第19話 魔物

 馬車に乗ること二日。

 ようやく調査すべき森についた。


 そして、森の中を進むこと数分、大きなアリを数匹見つける。

 学園の図書室にあった本でみたことがあった。

 確かキラーアントという名前だった気がする。

 木をも簡単に噛みちぎる硬い歯を持ち、森の中で群れを作り、近隣の村や町などを襲い襲った村や町を自分たちの住処にする、と本に書いてあった。

 俺は木の上からキラーアントたちを観察し行動の一つ一つを紙にメモる。


「ごつ」


 頭に何かが当たり、バランスを崩しドサっと音を立て地面に落ちる。

 俺は何が起こったのか理解するのに数秒かかった。


 後頭部に痛みがあり、触って見ると血が出ていた。

 近くには血がついた尖った石が落ちていた、多分、これが当たったのだろう。

 石が飛んできたであろう方向を見るとそこには緑色の体をした子供、ゴブリンが三体笑いながらこちらをみていた。


 俺は回復魔法を詠唱し、ナイフで切りかかる。

 ゴブリンはすぐに攻撃してくるとは思っていなかったのか驚いている。

 ゴブリンはそこまで頭が良くない、だからか奇襲に弱い、奇襲さえうまくいけばそこまで強くはないと本に書いてあったが、どうやら本当のことのようだ。


「グゥエエェェ」


 ゴブリンの胸をナイフで刺すとゴブリンはよくわからない悲鳴のようなものをあげ倒れる。

 俺はすぐにナイフをゴブリンから抜き、近くにいたもう一体のゴブリンの首を跳ね飛ばす。

 そして、逃げ出そうとしているゴブリンめがけて風のヤイバを飛ばす。

 風のヤイバはゴブリンの胴体を真っ二つにした。


 意外にあっさり勝ててしまった。

 誤算だったのは、二回ナイフを使っただけでナイフが刃こぼれしたこととゴブリンの気配に全く気づかなかったところだろう。

 昔から何かに集中すると周りの注意がおろそかになる、悪い癖だ。

 

 俺はナイフを地面に捨て、キラーアントがいた方に目線を向ける。

 だが、そこにはキラーアントはいなかった。


「キシャァァ」


 背後から奇声をあげてキラーアントの一体が襲ってくる。

 俺は炎魔法を詠唱し、キラーアントを炎で焼く。

 だが、キラーアントが一体しかいないことに気づき、すぐに周りの気配を探る。


 土の中に二体、少し離れたところに三体。

 意外に多い。

 俺が観察していたキラーアントは二体、仲間でも読んだのだろうか?

 まぁ、今はこの場にいるキラーアントをどうにかしよう。


 俺は拳に魔力を集め、地面を力いっぱい殴る。

 どうやらすぐ下までキラーアントは来ていたらしく、割れた地面の隙間からバラバラになったキラーアントの死骸があった。

 俺は風魔法を詠唱し、大きな竜巻を起こし、地面をえぐる。

 数秒後には地面に潜っていたキラーアントの一体が空に打ち上がる。

 俺は光魔法を詠唱し筒状の光ででキラーアントの頭を撃ち抜く。


 俺はキラーアントが魔石になるのを確認し、少し離れたところにいるキラーアントにも筒状の光を三つ放つ。

 光はキラーアントを貫通し、無事先頭は終了する。


 まさか、小石がひとつ頭に当たるだけでここまで戦いが長引くとはかった、この先はもう少し慎重に調査をした方がいいかもしれない。


 俺は慎重に森の中を進み、魔物の調査を再開した。



____________________________________



 森に入ってから四日目の夜。

 初日にゴブリンやキラーアントと戦ってからは慎重に調査をしていたからかモンスターと戦うことはあまりなかった。

 ただ、モンスターはあまり繁殖率が高くないはずなのだが、この四日で既に二百体を超えるモンスターを見つけている。


「オオォォォン」


 木の上で今日紙に書いたことをメモっていると狼の遠吠えのような声が聞こえた。

 木の上を慎重に移動しながら声が聞こえた方へ近づいていくと、洞窟の中に明かりが見えた。


「はいはい、落ち着いてくださいねぇ」


 草むらに隠れ、中を覗くと、そこには大量の魔物がいた。

 その中には一体で騎士百人分の強さを誇る魔物からそれ以上の強さを誇る魔物もいた。

 洞窟の中には魔物達以外にも深紅色の髪をした男とエルージェ伯爵がいた。


 ‥‥‥何でこんなところにエルージェ伯爵がいるんだ?


「皆さんの暴れたい気持ちもわかりますけど、もう少しだけ待ってくださいね」


 深紅色の髪の男は洞窟の中にいる魔物達にそういうとこちらに向かって歩いてくる。

 俺は音を立てずに近くの木の上に移動する。


「はぁ、リュミラ王国を襲う計画に必要な魔物達とはいえ気性の荒いやつらばっかりで流石の私も疲れますね」


 この男は今、リュミラ王国を襲うと言ったのか?


「まぁ、今回の作戦が実行されればリュミラ王国内にいる人たちは悲鳴をあげたりしながら死に至る。

 ふふ、最高ですね。そう考えればあの魔物達の世話で疲れるぐらいどうってことなさそうです」


 俺は拳に魔力をため男に殴りかかる。


「あれ、何でここにあなたがいるんですか?」


 奇襲だったにもかかわらず、拳が当たる寸前のところでかわされた。

 拳は地面にあたり、地面を砕き割る。


「うわ、これ当たってたら死んでたな」


 男はのんきにそういい、俺の前から姿を消す。

 直後、目の前に全長六メートルほどの二足歩行の赤いトカゲ、リザードナイトが目の前に突然現れる。

 俺はバックステップをふみ後方へと下がる。

 だがよく見ると、現れたのはリザードナイトだけではなかった。


 百体近いゴブリンの群れが俺を取り囲んでいた。

 しかも、リザードナイトを含め現れた魔物達全員が剣などの武器と防具を装備していた。


 どう考えてもおかしかった。

 全長六メートルのリザードナイトにゴブリンの群れがこちらに向かって歩いてきていて、気づかないはずがなかった。

 しかも、俺を包囲するようにいきなり現れたのだ。

 まるで、俺にだけ見えていないようだった。


「ヴァイスさんを一回倒した君でもこの数の魔物を相手にどこまで戦えますかね? まぁ、個人的に顔を恐怖の色の染めて泣き叫んでくれると嬉しいんですが。

 まぁ、がんばってくださいね」


 楽しそうな男の声が聞こえ、リザードナイト達が一斉に襲いかかってくる。

 俺は一番最初に攻撃してきたゴブリンの頭を魔力を集めた拳を当て吹き飛ばし、ゴブリンが持っていた剣を奪う。

 そのまま剣に魔力をのせ、横に薙ぎ払う。


 剣は魔力をのせているからか切った感覚もなくゴブリンの胴体を切断することができた。

 俺は落ちていた剣を拾い上げ、ゴブリンを切った方の剣をリザードナイトに向かって投げる。


 リザードナイトは剣を剣で弾き尻尾で攻撃してくる。

 俺は体全体に魔力を集め尻尾を防ぐ。

 だが、リザードナイトの攻撃は一瞬魔力を集めただけでは防ぎきれなかった。


「ゴキ」


 鈍い音がした。

 右腕を見て見ると尻尾が当たったであろう場所が凹んでいた。


「ウガァァァァァ!」


 痛みに耐えきれず叫び声をあげる。

 俺は回復魔法を詠唱する。

 だが、詠唱している間にもゴブリン達が切りかかってきて、詠唱を中断させられる。


 さすがに大量のゴブリン達の攻撃を右腕の痛みに耐えながら避けきるのは難しく、二体のゴブリンの剣が左腿、お腹に刺さり、同時に肩からかけていたカバンにもあたり、中の荷物が飛散する。


「ゴフッ」


 口から血ヘドが出る。

 痛みのせいで意識が朦朧とする。

 回復魔法を使おうにも口が動かない。

 魔法陣を書いた紙も手元にはない。


 絶望的な状況だった。

 それでも俺は諦めきれず飛散した荷物に向かって地面を這いずりながら移動する。


 だが、いつのまにかリザードナイトが俺の前に立っていた。

 リザードナイトは剣先を下に向け、俺の体めがけて振り下ろす。


 グサ、と音を立てて剣は俺の体を貫いた。

 多分、心臓ごとグサリと貫通した。

 けれど不思議と痛みはない。

 前もそうだったが、死ぬ前は痛みを感じないのだろうか?

 もしそうなら、俺はもう少しで死ぬのか。


 俺が死を覚悟し、目をつぶろうとした。

 その時、視界にずっとわからなかった魔法陣が見えた。


「ユミ、ナ」


 魔法陣が読めた気がした。

 体が何か暖かい尻尾のようなものに包まれる。


「やっと、名前を呼んでくれましたね」


 知らない声が聞こえる。

 何が起こったのか確認しようにも目が開けられない。


「主人はゆっくり休んでいてください」


 俺はなぜか、その言葉に安心して眠りにつく。



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