第12話 スサノオ

 昼飯を食べ終わり、フレア、セレナと一緒に一年の教室に戻ると、教室にいた生徒達の目線が一気に俺に集まる。


「4時間目の授業のせいですっかり人気者だね」


 セレナが小悪魔のような顔をして微笑む。

 確かにガルドとの試合で両腕を折ったが、ここまで注目されるとは思わなかった。

 あまり目立たないつもりだったんだけどなぁ。


「まぁ、私に勝ったんだから学校中から注目されると思うよ。

 注目のされ方は色々あるだろうけど」


 ‥‥‥ん、この注目はガルドをボコボコにしたからではないのか?

 確かにセレナは強かったけど、特別才能保持者とかでもない限り‥‥‥


「もしかして、セレナって特別才能保持者?」


「そうだよ‥‥‥もしかして、気づいてなかった?」


 セレナの答えによって、セレナと試合する前に生徒達がざわついた理由と何でこんなに注目を浴びているのかがわかった。

 もうこれ、できるだけ目立たずに学校生活を送ることなんて不可能じゃないか?


「私は魔力の量が多くて、この国一魔力操作術を扱うのが上手くて、王国騎士団の騎士よりも強いから特別才能保持者スサノオっていう称号を持っているんだ」


 さらば穏やかな学園生活。

 そしてようこそ、あまり気の進まない学園生活。

 もう目立たないよう手を抜くのはやめよう。

 こうなりゃ剣術も学問も本気でやってやる!


 それにしても、アマテラスにスサノオとなんで有名な日本の神様の名前が称号につけられているのだろう?


 それに、セレナは特別才能保持者で俺と同い年ってことはフレアと同じ立場で同い年ってことだよな?

 牢屋にいた時も今日の朝もそうだったけど、なんでフレアは同い年と喋ったのが久しぶりとか、気楽に喋れるのはクロエルだけとかいうのだろう?


「フレアとセレナは友達じゃないの?」


 フレアとセレナは気まずそうな顔をする。

 なんかまずいことでも聞いてしまったのか?


「普段は特別才能保持者同士は城内でも滅多に会えなくて、会えたとしても城内だから敬語を使わなくちゃいけないせいで、セレナちゃんとこんなに楽に話せたのは今日が初めてなんだよね。


 それに私は普段からこの学園内にある図書室に籠ってて、セレナちゃんはいつも王国騎士団の人たちと実戦形式の試合をしてるから、今日は二年ぶりぐらいに会話したかな」


 フレアは嬉しそうに言う。

 俺から言わせてみれば些細なことだが、そんな些細なことでも嬉しいと感じるほど窮屈な生活を送っているのだろう。


 どうにかしてやりたいが、俺にそんな力はない。

 そんな自分が本当に嫌になる。


 しかも、今から二年前だとフレア達は4歳だ。

 その時からすでにフレア達は息苦しい生活をしていようだ。

 せめて学園内では気楽に過ごしてほしいな。


「あと5分で授業が始まるので、生徒の皆さんは教室に戻ってください」


 教室の天井に灰色の魔法陣が出現し、そこから声が聞こえる。

 これも魔法なのだろう。

 ‥‥‥もしかしてセレナはこの魔法を使って昼飯を保健室に持ってくるよう連絡したのか?


「もしかして保健室で言っていたあの方法ってこの魔法のこと?」


「似てるけど、少し違うかな。私が使ったのは喋った内容を伝えたい人に送る魔法だよ。

 まぁ、喋った内容を全て伝えちゃうからあまり使い勝手が良くないんだけどね」


 ああ、だからメイドに睨まれたのか。


「あ、ガルドが教室に入ってきたよ」


 セレナはそう言って教室の入り口を指差す。

 そこには見ているだけでもイラついているとわかるガルドの姿があった。


 ガルドは俺と目があうと同時にこちらに向かって歩いてきた。


「フレア様、先ほどはすみませんでした」


 ガルドは頭も下げずに棒読みでそれだけ言って、離れた席に座る。

 ‥‥‥もう一回痛めつけてやろうかな?

 てか、あれは謝る奴の態度じゃないだろ。


「ねぇ、クロエル。一緒にガルドの全身の骨折らない?」


「それ名案だね」


 俺は拳に魔力を集める。


「ちょ、ちょっと二人とも! 謝ってくれたんだから抑えて抑えて」


 フレアは慌てて止める。

 まぁ、フレアがいいのなら今回だけは見逃してやろう。

 だけど、


「フレア、優しいのはいいことだけど、少しは自分のことを気にしてね」


「クロエルの言う通り。フレアはもっと怒っていい」


「べ、別に大丈夫だよ」


 フレアは本当に優しい。

 だが、優しすぎるのもどうかと思う。


「えー、それでは授業を始めます」


「あ、ほら、先生きたよ」


 まだ言いたいことはあるが、先生が来てしまったのなら仕方がない。

 今回はもう何も言わないでおこう。


 それから6時間目まで授業を受けた。

 授業が終わると、ユーフラが教室の中に入って来て黒板の前に立ち「帰る準備をした者から帰っていい」とクラス内の生徒に伝える。

 それを聞いた生徒達は今日もらった教科書などをカバンに入れ、教室から出て行く。


 あっという間に教室に残るのは俺とフレアとセレナだけになる。


「この教室で勉強するとユーフラに迷惑がかかるから図書室に行こ」


「わかった」


 フレアは荷物を持ち、教室を出る。

 俺はその後をついて行く。

 この時もなぜかセレナがついてくる。


「セレナも図書室に用事があるの?」


「クロエル達といると楽しいからついて行くだけだよ。

 城内に戻っても寝るか勉強する以外にやることないから。

 ダメなら城に帰るけど」


 やっぱりセレナも特別才能保持者だから友達はいないのだろうか?

 もしそうなら何かきっかけを作ってやることができるといいのだが。


「全然大丈夫だよ。むしろ文字を教えてくれるとありがたいかな」


「うん、わかった」


 セレナは本当に嬉しそうに微笑む。


「二人とも、そろそろ着くよ」


 フレアが指をさした先には木でできた大きな扉があった。

 多分、あの扉の奥に図書室があるのだろう。


「早く入ろ」


 俺、フレア、セレナは扉を開ける。


 中はもはや図書館と呼んでいいほど広く、大量の本棚と本が置かれていた。


「ついて来て、リュミラ王から貰った私専用の部屋があるから」


 俺、フレア、セレナは図書室の隅の方にある地下へと続く階段を降りる。

 降りた先にはたくさんの部屋があった。

 部屋の扉には文字の書いてある掛札がかけてある。

 読めないが多分、部屋の使用者の名前だろう。


「着いた、ここが私が貰った部屋」


 フレアの部屋は入り口からあまり離れていない場所にあった。

 そして、この部屋の扉にも同じように掛札がかけられていた。


「あまり片付いてないけど、適当なところに座ってて、何か飲み物持ってくるから」


 フレアは扉を開けてそう言うと、部屋の中にある台所のような場所に歩いて行く。


 この部屋は今俺が住んでいる寮の部屋や城内にあるフレアの部屋みたいに広くはなく、日本の一般家庭の家の中の部屋と同じぐらいの広さだった。

 なんだか、日本で住んでいた家の自分の部屋と同じぐらいの大きさだからか少し落ち着く。

 やっぱこれぐらいの部屋の大きさが一番居心地がいいな。


「二人とも水しかなかったけどいい?」


 フレアが水の入ったコップを持って、訪ねてくる。


「俺は大丈夫」


「私も平気」


 俺はフレアから水を受け取り、机の上に置く。


「クロエルは文字が読めないんだよね。算学の内容とかは理解できるの?」


「授業の内容は先生の話を聞いたからわかるよ」


 そりゃ元高校生が一桁の足し算がわからなかったやばいだろ。


「わかった。じゃあ、この紙を見て」


 フレアはそう言って一枚の紙を見してくる。

 そこにはたくさん文字が書かれていて、フレアはその文字の読み方を全て教えてくれる。

 しかも、何度聞いても嫌がらず覚えやすい覚え方などを考えてくれる。

 日が沈むまで、俺はひたすらこの世界の文字を暗記した。


 フレア達との勉強が終わり、寮へ戻る。

 そして、この世界の文字をもう一度復習する。


 この世界の文字は形がいびつで覚えるのに苦労したが、フレアの丁寧な説明と、セレナの面白く覚える方法でなんとか今日一日で覚えられた。

 フレアとセレナには今度何かお礼をしよう。


 俺は今日覚えた文字を復習してから寝た。



「クロエル様、5時です。起きてください」


 寮の管理人の声で目がさめる。

 体を動かそうとすると痛みが走る。


「痛っ」


 思わず声に出てしまう。

 昨日、あれだけ動いたから多分筋肉痛だろう。


『我が主人あるじの体の痛みをなくせ、キュア』


 ベッドの横にある棚の中に入れて置いた本やで買った本から声が聞こえる。

 直後、俺の体全体を覆えるほど大きな緑色の魔法陣が出現し、体の痛みを消す。


「これ、君がやってくれたの?」


 ‥‥‥本からは返事がない。


「もしそうだったらありがとね」


 俺は本にそう言ってから、今日の朝飯と昼飯を作り、学園に行く。


 学園に着くと、昨日俺が机の中に入れて置いた教科書などが全て床に散乱していた。

 他の生徒達の教科書などは全て机の中に入っている。

 多分嫌がらせだろう。

 本当にめんどくさい。


「あ、クロエル、おはよう」


 セレナが眠たそうに教室に入って着た。

 セレナはどうやら朝に弱いらしい。


「あれ、何でクロエルの教科書が床に散乱してるの? もしかして他の生徒がやったの?」


「違うよ、ちょっとぼーっとしてて床にぶちまけただけだよ」


 こんな低レベルな嫌がらせ、セレナが気にすることはない。

 それに、こういうのは慣れている。


「そうなの? 拾うの手伝うよ」


「ありがとう」


 俺はセレナと一緒に教科書を拾う。

 昨日もらった新しい教科書のはずなのに、何か刃物で傷つけたようなあとがある。

 はぁ、マジでめんどくさい。


「クロエル、本当にぼーっとしてて落としたんだよね?」


 セレナが訪ねてくる。

 セレナの手に持つ俺の教科書にも刃物で傷つけられたような跡があった。

 さすがにそれを見たらあの言い訳は現実味をなくすか。


「本当だよ」


「‥‥‥そう、何か困ったことがあったら相談してね」


 セレナは拾った教科書を昨日俺が座っていた椅子の上に置き、その後ろの席に座る。

 本当に気がきく娘だなと思った。


 それから数分してフレアが元気よく教室に入って着て、フレアと一緒に昨日覚えた文字の復習をした。


 それから数十分後にはユーフラが教室に入って来て、出席を取り、他の教科の先生と入れ違いに教室を出て行く。

 俺は刃物で切りつけられたような跡がある教科書を机の上に出す。


「ふん、ざまぁ見ろですね」


 前の席に座っているインドラが後ろを振り向き、俺に向かってそんなことを言う。

 多分、こいつが教科書を床にばらまいた犯人だろう。

 インドラ以外にも行ったやつはいるだろうが、まずはこいつだけでも注意しておこう。


 そんなことを考えていると、先生が黒板に文字を書いて行く。

 昨日勉強したおかげでその文字もスラスラ読めるようになっていた。

 本当にフレアとセレナには感謝しなければいけないな。

 そう思いながら授業を受ける。


 今日は文字が読めるようになって紙に細かくメモったりなどしていたからか時間が過ぎるのが早く感じた。


 今日の授業が全て終わり帰ろうとしたところをフレアとセレナに誘われ一緒に勉強をすることになった。


 フレアとセレナとは今日やった授業の復習などをした。

 こうやってみんなで授業後勉強していると、中学の時に定期テスト前に衣天たちと勉強をしたのを思い出し、懐かしいなと思った。

 同時にもっと衣天達と遊んでいればよかったなと思う。


 こうして一日があっという間に終わった。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る