第15話 協力

 クロエルとヴァイスが戦った後の爆発跡地。

 そこには腰まで伸びる綺麗な紫色の髪をし、狐の耳のようなものが頭にあり、紫色の尻尾を9本生やしたフレアやセレナに負けず劣らずの美少女の姿があった。


 紫髮の少女は爆発跡地の中心に生き絶えたように眠っているクロエルに回復魔法をかけ、


主人あるじは少し頑張りすぎです。今の私にはこれぐらいしかできませんが、しばらく休んでいてください」


 紫髪の少女はそう言って、その場から青色の炎となって消える。


 クロエルの横にはクロエルの部屋にあるはずの魔法陣が書かれた本が落ちていた。



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天空かなたはさ、なんで私みたいな子と一緒にいてくれるの?」


 ここは笈色中学校おいしきちゅうがっこうの屋上。

 俺はそこで衣天いあと一緒に昼飯を食べていると、不意に衣天が尋ねてくる。


「なんでって‥‥‥」


 俺は衣天のことが好きだから、とは言えない。

 それを言うと今の関係が壊れてしまうかもしれないからだ。

 だけど、嘘はつきたくない。


「衣天と一緒にいると楽しいからかな」


「私といると、楽しい?‥‥‥そんなこと初めて言われた」


 衣天はただ無表情でそう言う。

 まだ衣天と出会って数ヶ月だが、多少の声の高さで衣天が無表情でも嬉しいか悲しいかわかるようになった。

 今喋った時は声が少し高かった、多分嬉しいのだろう。


「衣天は俺といると楽しい?」


「‥‥‥」


 衣天は逆に聞かれるとは思っていなかったのか、俺の顔を見て固まる。


「‥‥‥楽しいと言うか‥‥‥落ち着く」


 衣天は顔を少し赤く染め、そっぽを向いて言う。

 反則だ。

 可愛すぎる。


「あ、ありがとう」


「‥‥‥なんでお礼を言ったの?」


「え、いや、なんでもない」


 衣天は首を傾げ不思議そうに俺を見つめるが、すぐに手に持っていた昼飯の焼きそばパンを食べ始める。

 助かった。

 あのまま見つめられていたら、恥ずかしさで死ぬところだった。


「えーうそ、なんでこんなところにあいつらがいるの?!」


 屋上の入り口付近で、校則違反にもかかわらず髪を金に染め、耳にピアスをしたいかにもチャラそうな女子三人組がゴミを見るかのような目でそう言う。


「はぁー、どっか違うところ行こ」


 女子三人組はそう言って屋上から出て行く。

 その直後、衣天に制服を軽く引っ張られた。


「天空、ごめん」


 衣天はそう言って頭をさげる。

 衣天の体は震えていて、制服を掴む手には力がこもっていた。


「なんで衣天が謝るの? 衣天は何も悪くないでしょ?」


「ううん、いじめられた私をかばったばかりに天空まで嫌がらせを受けてるから。私なんかを助けなければこんなことにはならなかったはずだから」


「私なんか、なんて言わないの。俺は自分で選択して衣天をかばったの、その結果がどんなものであっても後悔はしないよ」


「‥‥‥ありがとう」


 衣天は焼きそばパンを一瞬で平らげ、どこかへ行ってしまう。

 ‥‥‥俺、何かしたかな?


 俺は食べていた焼きそばパンをすぐに平らげ、衣天を追いかけようとするが、足が動かない。

 それどころか、体の自由も効かない。


 何が起こっているんだ?


 だんだん瞼が重くなっていく。

 数秒後には完全に目を閉じる。


「起きて」


 俺は体を激しく揺さぶられ、目が覚める。

 目を開けると目の前にはガタイのいい男がいた。


 夢、だったのか。


 いきなり名状しがたい喪失感に襲われる。

 俺の目から涙が大量に溢れていく。


「君、大丈夫?」


 目の前の男はガタイに似合わぬ優しい顔でそう言う。

 俺はそれを聞き我に返り、涙をボロボロになった袖で拭き取る。


「大丈夫です」


「そうか、なら良かった」


 男の服をよくみると王国騎士団の団員だけが着ることの許されている服を着ていた。


「あなたは王国騎士団の方ですか?」


「ああそうだよ。そういえば自己紹介がまだだったね、俺は王国騎士団団長のフォールンだよろしく。

 君のその黒髪はもしかしてクロエルくんかな?」


「はい。俺の名前はクロエルです。こちらこそよろしくお願いします」


「やっぱりか、話はセレナ様とユーフラから聞いてるよ、相当強いんだってね」


「いえ、俺はまだ未熟者ですよ。ヴァイスと戦って負けましたし」


 俺はそう言った後に服がこれだけ破れているのに体に火傷跡や痛みがないことに気づく。


「ヴァイスと戦ったのに生きてるの?!」


「はい、なんとか。‥‥‥話は変わるんですけど、フォールンさんは体全体の火傷を治すことはできますか?」


「俺はできないかな、俺の魔法系統は攻撃系だから回復魔法は苦手だしね」


「そうですか」


 フォールンさんが違うなら、俺の魔力操作術が間に合ったのか?

 いや、それなら気絶なんてしないはずだ。


「そういえば、この本って君のかな?」


 フォールンさんは寮の部屋に置いてあるはずの本屋で買った魔法陣が書かれた本を俺に見せる。


「倒れてた君の横に置いてあったんだけど」


 もしかしたらこの本が回復してくれたのかもしれない。

 いや、さすがに本がひとりでに動くとは考えにくい。

 もし動けたのなら助けなんて呼ばなくても、時期に閉店する本屋から逃げ出せていたはずだ。

 けれど、ヴァイスが俺の傷を治していったとも考えづらい。


「もう一度聞くけどこれは君の?」


「はい、そうです。拾ってくださりありがとうございます」


「それならよかった」


 俺はフォールンさんから本を受け取る。

 フォールンさんは俺が本を受け取ると、じっと俺を見る。


「な、何か?」


「‥‥‥あ、いやなんでもないんだ」


「そうですか、では俺はこれで」


 俺は寮の部屋にある魔法陣が書かれた紙を取りに寮に向かって歩く。


「待ってくれ」


 いきなり呼び止められた。


「君みたいな子供にお願いするようなことじゃないんだけど‥‥‥俺たち王国騎士団と一緒にヴァイスと戦ってくれないか?」


 フォールンさんは真剣な顔で言う。


「ヴァイスを倒すための作戦はあるんですか? 去年戦ったあなたなら知っているとは思いますが、ヴァイスには異常なほどの回復能力があるんですよ?」


「ああ、知っている。だから各地の魔法研究者達を集めてその異常な回復能力をなくす魔法を開発した」


 フレアが言うに新しい魔法を作るには人間の技術では五年はかかると言っていた。

 けれど、フォールンさんが嘘をついているようには思えなかった。

 それに、あの異常な回復能力がある限り俺だけではヴァイスに勝てないだろう。


「その話が本当なら協力させてもらいます」


「そうか、そう言ってくれるとありがたいよ。じゃあ、早速だけど一緒に来てくれ、作戦内容と作戦を実行するためのメンバーを紹介する」


 フォールンさんはそう言って、学園校舎の方へと歩いていく。

 俺はフォールンさんの後を追い、学園校舎に向かって歩く。

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