第18話 リュミラ王からの頼み

 ロイル学園に入学してから六年の月日が流れた。

 俺は小等部六年へと上がり、体も成長し、魔法やこの世界の地理歴史の知識もつけた。

 けれど、相変わらず六年前に買った本に書いてある魔法陣は読めず、魔力操作術もうまく使えない。

 この二つに関しては全くと言っていいほど進歩していない。


 だが、剣術、体術は自分でも驚くほど上達していた。

 俺は日本にいる時から白水流格闘術しみずりゅうかくとうじゅつという武術習得していた。

 この格闘術は剣術、武術などと応用して使うことで強くなり、それが日本にはない、この国の剣術と混ざり今では魔力を使わない剣術の試合ではセレナに簡単に勝てるようになった。


「クロエルおはよう」


 小等部六年の教室の扉を開けフレアが入ってくる。


「おはよう」


 俺がフレアに挨拶を返すとフレアは嬉しそうにこちらに向かって歩いてくる。

 この六年でフレアも成長した。

 身長はそこまで伸びなかったが、木剣を数回振れば息切れを起こすと言うこともなくなり、今では剣術もそこそこできるようになっていた。

 それに、身長の代わりにと言ってはなんだけど‥‥‥その、胸が大きくなった。


「二人ともおはよー!」


 フレアが俺の隣に座ると同時にセレナが眠そうな顔で教室に入ってきた。

 セレナもこの六年で色々と変わった。

 身長は年相応に伸び、腰まで伸びた髪をバッサリと切り短くし、俺とは違い魔力操作術の精度も上がり、今では王国騎士団団員に魔力操作術を教えている。

 正直、魔力操作術を使ったセレナに勝てるかどうかはわからない。


「おはようセレナ」


「おはようセレナちゃん」


 俺がセレナに挨拶を返すと、同時にフレアもおはようと挨拶をする。

 いつもなら朝はいかにも眠たそうな声で挨拶をし、すぐに席に座り、そこで寝ているセレナだが、今日は珍しくあまり眠たそうには見えなかった。

 それどころか、いつにもましてはきはきとしていた。


「セレナ、何か嬉しいことでもあったの?」


 興味本位で尋ねて見る。


「うん、昨日父様が新しい剣を買ってくれたの!」


 セレナは嬉しそうに言う。

 剣でここまで喜ぶ人は珍しいだろう、しかも女の子で、だ。


「良かったね」


「うん!」


 セレナは最高の笑顔で頷く。


「そうだ、近いうちに実剣を使って試合する?」


「え、いいの?!」


「いいよ、俺も最近あまり身体動かしてなかったから丁度いいしさ」


「わかった!」


 セレナはまた嬉しそうな顔をする。

 その顔が見られただけで提案した甲斐があったと思う。


「フレアも今度一緒に街でもまわる?」


 俺はセレナの横で羨ましそうな顔でセレナを見ていたフレアに提案する。


「‥‥‥え、私? ‥‥‥うん、クロエルがいいなら」


「わかった、じゃあ久しぶりに路地入ったところにあった肉料理に店にでも行こっか」


「うん!」


 フレアは嬉しそうに微笑む。


「小等部六年クロエル様、至急学長室まで来てください」


 無属性魔法に分類される音魔法で校内放送のようなものがかかる。

 ‥‥‥あれ、今俺の名前を呼んでた?


「クロエル、早く行ったほうがいいんじゃない?」


「私まもそう思う」


 フレアとセレナはなんで早く行かないの?とでも言いたげな顔で俺を見る。

 ‥‥‥聞き間違いじゃなかったのか。

 でも、俺何か呼び出されるようなことしたっけ?

 全く身に覚えがない。


「あ、もしかして学長室の場所がわからないの?」


 いつまでたっても行かないからか、フレアが心配そうに尋ねてくる。


「え、いや、わかるよ。じゃあ、行ってくる」


 俺は教室を出て学長室を目指して走る。




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 クロエルが学長室に呼ばれる少し前。


「学長、久しぶりだな」


 学長室には白髪の男、リュミラ王が尋ねていた。

 学長はリュミラ王を見るとすぐに席からたち、高そうな椅子に座るよう促す。


「お久しぶりですリュミラ王。今日かこちらにどんなご用で?」


「ああ、実はここの生徒のクロエルに頼みたいことがあってな、今からここにくるように放送をかけて欲しいんだが」


「なぜクロエルなのでしょう? 一応この学園全生徒の情報や成績は頭に入っていますが、クロエルは成績が良くても平民ですよ。

 しかも、わざわざリュミラ王自らここに来なくてもよかったのではないでしょうか?」


 学長は不思議そうにリュミラ王に尋ねる。

 リュミラ王と学長は幼少期からの知り合い、いわば幼馴染というやつだ。

 そんな彼でも、今みたいにリュミラ王が考えていることがわからない時がある。


「平民、か。確かにそうだが、王国騎士団団長ユーフラ=メラルダがこの案件にはクロエルが適任と言っていたのでな、クロエルに頼むことにしたのだよ。

 それに、こちらから頼みを聞いてもらう以上、自ら出向くのが礼儀というものであろう?」


「そんなことを言う王はこの世界でもリュミラ王だけだと思いますよ」


 学長はため息交じりに言う。


「わかりました、では放送をかけてくるのでここで少しお待ちください」


 学長はそう言って学長室から出て行く。



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「失礼します」


 俺は学長室のドアを開ける。

 学長室に入るとそこにはこの学園の学長とリュミラ王がいた。


「おお、その黒髪はクロエルだな、数年間見ないうちに大きくなったな」


 リュミラ王が孫と久しぶりにあったおじいちゃんのようなことを言う。

 一国の王だと言うのに相変わらず平民だからと差別しないようだ。


「お久しぶりです。リュミラ王もお元気そうで何よりです。‥‥‥それで、何か私にご用ですか?」


「クロエル、お前に一つ頼みたいことがある」


「なんでしょう?」


「実は最近、王都から少し離れたところにある森に魔物たちが集まって何かしていると言う情報が入ってな、クロエルにはその森の調査を頼みたい。

 あくまでこれは頼みで強制しているわけではない。だから、もし無理なら断ってくれても構わない」


 リュミラ王は俺の目を見据えて言う。

 ただ、リュミラ王は強制しているつもりはなくても、ただの平民が王様の頼みを断れるはずもない。

 まぁ別にそこはいいんだが、一つきになることがある。


「俺一人でですか?」


「お前の実力を見るに他のものがついて言っても足手まといになるだけであろう? もし他にも同行者が必要なら数人手配するが」


「いえ、大丈夫です」


「引き受けてくれるのか?」


「はい、私などでよければ」


「そうか、そう言って貰えるとありがたい。できれば遅くても明日には出発してもらいたい。

 調査に必要な費用はこちらが全て負担しよう」


「ありがとうございます」


「なに、こちらが頼んでいるのだ、これぐらいはさせてもらうさ」


 リュミラ王はそう言って学長室の扉まで歩いて行く。

 そして、扉を開け外にいる騎士から何かを受け取る。


「これが費用だ金貨が百枚入っている」


 そう言ってリュミラ王は大きめの布の袋を渡してくる。

 にしても、金貨百枚って多すぎないか?

 確か銅貨が十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚になる。

 そして、金貨が百枚あれば人生の半分は遊んで暮らせる。


「余った金貨は依頼代にしてくれ」


「いいんでしょうか? 少しいい剣や防具、ポーションを買ってもだいぶ余ると思うんですが」


 モンスターと戦うようの剣や防具、ポーションなどの高価なものを買っても五十枚は金貨が余るだろう。

 それだけ魔物が強いのだろうか?


「別に構わん。だが、遅くても明日には出発してくれ」


「わかりました。学長、今日はこの後の授業は休んでもよろしいでしょうか?」


「ああ、別に構わない」


「ありがとうございます」


「では、調査してもらいたい森がある場所と、この依頼のことも詳しく説明しておこう」


「お願いします」


 俺はリュミラ王から約一時間、森の場所や依頼内容の説明を受け教室に戻る。

 教室に戻るとフレアとセレナがどうしたの?っと心配そうな目で尋ねてきたので学長室でリュミラ王と話したことを伝え、街に行き切れ味の良さそうな短剣を買い、そのほかに必要そうなものを揃えた。


 そして、あっという間に一日が過ぎた。

 俺は服を着替え、出発に向けて準備をする。


 必要なものをカバンの中に入れ、部屋の扉を開けようとすると枕の横に置いておいた本が光った気がした。


「お前もついて行きたいのか?」


 俺はそう尋ねると、本は光る。

 俺は本を手に取りカバンの中に入れる。


「じゃあ、行くか」


 俺は森に向けて出発する。




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