第20話 変わり果てた王都
「目が覚めましたか?」
目をさますと紫色の髪に一対の狐耳を生やした少女の顔が視界に映る。
少女の瞳はアメジストのような透き通った紫色で、風が吹いているからか少女の髪はたなびいていた。
頭がぼーっとしているがどうやら、俺はこの少女に膝枕をしてもらってるらしい。
なんで俺はこの少女に膝枕されてるんだろう?
てか、俺は膝枕に何か縁でもあるのだろうか?
「君は誰?」
「私はユミナと申します。聞きたいことはたくさんあるとは思いますが、
俺はユミナと名乗る少女の言葉で何があったのかを全て思い出し、すぐに体を起こす。
彼女は俺が起き上がると自分の腰の後ろに手を回し何かを取る。
「荷物はまとめておきました。あとは主人が動ければ出発できます」
彼女はそう言って俺に紐のちぎれたカバンを渡してくる。
俺がカバンを受け取ると彼女は俺から少し離れ、何かを詠唱し始める。
彼女からは敵意を感じないが、一応対応できるように構える。
ユミナが詠唱を終えた直後、彼女の体が青い炎に包まれる。
青い炎はどんどん大きくなっていく。
俺がどうしたらいいのか戸惑っている間に青い炎は消え、ユミナがいたところには一体の紫色の毛皮と九本の尾を持つ狐がいた。
「乗ってください」
「‥‥‥君は魔物なの?」
「‥‥‥はい、私は魔物です。ですが、主人を襲った魔物達とはなんの関わりもありません。ですから私を信じて背中に乗ってください」
ユミナからは敵意を感じないが、演技をしている可能性もある。
けれど、俺は彼女の背中に乗った。
「ありがとうございます」
俺がユミナの背中に乗ると、ユミナはそう言って走り出す。
彼女の走るスピードはものすごく早く、この調子でいけば半日後にはリュミラ王国につけるだろう。
けれど、不思議なことにこんなにも早いのになぜか風の抵抗を受けない。
風の抵抗を受けない魔法でも使っているのだろうか?
「改めて自己紹介させてもらいます。私の名前はユミナです。見ての通り魔物です。契約により今日から主人、クロエル様の使い魔になりました」
いきなりユミナが話しかけてくる。
そして、契約だとか意味のわからないことをいう。
「契約?」
「まずはその説明からした方が良さそうですね。六年前、主人が閉店寸前の本屋で買った魔法陣が一つだけ書かれた本は覚えていますか?」
「覚えてるけど、それが何か関係があるの?」
「あの本に書かれていた魔法陣には私を封じる魔法と魔物を使役することのできる魔法が書かれていました。
主人がリザードナイト達との戦闘で気を失う直前に私の名前を呼んだことで私を封じていた魔法は消え、魔法陣に書いてあったもう一つの魔法、魔物を使役する魔法によって私は主人の最初の使い魔になりました」
嘘は言っているようには見えないが、信憑性に欠ける話である。
他にもよくわからない話はある。
「契約って言ったけど、君と契約するために俺は何か対価を払ってるの?」
「はい。私は主人からは魔力をもらっています。その代わりに、私は主人とその友人の命を全力でお守りします。命令してくだされば剣の相手から雑用までなんでもやります」
「契約を確認する手段はないの?」
「今から私と主人の魂の間に流れている魔力供給路を使って主人に私の魔力を流します。私の魔力が主人の体に行くと、なんらかの形で主人の体に変化が起きます」
ユミナがそう言った直後、体の中に何か暖かいものが流れてくるのを感じる。
直後、腰辺りから青い炎が出現し、狐の尻尾によく似た形になる。
‥‥‥この炎には見覚えがあった。
「‥‥‥疑ってごめん」
「え、いきなりどうしたんですか?!」
「六年前は助けてくれてありがとう」
「‥‥‥」
俺が何を言いたいのか察したのかユミナは何かを言うでもなく黙ってしまう。
「いえ、それが私の役目ですから。ですが、主人に覚えもらっていたことは正直ものすごく嬉しいです」
数秒後、ユミナはそう口にした。
「今更だけど、これからよろしくね」
「はい。全力で主人を守らせてもらいます」
「その、主人ってのやめてもらっていいか?」
「それでは、なんとお呼びすれば?」
「クロエルでいいよ」
「わかりました。クロエル様、改めてこれからよろしくお願いします」
様付けだが、そこは彼女なりの考えがあるのだろう。
まぁ、主人と呼ばれるよりはだいぶ恥ずかしさもなくなった。
「では他に聞きたことなどはありますか?」
ユミナは俺にそう尋ねてきた。
だから、俺は彼女自身のことを尋ねることにした。
____________________________________
ユミナに乗って王都へ向かうこと十数時間。
視界の先には王都の城壁が見えた。
だが、所々壁は壊されていて、そこからは大量の魔物が今も耐えなく王都内に潜入していた。
「クロエル様、あの魔物の群れを突破するのには少し時間がかかります。ですから、風魔法で一気に上空へ飛んで、空から王都内に入りたいと思います」
「わかった」
俺は風魔法を詠唱し魔物の群れを飛び越え、城壁の上に立つ。
遅れて、少女の姿になったユミナが俺の横に降り立つ。
「すごい有様ですね」
ユミナはぼそりと呟いた。
街の中のいたるところに魔物達がいた。
王国騎士団の団員達は必死で魔物と戦い、今も魔物を一体一体確実に殺している。
だが、明らかに間に合っていない。
魔物は倒せているものの一体倒すごとに数十体の魔物が城壁から街の中に入ってきている。
最初に壊された城壁をどうにかした方が良さそうだ。
俺は土魔法を詠唱する。
詠唱が終わると同時に地震が起こり、壊されていた城壁を大地が飲み込み、新しい土の壁を作り上げる。
「なんだ?!」
「おい、さっきの地震はなんだ!? 新手の魔物か?!」
街の中にいる騎士達はひどく混乱しているが、いちいち説明する時間ももったいないので騎士達の判断力に任せることにする。
「バーン」
王城の近くで大きな爆発が見えた。
爆発の余波は王城からだいぶ離れた城壁まで飛んできた。
俺はこの国でこんな魔法を使える人物は一人しか知らない。
「クロエル様!」
「わかってる。行くよユミナ」
「はい!」
俺とユミナは城壁から飛び降り、王城に向かって走る。
途中、何体か魔物と遭遇したがユミナがいるおけげで苦戦はしなかった。
「樹木よ的を貫け、ウッドランス」
王城付近に着くとフレアが魔法を詠唱し魔物から街の人々を守っていた。
だが、フレアの顔には苦悶が浮かび、今にも倒れそうなのを必死にこらえているように見えた。
「ユミナ、魔力を俺に流して」
「わかりました」
俺は青い炎を操りフレアとフレアが守っている街の人々を取り囲んでいた魔物達を焼き払う。
青い炎を使うには相当体力と魔力を使うらしく、少し使っただけでめまいがするが我慢できないほどではない。
「クロエル!」
フレアがおぼつかない足取りで俺の元へと駆けてくる。
「クロエル、大丈夫だった?」
「フレアこそ大丈夫だった?」
「私は大丈夫。それより、その青い炎って魔法?」
「そうだよ、この娘に教えてもらったんだ」
俺は俺の後ろになぜか隠れているユミナの肩を掴み、フレアの目の前に移動させる。
「狐耳に尻尾‥‥‥獣人かな?」
フレアはユミナにそう尋ねる。
ここは頷いておいた方がいいだろう。
「獣人ってことにしておいて、魔物っていうと誤解されるかもしれないから」
俺はユミナにしか聞こえないよう小声で言う。
「わかりました」
ユミナは小さくそう言うと、フレアに挨拶をする。
「初めまして、私の名前はユミナと言います」
「よろしくね、私の名前はフレア=エルーフィア。フレアって呼んで」
「こちらこそ、よろしくお願いしますフレア様」
ユミナはフレアに頭を下げ「近くに魔物がいないか見てきます」と言って何処かへ行ってしまう。
「フレア、セレナが今どこにいるかしらないか?」
「セレナちゃんならリュミラ王の護衛をしていると思うけど。多分、城の中の何処かにいると思う」
セレナは城の中にいるのか。
探しに行きたいがフレアをここにおいて行くとまた魔物達が襲ってくるかもしれないし、かと言ってフレアだけを連れて行くこともできない。
なぜなら、フレアは街の人をこのままここに置いて行くなんてできないだろう。
フレアは自分より他人を優先する娘だ、街の人が守れるなら自分の命も捨てるだろう。
どうすればフレアの安全も確保できてセレナを探しに行けるんだ。
一番簡単なのは俺が街の人たちを守りながらセレナを探すことだ。
だが、何が起こるかわからない状況でこの選択肢を取るのは得策ではない。
さて、どうしたものか。
『クロエル様、城の中を少し覗いたところ、いたるところに魔物の死体がありました。すぐにセレナ様を探しに行かなければ手遅れになるかもしれません』
頭の中にユミナの声が流れてくる。
この娘、こんなこともできるの?!
『はい、できます』
今度は俺の考えてることを読まれた?!
『魂を通してクロエル様と会話をしているのでこれぐらいはできます』
‥‥‥ユミナ、この魔法?かどうかは知らないけど、今後むやみに使わないように。
『わかりました。それで、どうしますか?』
‥‥‥ユミナはどうしたらいいと思う?
『私は炎の防壁を何重にも張ったらいいと思います。青い炎で防壁を張ってしまえば並大抵の魔物では触れただけで消滅します』
わかった、ユミナは城の入り口にいてくれ俺もすぐに向かう。
『わかりました』
俺は炎を操りここから少し離れたところに炎の防壁を何重にも張る。
「教えてくれてありがとう。この周りに魔物が近づけない炎の防壁を張ってたからフレアは休んでなよ」
「うん、わかったありがとう。‥‥‥クロエル、死なないでね」
「大丈夫、まだ死ぬつもりはないよ」
俺はユミナがいるであろう城の入り口に向かう。
ユミナと契約したからか、なんとなくユミナがいる場所がわかった。
炎の壁を抜けるとそこには大量の魔物達がいた。
こいつらを倒さないと先に進めそうにない。
「急いでるんだ、どいてくれ」
俺は魔物達を威嚇するように睨みつける。
俺の気持ちに同調しているのか、意識したわけでもないのに青い炎が足元から吹き出て、魔物達を襲う。
魔物達はそれを見てか後方へと下り逃げて行く。
何体かの魔物は襲いかかって来たが、青い炎の中に入った直後、チリも残さず消える。
‥‥‥この魔法、少し使い方を間違えるだけで大災害を起こしかねないな。
まぁ、今はそれぐらいの火力があった方がありがたい。
俺は城の入り口まで魔物を倒しながら向かう。
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