で適当に声をかける。
「そこのお前、見ない顔だな。あー……冒険者か?」
「あ、やっぱりそう見える? さっきも言われたんだよねー」
「なんか絡まれちゃってさー。カッコいいって罪だよねー」
逃げ去っていった男たちの姿が頭に浮かぶ。きっと碌な絡みではなかったのだろう。ミコトはそう思い、分かっていつつもソウイチに質問をする。
「アレをやったのはお前か?」
噴水の方を一瞥して、親指で指し示す。ヘラヘラとした答えが返ってくる。
「よく分かったねー、まさか噴水の方が燃えるとは思わなかったけど」
「まだ、要領が掴めないから練習が必要だねー」
「へぇ」と頷きつつ、どうしても話すことに”ズレ”を感じてしまう。ソウイチの見た目は若々しく、年齢で言えば十代が妥当といったところ。しかしながらポピュラーなはずの「魔法」に対する教養も薄く、うまく使いこなせていない。一つ一つ細かく質問したいところだったが――。ミコトは頭を軽く掻き、手っ取り早く核心に迫ることにした。
「どこから来た?」
ソウイチは、ほんの少しだけ考えるが直ぐに答える。
「ここじゃない別の世界、って言えばいいのかなー?」
"別の世界"。その意味について考える間もなく、ソウイチは続ける。
「俺、一回死んだんだけど不具合だったみたいでさー。女神様の提案でお詫びも兼ねたおまけ付きで別世界へ転生させてもらったんだよー」
「おじさんに言ってもよく分からないと思うけどねー」
ソウイチの語りを粗方聞いたミコトはとりあえず頷きながらキーワードを整理する。別世界、不具合、女神様、転生、おまけ付き……。このワードたちが意味するものをミコトは知っていた。
――噂の異世界転生、ってところか。
今、この場所で起こったことや「ソウイチ」の身元が分からなかったということから考えてもコレが一番濃厚である。腕を組みながら明後日の方向を向き、この「
「俺は、お前みたいに”別世界”から来たって言う奴に何回か会ったことがあってな」
「大抵の奴らは元居た世界に帰りたいって言うんだ」
「お前はどうだ?」
気持ち優しめな口調。ミコト自身、半ば諦め気味ではあったが万が一ということもあるためグッと抑える。実際、ミコトは元居た世界に返す方法を知っているし、嘘をついたつもりもない。
そんなミコトの期待とは裏腹な、むしろ思っていた通りの返答がソウイチから返ってくる。
「別に帰る必要なんてなくない?」
「あんなでっかい火柱出せるくらいには俺って強いっぽいしー」
「この力で、この世界のヒーローになった方が楽しいに決まってんじゃん!」
ミコトはそうかそうかと頷く。最後に1つといった感じに右手の人差し指を上に立て、質問する。
「この世界のヒーローになるために、お前は何をするんだ?」
「そんなの簡単じゃない?
ソウイチの返答を右手をそのまま前に出し、制する。ミコトは落胆したと言いたげに、大きく溜息をつく。
「生憎、俺はお前みたいな脳筋をフォローしてくれるヒロインは用意してないし、そういう友達もお前にはいないらしいな」
制してた手を引っ込めると、「管理者」ミコトは携帯端末をポケットから取り出す。親指が端末上を走り回り、液晶画面が眩く光り始める。
「お前は、俺の世界のシナリオを壊しかねない。だから……」
「
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