第3話 3ポークスfeat.餓狼(前編)

「――――起きろ鈴羅。朝だ」


あまり良く寝ていない気がする。

頭も整理がつかず、誰に起こされたかも分からないけ具合である。


「……なんだロロか」

「なんだってなんだ。起こしてやったんだから感謝してくれたって」

「うんうん、ありがとうありがとう。それじゃあ、おやすみなさ」


刹那、頭頂から火花が散った。

ロロがゲンコツをはったのだ。


「痛いっ!なんで!?」

「なんで、じゃない!なにちゃっかり二度寝しようとしてるんだよ!?寝惚けてたんだなそうなんだな!?」

「そうだよ!!」


流石に小さいとは言えロロは男だ、パンチされた箇所がヒリヒリする。

頭を押さえながら、私は立ち上がる。


「なんだよ……やるきか?」

「ケンカはしないってば。痛いし。

それよりも、今日はどこまで行く予定?」

「とりあえず行けるトコまでだな。今日1日かけたって、【女王】の城にゃ着かないさ」

「ふぅん……。じゃあとりあえず出発!」

「気が早すぎるだろ、いくらなんでも……」


ロロはあきれていたが、この時の私は至極大真面目に、頑張って歩けば着く、着かなくとも見える、くらいにしか考えていなかったのだった。


「とりあえずから降りるぞ」

「へ?」


思っても見ない言葉がロロの口から飛び出し、私は思わずすっとんきょうな声をげてしまった。


「本当に何も分かってなかったのな……。

鈴羅、まずここは暖炉の上だ。そしてこの空間は家だ」

「家って……誰の家?」

「…………豚三兄弟スリーポークスの三男、ミトンの家」


ありゃ、って事はこの家レンガ積みなのか。

てっきり漆喰しっくいかとばかり思っていた。

うん?何故『三男』でレンガが出てきた?

……背筋につつーっと冷や汗が流れた。


「……そうだ。あまり長居すると面倒な事になる。ここから早く出た方が良いって言ったのはそれが原因だ。だからな――――」

「ようちびっこいの。面倒な事って何か、俺様にも教えろや」

「「!!?」」


毛むくじゃらが話しかけてきた。

否、それは誰が見ても狼。

背中に何故かエレキギターを背負った、随分と偉そうな狼だった。


「俺様はアレックス・チョップスティック!

いずれ世界一のギタリストになる男だ、覚えておけ!」

「チョップスティックっておはしだよな」

「おはしだね。可愛いかも」


ドン、と地面を脚で踏み鳴らし、アレックスは怒りをあらわにした。


「俺の名を笑うな!!確かに俺が継いだ名の意味はお箸さ、それは否定しねぇ。

だがな、名前で人を見るんじゃねぇ!

例えそれが体を現していたとして、だけど心は俺だ、他でもねぇ俺なんだ!!

だから俺をどう思うかは、俺の魂を聴いてからにしてくれや」


そう言い、アレックスはギターを取り出す。


「……人じゃなくて狼だよな」

「笑った訳でもないし」

「「……ううむ」」


そうこうしているうち、いきなり演奏会が始まってしまいそうな雰囲気にまでもつれ込んでしまった。


「……じゃあ聴いてくれ、俺の魂」


鋭い爪が、第4弦を叩こうとしたその時だった。


「ちょっと待ていアレックス!」


【家主】が、帰ってきた。




「……僕はポークのミトン。スリーポークスの三男にしてVo./Gt.さ☆」

「俺が次男のツートン。Dr.担当」

「オラが長男にしてリーダー。

Ba./Cho.のモノトーンさね」


すごくそれっぽい自己紹介と共に、家主with兄弟が帰宅。

もちろん狼はぎょっとしていたが、それ以上に私達を見た豚兄弟達もぎょっとしていた。

何せ豚達はこの空間――三男の家に準拠したサイズ、対して私とロロは暖炉の上のブリキ人形と同じくらい小さいのだから。


「こんなに小さな子達、僕初めて見たなぁ」

「もちろんオラもだ。ツートンはどうさ?」

「初めてに決まってるだろ」


三者三様、反応も全然違う。

三男が一番私達に興味津々みたいで、特にロロをマジマジと見つめていた。

ロロはヘビにらまれたカエルの様に動けなくなってしまっている。


「さてアレックスよ、確かにこの家は防音機能付で設備もしっかりしている。

お前がここで一曲したためたいのも分かる。

だけどな、不法侵入はダメでしょ。流石に。

本当ならハウンズを呼ぶのが決まりだけど」

「止めてくれ!ハウンズだけは!!」

「分かってる。お前犬アレルギーだものな。

だから条件付きだが見逃してやる」


後から聞いたのだが、ハウンズとはこの近辺を統括している交番の常駐巡査らしい。

いわゆる、犬のおまわりさん。


「……で、その条件ってなんだ?」

「この子達を審査員にして、音楽勝負だ。

どちらがより良い曲を弾けるか、でな」

「……そうか、受けよう。俺が負けたら、潔くハウンズのトコに自首するぜ」

「決まりだな」


こうしてアレックスとスリーポークスの勝負が執り行われる事が決まった。

勝手に審査員にされた私達。

音楽の造詣はないけれど、とりあえず頑張る事にしよう。

(次回、後編に続く)

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