第13話 第一王女
ロイル学園に入学してから4ヶ月が経った。
季節は春から夏へ、夏から秋へと変わる。
俺は今セレナと一緒に図書室地下のフレアの部屋で勉強をしている。
「クロエル、来週には年二回のテストがあるけど勉強した?」
セレナが教科書を見ながらつまらなさそうに尋ねてくる。
「一様勉強はしてるよ、セレナは大丈夫なの?」
「クロエル達と勉強してたら嫌でもいい点取れちゃうよ」
セレナはそう言って微笑む。
「それよりさ、剣術テストもあるから身体動かしに行こうよ」
「いいよ、フレアが戻ってくるまでまだ時間があるし」
「やったー、じゃあ早く行こ!」
セレナは嬉しそうに笑う。
「一応フレアが来た時ように書き置きしておくから先に行ってて」
セレナは「わかった」と言って試合をするときに使っている東校舎一階の運動用の教室に走っていく。
俺は今日授業で使った紙の使わなかったところを綺麗に破き(東校舎一階の教室でセレナと試合して来ます)と書いて机の上に置き、東校舎一階の教室に行く。
教室に入るとセレナ以外に見知った顔がいくつかあった。
ガルドとインドラだ。
二人は真剣な顔付きで練習用の木の棒を撃ち合っていて、まだ俺がこの教室に入って来たことに気づいていないように見える。
「クロエル、はいこれ」
セレナに木の棒を投げられ俺は反射的にそれを掴む。
それと同時にガルドとインドラが木の棒を打ち合うのをやめ、俺の方を見る。
「これはこれは、平民のクロエルくんではないですか」
最初に話しかけて来たのはインドラだった。
インドラは俺を煽るかのような口調で話しかけてくる。
「はい、何でしょうか?」
「いやいや、平民のくせに僕たち貴族が先につかているのにこの場所を使うのかな、と思っただけです」
インドラはどうやら俺にここを使わせたくないようだ。
「何言ってるの? ここは放課後はみんなが使っていいところなんだから君にここを使わせないなんていう権限はないでしょ?」
インドラに反発したのはセレナだった。
さすがに
「さ、私たちも早く試合しよ」
俺はセレナに促され、試合を開始する。
セレナとの試合は30分ほどで終わった。
試合は俺の勝ちで、セレナは悔しそうにしたが楽しかったと言って喜んでいた。
それから俺とセレナは図書室地下のフレアの部屋に戻る。
フレアの部屋の扉を開けるとフレアが机の上に本を広げて勉強していた。
「あ、クロエル、セレナちゃんおかえり」
「「ただいま」」
「はい、二人とも水。これ飲んだら勉強しよっか」
フレアはそう言ってコップ一杯の水を渡してくる。
俺はそれを受け取り、来週のテストに向けて勉強する。
一週間後。
今日は年二回のテスト当日だ。
いつもと同じく朝早くから教室に入る。
普段はこの時間に教室にいるのは俺かフレアかセレナだけなのだが、今日はテスト当日だからかすでにクラスメイトの半数以上が教室の中にいた。
「あ、クロエルおはよう」
フレアが俺を見つけて「おはよう」と言ってくる。
すると、教室内にいる他の生徒たちが目を見開いて俺の方を見る。
なぜだろう?
「ねぇ、邪魔なのだけれど」
後ろから少女の声がする。
振り向くと、そこにはまだこの教室で一回も見たことのない腰まで伸びた青色の髪と透き通るような青色の目をした少女が立っていた。
どうやら、生徒たちの目線は彼女に向けられたものだったらしい。
「あなた、私が誰だか知っていて私の邪魔をしているのかしら?」
「‥‥‥あ、すいません。今どきますね」
俺は青髪の少女に道を開ける。
「父上に気に入られてこの学園に入学したのだから、私にはもっと敬意をひょうしなさい」
ん、今この娘は父上といったのか?‥‥‥もしかしてこの娘はリュミラ王の娘なのか?!
「あ、それと今日のテストの点数が悪かった場合、退学させますから」
青髪の少女は去り際にそう言って教室の後ろの方の席に座る。
陽気なリュミラ王と違い、この少女はクールなようだ。
俺はいつも座っている席に座る。
「クロエル、フェイリ王女になんて言われたの?」
俺が席に座るとフレアが心配そうに尋ねてくる。
「今日のテストの点が悪かったら退学にさせるから、だって」
「なんだぁ、それなら全然大丈夫だね。クロエル頭いいから」
フレアは安心したのか、胸に両手を当て「ふぅ」と言う。
フレアは他の生徒や先生に俺が何か言われると必ずこうして何を言われたのか心配そうな目で尋ねてくる。
心配してくれるのは嬉しいのだが、さすがに心配しすぎだと思う。
「そういえば今日はセレナ見ないけどどこにいるの?」
「セレナちゃんは最近街で起こった事件の調査チームに護衛として呼ばれてて、今日のテストは免除だから多分今日は学園にこないと思うよ」
セレナは6歳の時点で護衛として既に働いているのか。
最近はあまり感じていなかったが、やっぱりこの世界は日本とは全く違う世界なのだなと実感させられる。
まぁ、セレナのことだから余程のことがない限りは傷を負うこともないだろう。
「今からテストに関しての説明をするから静かにしろ」
フレアと喋っていたから気づかなかったが、いつのまにかユーフラが大量の紙を抱えて黒板の前に立っていた。
ユーフラは大量の紙を机の上に置き、テストを受ける時の注意点などを説明する。
中学の定期テストの時も教師が毎回こう言う風に説明していたなと思いながら説明を聞く。
そして、説明が終わるとユーフラは問題用紙と解答用紙を配り、テストが始まる。
テストが全て終わった放課後。
「クロエル、今日のテストできた?」
フレアがそう尋ねてくる。
「できる限りの事はしたよ」
解答欄は全て埋めて、問題も特にわからないものはなかったが、文字を書き間違えていたりとかしている可能性があるため、一応控えめに言っておく。
「じゃあ、後は結果が出るのを待つだけだね」
「そうだね」
俺は帰る用意をして、フレアと一緒に図書室へ向かう。
教室を出るときにリュミラ王の娘に睨まれていた気がするが、多分気のせいだろう。
「おかえり」
図書室地下のフレアの部屋の扉を開けると、既にセレナがいた。
「あれ、なんでセレナちゃんがここにいるの?」
「んーと、実はクロエルにお願いがあって来たんだ。
クロエルは今日私が街で起こった事件の調査チームの護衛をしていたことは知ってる?」
「知ってるよ」
「じゃあその事件はどう言う事件なのか知ってる?」
「それは知らない」
「大量殺人事件。まだ国も正式には発表してなくて限られた一部の人間にだけ伝えてることなんだけど、その犯人が今日の調査で分かったんだ。
だけど、その犯人の名前がねヴァイス、別名狂気の殺戮者」
セレナは深刻な顔で言う。
フレアはその名前を聞くと同時に顔から血の気が失せ、体が震えている。
狂気の殺戮者とか名前からしてやばいが、セレナがこんな深刻そうな顔をして、フレアは名前を聞くだけでここまで怖がるなんて相当やばいやつなのなだろう。
「クロエルは知らないと思うけど、去年の四月ごろに街を巡回していた兵士たち十人が城の門にロープで吊るされていた事件があったの。
しかも、その兵士たちは全員両腕と足の位置が変えられ、お腹が割かれ、お腹には口から腸が出ている兵士の顔が埋め込まれていた。
当然リュミラ王も王国騎士団を使ってヴァイスを捕らえようとした。
でも、ユーフラと騎士団の団長と騎士団所属の騎士八人しか王国には戻らず、しかも全員重症を負わされていた。
騎士達が城に戻った次の日には、門に吊るされていた兵士たちと同じように騎士たちが門に吊るされていた」
さすがに寒気を覚える。
しかも、ユーフラと戦ったことはないが、見ただけで強いとわかるユーフラ、それにユーフラが「私より強い」と言っていた騎士団の団長を含めた騎士達が全員重症を負わされるなんて相当の手練れだろう。
「で、俺には何を頼みたいの?」
「クロエルにはこの学園の生徒達、先生達を守ってもらいたいの。
一応ユーフラと王国騎士団の騎士たち数名がこの学園を守ってくれるって言う話にはなってるけど、いくらユーフラがいても正直全滅すると思うから。
私はリュミラ王を守るためのチームに編成されたからこの学園を守ることなんてできないから私に勝ったことのあるクロエルに頼みたいんだ。ダメかな?」
俺は少し考える。
「いいけど、条件がある」
「なに?」
「もしそのヴァイスってやつがリュミラ王を殺そうと城に潜入して来たとき、セレナが命の危険を感じたらリュミラ王を見捨ててでも逃げること。
それができなかったら引き受けない」
「‥‥‥分かった。だけど逃げるときはリュミラ王も一緒」
「セレナが助かるならそれでいい」
俺はセレナの頼みを引き受け、ヴァイスについて詳しく教えてもらう。
教えてもらって分かったのはヴァイスは男で元ニルバーナ王国という王国の騎士だったこと。
それが、十年前に出現した超凶悪モンスター討伐作戦で行方不明になっていたこと。
それが去年の4ごろにいきなりリュミラ王国に現れて兵士、街の住民達を殺して行ったことだ。
疑問が残るのはなんで十年前に行方不明になったヴァイスが去年いきなり、しかもニルバーナ王国とは違うリュミラ王国に現れて大量殺人事件を引き起こしたのかだ。
去年の五月から今に至るまで事件が起こらなかったのは王国騎士団が与えたダメージを回復していたのだと推測できる。
これは寮に戻ったら一度作戦を何個も立てておいた方がよさそうだ。
「じゃあ、私はそろそろ城に戻るね。あと、フレアは今日からしばらくユーフラと寮で暮らすことになってるから」
「え、なんで?」
「ヴァイスが城を襲う確率の方が高いからフレアは城に戻らずに寮にしばらくいた方が安全だとリュミラ王が考えたからだよ。それじゃあね」
セレナはそう言って部屋から駆け足で出ていく。
魔力操作術を使ったのか、扉から外をのぞいたときにはすでにセレナの姿はなかった。
「じゃあ今日はユーフラを連れて早めに帰ろっか?」
「うん」
俺はフレアと一緒にユーフラの元まで行き、一緒に寮へと戻る。
あたりは夜の闇に包まれ、空に浮かぶ月と大量の星達が綺麗な光を放っている深夜1時。
俺は学園の敷地の端の方で魔力操作術の特訓をしていた。
拳に魔力を集め、軽く地面を殴る。
やはりドゴォォンと大きな音を立てて地面に亀裂が入る。
音は光属性魔法の防音魔法で外には聞こえづらくなっているが、さすがにここまで音がでかいと他の人に聞こえてしまうのではないかと思ってしまう。
さすがにここまで破壊力が高かったら対巨大モンスターぐらいにしか使えないな。
しかも、ヴァイスは人間で戦う場所は学園の中。
学園の中には当然生徒達がいたるところにいるわけで、俺が頼まれたのはあくまで生徒達を守ること。
これだけ破壊力があっては建物を壊したときに生徒達が怪我をする可能性もある。
守るべき人たちが怪我をしては元も子もない。
集める魔力をもう少し少なくしてもう一度やってみるか。
俺は何発も拳に魔力を集めて地面を殴る。
そして、何発も地面に拳を叩き込んでいてわかったことがある。
それは、魔力を集める時間が長ければ長いほど威力は高くなり、セレナは集めた魔力を継続して使用できるが、俺の場合は一回の攻撃で集めた魔力全てを放ってしまうらしく、一度攻撃がハズレでもしたらもう一度魔力を貯めるために少しだけ時間が必要になると言うことだ。
ヴァイスがそこまで強くなければ別に弱点になどならないが、話を聞く限り相当強いことがわかる。
どうしたものか‥‥‥
「防音魔法が使われてるからまさかとは思ったけど、クロエルはこんな時間まで何してるの?」
体を動かして薄着になっている俺とは違い、温かさそうな服を着たフレアが尋ねてくる。
「魔力操作術を完璧に使いこなせるようになりたくて特訓してるんだ」
「そうなんだ、でもその地面の亀裂を見ると、あまりうまくいってないんだね」
「そうだね、何回もやっても力加減ができなくて威力を弱めることもできないんだ」
「‥‥‥じゃあさ、魔力操作術は諦めて魔法陣を使った戦闘をして見たら?」
‥‥‥魔法陣式は手間がかかるから戦闘には向かないのではないか?
「詠唱式じゃなくて魔法陣式を使うの?」
「うん。紙か何かに魔法陣を書いて、それを何枚もストックしておいて、いざという時に魔力を流し込んで発動させるの。
この使い方だったら戦えるんじゃないかな?」
確かにそうだ。
フレアの言った通り、初めから魔法陣を書いておけば、詠唱する時間を短縮できたり、満足に扱えない魔力操作術を使うよりよっぽどいい。
だけど一つ問題がある。
「フレアの案はいい案だけど、魔法陣を書くための紙がないんだよね」
「それなら私が今使ってる寮の部屋にたくさん有ったから持っていくといいよ」
「いいの?」
「うん。クロエルに守ってもらうんだから私なりに手助けしたいから」
「ありがとう」
「お礼を言うのは私の方だよ。本当はクロエルは
フレアは悲しそうな笑顔でそう言う。
「あのねフレア。俺がこの仕事を引き受けた訳は、フレアを守るためなんだよ」
「‥‥‥そんなこと言うなんて、ずるい」
フレアは泣く。
それはもう年相応に泣きじゃくる。
大人びていてもフレアはまだ6歳の少女なのだ。
俺はフレアが泣き止むまで頭を撫でてやった。
しばらくしてフレアは泣き止む。
「じゃあ、そろそろ戻ろっか。ユーフラさんが探してるかもしれないから」
「うん」
俺は木属性魔法で地面を直し、フレアと一緒に寮に戻る。
寮に戻るとあんのじょう、ユーフラがフレアを探していた。
「勝手にいなくなったのは謝るから、そろそろ離してくれるかな?」
「嫌です。私を心配させた罰としてしばらくこの体勢でいます」
ユーフラはフレアに抱きついている。
「ユーフラにお願いがあるんだけどさ」
「なんですか?」
「部屋にいっぱい有った紙をクロエルに分けてあげたいんだけど、持ってきてくれないかな?」
意外だった。
フレアのことだから自分で取りに行くと思っていた。
俺は今日初めてフレアが人を使っているところを見た気がする。
「わかりました」
ユーフラはそう言ってフレアを離し、寮の中にかけてゆく。
‥‥‥何でフレアがユーフラを使ったのかわかった気がする。
「フレア様お持ちしました」
ユーフラは一瞬で戻ってきて、大量の紙を俺に渡す。
「これぐらいで大丈夫?」
「うん、助かるよ」
「それならよかった。じゃあ、私はもう寝るね。おやすみ」
「おやすみ」
俺はフレアと別れて、大量の紙を部屋まで運び、紙に魔法陣を書いて行く。
今日は50枚ぐらい書いたらもう寝よう。
そう思いながらひたすら魔法陣を書き続けた。
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