異色
時は数時間前。
「なんじゃこりゃ」
幾千もの世界の内の一つ。その”管理者”である「ミコト」はソファに腰掛けながら謎の人物の存在にうろたえていた。今までこの世界で生まれてきた住人達と比較してもトップレベルどころか、規格外。そう言わざるを得なかった。板状の携帯端末を指でなぞりその男の素性や来歴、そして桁外れな能力値について調べる。
「昨日はこんなやついなかったぞ」
「家系図にも当てはまらなければ、生まれてきた記録もない」
「モブが急成長すれば、いくらなんでも気づくはずだが」
「訳が分からん」
苛立ちながら独り言を呟き、寝癖混じりのの短髪頭を掻く。世界のデータベースを調べてみても、表示されるのはやけに容姿端麗な見た目と「ソウイチ」という和名くさい名前、問題となっている化け物じみた能力くらい。それ以外の要素がまるで見当たらない。ミコトはソファに倒れ込み、頭を抱えながら唸りを上げる。数秒の間は唸り続けたがその後ピタっと唸りを止め、一呼吸を置くとソファから起き上がった。
「まあ、本人に聞けば分かるだろう」
そう呟くと、ミコトは皺くちゃの寝間着からパリッとした白いワイシャツと青色絵具をそのまま塗りたくったようなジーンズに着替える。携帯端末をジーンズのポケットに入れると、外に出るための扉に向かいドアノブに手をかける。
「まずは、やつの居場所からだな」
青白い光がドアから零れだし全身に降り注がれる。ミコトはそれを十二分に受け止めると、如何にもファンタジーらしい中世的な街並を歩く人混みに加わった。
頭の寝癖はそのままだ。
*
「よぉ、ミコトの旦那! 今日はサボりかい?」
「失礼な奴だな。今日は人探しなんだが……何か知らないか」
ミコトは通行人や常連の飲食店や酒場を渡り歩いて、「ソウイチ」なる男がいなかったを聞き込んだ。出身国や所属も分からないのであれば、自分の足で片っ端から聞き込むしかない。その考えは正しく、幸いなことにこの街での目撃者が見つかった。ミコトも足繁く通う、他国からの輸入品を取り扱う馴染みの店のおっさん店主だ。
「冒険者にしては装備も疎かだし、何よりこの世界の状況を何も知らなかった。違和感の塊みたいなやつで気持ち悪かったのを覚えてるぜ」
店主曰く、その男が着ていた服はこの国の住人が普段着として用いている革服。店の商品をあらかた物色するとこう尋ねてきたそうだ。やけにニヤニヤと自信たっぷりな様子で。
『この世界を救いに来たんだけど、戦争とかどっかでやってない?』
店主は男からの質問に対していくつか答えたらしい。この世界には4つの国があり、ここはその内の一つ「擬国イミテリカ」であること。そしてその4国がそれぞれを敵に回して戦争を行っていること。この世界に生きる者なら常識であるはずのことを。その後、やり取りを終えると男は、この街の中心にある噴水広場の方へ向かったらしい。
不自然な男「ソウイチ」についての謎は深まるばかりで、話を一通り聞いたミコトは再び頭を悩ませる。その様子を見た店主はどこから持ってきたのか、そっと湯気が立つ草木色の液体が入ったマグカップを差し出す。「どうぞ」という店主のジェスチャーに一瞬思考が止まるが、ズズズッっと音を立てつつそれを口にする。しばらくして、ミコトは苦い顔になり、それを飲むのをやめた。
「雑味が強いな。おっさん、お茶を淹れるのヘタクソ」
「"倭国"からの輸入品でリョクチャって言うらしい。買ってくれるか?」
ミコトは味に対する小言を抑えつつも、店主よりも上手く淹れられる自信はあったため、携帯端末とは反対のポケットに入っていた硬貨を店主に差し出した。
「にしても、おっさんも戦争とかやってる中でよくこんな商売やってるよな」
「まあ、いがみ合ってるのはそれぞれの国の王くらいだわな」
二人は小粋な言葉をかけ合いながらにやりと笑う。緑茶の茶葉を受け取ると「また来るわ」と店主へ会釈をしてそこを後にした。
「噴水広場、ね」
ミコトはタールのように黒く粘っこい不安を抱えて件の場所に向かう事になる。しかしながらその不安はすぐに消えることとなる。天まで高く昇る赤々とした火柱と轟音。不安は恐怖へと代わった。
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