第16話 リベンジ
俺はフォールンさんからヴァイスを倒すための作戦内容を聞き、校舎の玄関に向かって歩いていると、フェイリ王女が護衛の騎士を二人連れて玄関先の扉の前に立っていた。
フェイリ王女は俺に気づくと、こちらに向かって歩いてくる。
「今日はありがとう。一応お礼は言っておくは」
俺が「何かご用でしょうか?」と尋ねる前にフェイリ王女が口を開いた。
しかも、その内容はまさかのお礼だった。
テンションが高いリュミラ王と違い、ものすごく真面目そうでクールなフェイリ王女が平民、しかも元孤児にお礼を言うとは思わず面食らってしまう。
「でも、次は助けなんていらないから」
フェイリ王女はそう言って護衛の兵士たちを連れて何処かへ行く。
なんだったんだろう。
俺はそう思いながら寮へと戻った。
寮へと戻ると、突然の睡魔に襲われる。
少し寝よう。
俺はベッドの上に寝転がり、眠る。
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クロエルが眠りについた少し後。
枕の横に置いてある本が勝手に開き、書かれていた魔法陣が青く光る。
直後、クロエルが寝ているベッドの横に青い炎が出現し、その中から紫髮の少女が出てくる。
「いい加減姿を現したらどうですか?」
紫髮の少女が敵意を窓の方へと向けそう言った直後、窓が開きヴァイスが姿を現わす。
「まさかこんなところで同胞に会えるなんて思わなかったな」
「同胞? 笑わせないでください。私はあなたみたいな人間でもモンスターでも獣でもない生き物、いや、生き物と呼べるのすら怪しいあなたとは違います」
「ひどい言われようだな」
「ひどい? あなたがこの国の国民にしたことの方がよっぽどひどいのではないのでしょうか?」
「はっ、まぁそうだな」
「それより用がないのなら帰ってくれますか? 主人に変わってあなたを殺してもいいのですが、それだと主人のためにはならないので今回だけは見逃してあげます」
「本当はそこに寝てる黒髪のガキを殺しにきたんだけどな」
ヴァイスは考える。
その間も紫髮の少女は気を抜かない。
「まぁ、このまま戦ったら殺されるかもしれないし、今日のところは退くとするか」
ヴァイスはそう言って何処かへ行く。
すると紫髮の少女は胸をそっとなでおろす。
「‥‥‥本当は今の私には戦えるほどの魔力はないんですけど、嘘はついてみるものですね」
紫髮の少女は机の上に置いてあった紙にペンを走らせ魔法陣を一つ書き、クロエルが魔法陣の書かれた紙を入れるためにフォールンからもらったウエストポーチに入れる。
「少しは主人の助けになると思います。‥‥‥主人だけでは解決できない時は、私の名前を呼んでくださいね。今は読めない魔法陣も時が来れば読めるようになれますから」
紫髮の少女はそういうと青い炎になって消える。
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気づいたら朝になっていた。
多分、どれだけ急いでも遅刻は確定だろう。
俺は朝食を簡単に作り、学園へ行く準備を進める。
制服を着て、昨日フォールンさんからもらったウエストポーチに魔法陣が書いてある紙を入れ、学園へ行く。
学園の校舎に着くと、目を疑うような光景が広がっていた。
半壊した校舎に、怪我をしている王国騎士団の人たちや学園の生徒たち、校舎の中から聞こえてくる悲鳴。
嫌な考えが脳裏をよぎる。
「おい、あんた。なんでこんなことになってるんだ?! フレアやセレナは無事なのか?!」
俺は目の前に通りかかった騎士に問い詰める。
「お前、この学園の生徒だな。ここは危ない、動けるうちに王城へ避難しろ。
フレア様もセレナ様もそこにいる」
騎士はそう言って、東校舎に向かって走って行く。
俺は手に持っていたカバンを玄関の端に置き、東校舎に向かって全力で走る。
東校舎の中には笑いながら騎士達を殺しているヴァイスの姿があった。
「お前ら弱すぎるだろ! 去年戦った王国騎士団たちはもっと強かったぜ」
ヴァイスは斬りかかる騎士たちを本当に楽しそうな顔で殺す。
だが、その表情も一瞬で消える。
なぜなら、体が震えるほどの剣圧を放つユーフラがヴァイスの目の前に立ったからだ。
「久しぶりだな」
「あんたは確か去年俺を100回も殺した女騎士だったか」
「笑わせる。お前は100回どころか1回も死んでないだろ。
私はお前に死んでいてもおかしくないダメージを100回与えただけに過ぎない。しかも、あの時のお前は全力ではなく、遊んでいただけだろ」
「気づいてたのか。じゃあ、今回はもっと頑張れよ」
ユーフラとヴァイスはナイフと細剣を打ち合う。
だが、ユーフラがヴァイスと互角に戦えていたのは初めの数十秒だけだった。
ヴァイスのナイフがユーフラの体に当たる回数が増していく。
ユーフラは苦痛に顔を歪めながらも、ギリギリで致命傷を避けていた。
これがヴァイスの本気なのか‥‥‥いや、まだ本気ではないのかも知れない。
助けに入りたいが、今の俺の実力では助けるどころかユーフラのお荷物にしかならないだろう。
俺の体が6歳児に体ではなく、日本にいた頃の高校生の体だったのなら今ここでユーフラを助けることができたのかも知れない。
俺が自分の無力さを噛み締めていると、肩を軽く叩かれる。
肩を叩いたのは体と同じサイズの盾と銀色に光る剣を腰に差したフォールンさんだった。
「ユーフラ、替われ」
フォールンさんがユーフラの腕を掴み、俺の方へと放り投げる。
そして、体と同じ大きさの盾でヴァイスの攻撃を防ぎ、そのまま盾を前に押し出し、ヴァイスを後方へと押しのける。
「今から作戦を開始する。クロエルはユーフラに回復魔法をかけろ、魔道士は魔法の詠唱だ。騎士たちは魔道士とクロエルとユーフラを守れ!」
フォールンさんは瞬時に命令を飛ばし、ヴァイスとの戦いに専念する。
俺が回復魔法をユーフラにかけ、戦いの方へと目線を向けると、いつのまにかヴァイスはナイフを二本持ち戦っていた。
しかも、明らかにユーフラと戦った時よりナイフを振る速度が上がっていた。
俺がフォールンさんとヴァイスの戦いを見ていると、かすれた声で名前を呼ばれる。
「クロエル、フォールンの援護を頼む。いくらフォールンでも一人だけではヴァイスに勝てない」
ユーフラが俺の手を掴みそう言い、気を失う。
確かにフォールンさんの顔は険しく、来ている鎧の隙間から血が出ていたり、ヴァイスのナイフを防いでいる盾は何度も爆発を受けヒビが入っていた。
だが、援護を頼むと言われても、ユーフラとヴァイスの戦いですら見ることしかできなかったのに、さらにレベルの上がった戦いに参加することなんてできない。
こんな思いをするぐらいならもっと真面目に剣術を覚えておくべきだった。
俺はそう思いながらもフォールンさんに加勢する方法を考える。
一つだけ加勢する方法を見つける。
俺は紙をウエストポーチから三枚取り出し、書いてある魔法陣に魔力を流す。
まずは一枚。
手に持った紙が一枚消え、フォールンの足元に緑色の魔法陣が出現しフォールンの傷を治す。
だが、傷を治してもすぐにヴァイスのナイフはフォールンさんが来ている鎧の隙間から体に刺さり、爆発する。
フォールンさんは魔力操作術を使い爆発から体の内部まで守ったのか、死にはしなかった。
俺は手に持った紙をもう一枚使用し、フォールンさんの傷を治す。
その直後、なぜかヴァイス足元に魔法陣が出現しヴァイスの動きが止まる。
「クロエル、助かった」
フォールンさんは俺の方に駆け寄ってくる。
ひたいからは汗が流れ出ていて、限界が近いように見えた。
「なんでヴァイスは動きを停止したんですか?」
「俺の鎧を壊したからだ。俺の鎧は魔法陣が書かれている魔道具で、鎧が壊れると束縛魔法が発動するようになっているんだ。
普通の人間なら5分は動きを停止するんだが、ヴァイスはどうかわからない。
魔法が発動するまであと2分、それまで大人しくしていてくれたらありがたいんだが」
フォールンさんがそう言った直後、ヴァイスの足元にあった魔法陣にヒビが入り、魔法陣が消滅する。
「もう解放されるのか。クロエル、回復魔法で引き続き援護を続けてくれ」
「わかりました」
俺はポーチから紙を追加で4枚取り出す。
そして、ヴァイスに向かって走っていくフォールンさんを見て、急に名状しがたい不安を覚える。
「もう少し休ませて欲しかったな」
フォールンさんはそう言って剣をヴァイスに向かって振り下ろす。
だが、フォールンさんの剣はヴァイスには当たらなかった。
「お前、何をした?」
フォールンさんはそう言って地面に倒れる。
直後、フォールンさんの体はバラバラになった。
「次はお前らだ」
ヴァイスはそう言って、楽しそうに俺たちを見る。
俺は炎魔法を詠唱しヴァイスの体を焼く。
だが、ヴァイスは足を止めず笑いながらゆっくりと俺の方へと歩いてくる。
魔道士たちはまだ最後の希望の魔法にかけようとしているのか、魔法の詠唱を早め、騎士たちは剣を構え、ヴァイスに一斉に斬りかかる。
だが、ヴァイスは斬りかかる騎士たちを一瞬でバラバラにしてしまい、数十秒で死体の山を築き上げる。
俺は紙を大量に取り出し、魔力を流しヴァイスに色々な魔法で攻撃する。
だが、全てヴァイスには効かなかった。
「お前、本当にただのガキか?」
ヴァイスは俺の顔を見てそう尋ねる。
だが、俺にはなんでそう尋ねているのかわからなかった。
「普通お前みたいなガキはこんな状況になったら涙の一つでも流すはずだ。
だが、お前は涙を流すどころか命乞いすらしない。それどころか、お前の目からはまだ戦意が失われていない」
確かに言われてみれば不思議と恐怖を感じない。
それどころか、どうやったらヴァイスを殺せるか考えている自分がいる。
「‥‥‥もしかして、今魔道士たちが詠唱している魔法に希望を託しているのか? だったら、やめておけ」
ヴァイスがそう言った直後、また殺される錯覚を覚える。
俺はとっさに腕を噛み、意識を失いそうなところを堪える。
だが、魔道士たちは違った。
詠唱することに集中していたからか、何の抵抗もなく全員地面に倒れてしまう。
絶望的だと思った。
なのに目からは涙は出ず、恐怖も感じない。
「‥‥‥なんでお前の目からは戦意が消えないんだ。
お前はバカなのか? それとも自分は最強だとか思っているのか?」
ヴァイスはそういうが、多分どちらでもない。
俺は壊れているんだと思う。
この世界に来てから色々なことがありすぎて、死に対する恐怖や人を殺すことに対する背徳感がなくなっていったのかもしてない。
「まぁ、いいか」
ヴァイスは血がついたナイフを俺に向けてくる。
俺はウエストポーチから紙を取り出そうと手を入れる。
だが、ウエストポーチには魔法陣が書かれた紙が一枚しか入っていなかった。
正直、もう勝てる気がしない。
ユーフラは眠っているし、フォールンさんは殺された、王国騎士団の人たちはほとんど死に、生き残っていた人たちも意識を失い地面に倒れている。
「抵抗しないなら楽に殺してやるよ」
ヴァイスはそう言ってナイフを振る。
俺は死を覚悟した。
だが、一瞬だけフレアとセレナの顔が思い浮かぶ。
俺は足に魔力を集め、バックステップを踏みナイフを避ける。
ここで俺が死んだらフレアとセレナはヴァイスに殺されるだろう。
当然、王城内にも王国騎士団はいるだろうが、王国騎士団の団長が瞬殺されてしまったんだ、ヴァイスの前では時間稼ぎにしかならない。
守りたい人たちを守れずに死ぬのは嫌だ。
しかも、まだ打つ手は残っている。
俺は手に持っている一枚の炎を出現させることのできる魔法陣が書かれている紙にいつもより多く魔力を流す。
「‥‥‥そうか、じゃあ苦しみながら死ね」
ヴァイスは目で追えないほどの速度でナイフを振る。
俺は魔法陣を発動させる。
ここで発動させればヴァイスと俺は炎によって灰になるだろう。
だけど俺は魔法陣を発動させることに少しも躊躇しなかった。
俺は目を閉じた。
俺が打てる手は全て打った。
これでヴァイスが死ななければフレアとセレナが生き残ってくれることを祈るしかない。
‥‥‥数秒は立ったはずなのに痛みを感じない。
それどころか手を動かしている感触すらある。
俺はゆっくりと目を開ける。
目の前には警戒しながらナイフを構えているヴァイスがいた。
「お前、何の魔法を使った!」
ヴァイスの言っていることがわからない。
俺はただ炎を出現させる基本的な魔法を使っただけだ。
よく見ると、ヴァイスの左腕がなくなっていた。
「くそ!」
ヴァイスは俺に向かってナイフを投げてくる。
俺は手に魔力を集めナイフを弾こうと手を前に出す。
直後、俺の背後から青色の尻尾のようなものが俺の体を守る。
「なに、これ?」
後ろを見ると、腰から青い炎でできた狐の尻尾のようなものが9本生えていた。
「まだだ!」
ヴァイスはそう言って、ナイフを投げる。
俺の腰から生えている尻尾がナイフを弾き、俺を守る。
今までヴァイスはなにが起こっても冷静に対処していたが、今のヴァイスは焦っているように見えた。
しかも、ヴァイスの左腕はまだ再生しておらず、血が流れ出ていた。
ヴァイスはナイフを投げるのをやめ、俺に向かって走ってくる。
そして、懐からナイフを取り出し何度も高速で振る。
だが9本の尻尾が俺の体を包み込み、ヴァイスの攻撃から俺を守る。
「お前は何なんだ、その年でどうやったらこんなにも完成度の高い魔法を作れる」
ヴァイスは俺を睨みつけ、ナイフを振りながら尋ねてくる。
何者だと言われても、この世界ではただのロイル学園の生徒で、今使っている魔法も何なのか全くわからない。
俺はそれをヴァイスに伝えるとヴァイスは少し後ろに下がりナイフを投げ、俺の近くで爆破させる。
9本の狐の尻尾は俺を爆発から守り、爆発の炎で姿を隠し俺を攻撃しようとしていたヴァイスを攻撃する。
ヴァイスは口から血を吐き、よろける。
ヴァイスは苦しそうに尻尾が当たったところを手で抑える。
そこからは湯気が出ていて、大きな火傷跡ができていた。
しかも、その傷も左腕同様に数秒たっても治らない。
「お前、なにをしやがった!」
ヴァイスはそう言って俺を睨みつける。
俺にもよくわからなかっが、なぜかこの力の使い方がわかった。
俺はヴァイスの体に触れ、魔力を流し込む感覚で青い炎を流し込む。
直後、ヴァイスの体は内側から燃えヴァイスは叫びながらもだえ苦しむ。
俺は少し後ろに下がり、燃えているヴァイスを見る。
「殺してやる、殺してやる、絶対に殺してやる!」
ヴァイスは俺を恨みのこもった目で見つめ、数秒後には動かなくなり、燃えていた炎も消える。
それと同時に俺の腰から伸びていた青い炎の尻尾も消える。
「死んだ、のか?」
俺はヴァイスが死んだのか確認するために一歩前に足を踏み出す。
だが、一歩足を踏み出した直後、俺はバランスを崩し地面に倒れる。
指一本動かすこともできない。
しかも、だんだん目豚が重くなっていく。
多分、そろそろ俺は眠りについてしまうのだろう。
「これは、ずいぶん派手にやられましたねヴァイスさん」
俺は聞き覚えのない声が聞こえた直後完全に眠りにつく。
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