第14話 ヴァイス
「はぁ、はぁ、なんであいつがここにいるの?!」
ここはロイル学園小等部の校舎の中。
フェイリは廊下を走っている。
そんなフェイリを追いかけている紫髮の男の姿があった。
フェイリは男から必死に逃げる。
だが、校舎の中は男から逃げるのには狭すぎた。
フェイリはすぐに壁際に追い詰められ、男は鈍く光るナイフを手にする。
「もうこうなったら戦うしかない」
フェイリは炎魔法を詠唱する。
直後、フェイリと男の間に炎の壁ができる。
「どう? さすがのあなたでもこれなら容易に近づけないでしょ」
フェイリはそう言うが、男は炎の壁になんの躊躇もなく突っ込んでくる。
「なっ!」
男はフェイリの首を片手で締め上げ、喉にナイフを突きつける。
「お前はここで死んでもらう」
そう言って男はナイフを振る。
(やだ、まだ死にたくない。父上、助けて)
フェイリは心の中で助けを求め、目を瞑る。
男が持つナイフがフェレルの首に当たる直前、風魔法の詠唱が聞こえ、フェイリと男のほんの小さな隙間に緑色の魔法陣が出現し、男を風で後方へと吹き飛ばす。
男はそのまま後方へと吹き飛ぶ。
そして、男が吹き飛ばされた先に立っていたクロエうが、魔力を集めた拳を構えていた。
「朝からお前を見つけられるとは思ってなかったぜヴァイス!」
クロエルは魔力を集めた拳でヴァイスを本気で殴る。
バキバキバキと鈍い音を出しながらヴァイスは壁を突き抜け外へ放り出される。
「な、なんでここにあなたがいるの?」
フェイリはクロエルにそう尋ね、気絶する。
「それは後で説明します。今は寝ていてください」
クロエルはフェイリに回復魔法をかけ、ヴァイスの後を追う。
フェイリがヴァイスに襲われる少し前。
「もう朝かぁ」
俺は窓の外に見える青空を見て呟く。
フレア達と別れた後からの出来事を思い出せない。
確かフレア、ユーフラと別れた後俺は紙に魔法陣をひたすら書いていた。
最初のうちは魔法陣を一つ書くのにだいぶ時間がかかっていて、朝までに50枚書き終わらない気がするなと思っていたが、書いている内にどんどん書くスピードが上がり、50枚書き終えた時間は覚えていないが意外に早く終わったところまでは覚えている。
問題はそれからだ。
その先のことで、覚えているのは何か魔法陣をいじって遊んでいたことぐらいだ。
証拠に俺の部屋の半分が何かよくわからない植物に覆われていて、ジャングル状態になっていた。
それ以外にも宙に水球がたくさん浮いていたり、部屋の隅の方に竜巻があったりなど色々とやばい状況になっていた。
これ、どうしよう。
てか、なんでこんな状態になってるのに俺は気づかなかったんだろう。
さすがにこの部屋の有様を誰かに見られるのは不味い。
確か魔法陣を壊せば発動された魔法は消えるはずだから紙を破けば元どおりになるはずだ。
俺は明らかにこの状態を作っているだろう見たこともない魔法陣が書かれた紙を部屋の中から探し出し破き捨てる。
直後、部屋にあった植物や水球、竜巻が光の粒子になって消えていく。
フレアがこれを見たら喜ぶんだろうなと思いながら消えていく光の粒子を見る。
「クロエル、学園に行こうよ!」
光の粒子が全て消えたすぐ後に部屋の扉が開き、フレアがそう言う。
危ない、もう少し遅かったらフレアに見られるところだった。
しかも、なんでこういうときに限ってフレアはノックを忘れるのだろうか。
「ごめん、今起きたところだから先に行ってて」
俺はフレアを先に学園に行くよう促し、学園に行く準備をする。
学園に着くと、校舎の上の方で魔法の詠唱が聞こえた。
気になって風魔法で体を校舎の3階まで打ち上げる。
そこで俺はフェイリ王女がヴァイスの特徴にそっくりな男にナイフを突きつけられている光景を目にする。
俺はとっさに窓を突き破り、風魔法を詠唱する。
「朝からお前を見つけられるとは思わなかったぜヴァイス!」
俺は拳に魔力を集め、風魔法で俺の方に飛ばされてくるヴァイスを本気で殴り、窓の外に殴り飛ばす。
だが、感触が変だった。
確かに殴ったはずなのに、あまりダメージを与えられていない気がしたのだ。
早めに追い打ちをかけたほうがいい気がする。
俺はフェイリ王女に回復魔法をかけ、ヴァイスの後を風魔法を使って追う。
ヴァイスが飛んで行った方にひたすら進むと、学園の敷地を囲む壁に人の形をした凹みを見つける。
だが、凹みにはすでに何も埋まってなかった。
俺は辺りを見回す。
すると、少し離れた草むらからガサガサと音がする。
俺は魔法陣に魔力を流し、球状の水を高速で飛ばす。
「チッ」
草むらの方から舌打ちする音が聞こえたかと思うとヴァイスは草むらから飛び出し、俺に向かってナイフで切りかかってくる。
俺はそれを避け、切りかかってくる勢いを使い背負い投げで地面に叩きつける。
そして、そのまま関節技に持っていきナイフを持っていた右腕を折る。
「おとなしくしろ、さもないとここで殺す」
俺は拳に魔力を集めながらヴァイスの頭の上に置く。
「そんなもので俺を倒せると思っているのか?」
ヴァイスから異様な気配を感じ、俺は反射的に拳をヴァイスの頭に落とす。
直後、ヴァイスは顔から地面に衝突し、頭が地面に埋まる。
ヴァイスの頭が埋まっているところからは大量に血が出ていて、普通の人間だったら完全に死んでいてもおかしくない出血量だった。
けれど何かが引っかかる。
王国騎士団がほぼ壊滅状態になっても捕らえられなかった男がこんなにあっさりと負けるなんてどう考えてもおかしいとしか思えなかった。
王国騎士団がものすごく弱かったら話は別だが、多分そんなことはないだろう。
なぜなら、フレアを連れて牢屋から逃げ出した時に助けに来た王国騎士団の団員たちはしっかりと連携が取れていて、なおかつそこそこ実力はあるように見えたからだ。
気がかりなのはそれだけではない。
最初に俺が与えた魔力を集めた拳の一撃を食らって、壁に型が残るほど強くぶつかった、にもかかわらずヴァイスの体には負傷した形跡がない。
しかも、一番気がかりなのは俺がヴァイスの頭の上に拳を置いた時にヴァイスが喋った言葉だ。
ただの強がりであればありがたいんだが、どうにもただの強がりとは思えない。
それに、拳を落とす前に感じたあの異様な気配はなんだったのか、気がかりな点がこんなにもある。
「はい、死んだ」
いきなりヴァイスの声が聞こえ、首を撥ねられる。‥‥‥という錯覚を覚える。それと同時に意識が飛びそうになるのを唇を噛みきって堪える。
「へぇ、これで意識が持った人間は久しぶりに見た」
ヴァイスは顔を地面から抜き、気味の悪い笑顔でそう言う。
しかも、ヴァイスの顔の傷は完全にふさがっていて折れているはずの右腕でストレッチをし始める。
「お前、本当に人間か?」
「元人間だ」
「元ってことは今は人間ではないのか?」
「そうなるな。それと、まだ戦いを続行するか? 俺としてはこの国の特別才能保持者と有力者を殺せればそれでいいんだが」
「フェイリ王女を助けた俺がそれを許すとでも思っているのか?」
「それもそうだな。じゃあ、俺も本気で行くとしよう」
ヴァイスはそう言って、ナイフを地面から拾い上げる。
俺は魔法陣が書かれている紙を4枚指に挟み、いつでも発動できるようにしておく。
「まだ伸びそうな子供を殺すのはもったいない気がするが、楽に死なせてやろう」
ヴァイスはナイフを投げる。
俺はそれをかわし、ヴァイスを攻撃しようと動こうとした瞬間。
「ドゴォォン」
ナイフが爆発した。
俺は魔法陣に魔力を流し、水を出現させ、爆発から自分の身を守る。
そして、体を守っている水魔法が消えると同時にまた違うナイフが飛んでくる。
俺はそれを炎で焼き払い、闇魔法で視界を暗くし光魔法で辺り一帯を光で包み込む。
そして、魔力を拳に集め、光で視界が見えないであろうヴァイスに殴りかかる。
「はい、お疲れ様でした」
ヴァイスは着ている上着を脱ぎ、目が見えていないであろうにもかかわらず俺にかぶせる。
何かと思って見ると、そこには大量のナイフがあった。
俺はとっさに体全体に魔力を集める。
「死にな」
ヴァイスの一言で上着についていたナイフが一斉に爆発する。
全身に激痛が走る。
どうやら間に合わなかったようだ。
けれど、痛かったのは一瞬だけで痛みがなくなった後は体の全機能が停止したかのように動かない。
俺は、死ぬのか?
クロエルの意識はその疑問を抱いた直後に途絶えた。
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