第10話 水色の髪の少女

『見つけて』


 フレアたちと街路を歩いていると女の子の声が聞こえる。

 声が聞こえた方を見ると、そこには本屋があった。


『こっちだよ。お願い、誰か見つけて』


 また声が聞こえる。


「クロエル、どうしたの?」


「フレア、ユーフラさん、何か声が聞こえませんか?」


「「声?」」


 どうやら二人には聞こえていないようだ。

 でも、なんで俺にだけ聞こえるんだろう?

 確かめておくべきか。


「フレア、ユーフラさん、先に帰ってもらえますか? 少し確かめたいことがあるので」


「私もついて行こうか?」


「いいよ、明日は学園の入学式なんだから、フレアは帰って準備してしっかり寝なよ」


「わかった。じゃあ、今日買った荷物は寮まで届けさせるね」


「お願いします」


 フレアはユーフラを連れて歩いていく。


 よし、これでもしも危ないことが起きてもフレア達に害が及ぶことはないだろう。


 本屋の扉を開ける。


 中は普通の本屋だった。

 本棚がたくさん置かれていて、そこに大量の本が並べられていた。


『ここだよ。誰か気づいて』


 一冊の光る本を見つける。

 さっきの声もこの本から聞こえていた。


 興味本位で本を触ると光は消え、声もしなくなる。

 ‥‥‥少し読んで見るか。


 俺は本を手に取り、開く。

 本に書いてあったのは一つの魔法陣だった。

 それ以外は最後のページまで全て白紙で、使われた痕跡はなかった。

 本の表紙もタイトルを書く枠だけ書いてあって、それ以外は何も書いていなかった。


「その本に興味があるのかな?」


 いきなり後ろから声をかけられた。

 声をかけてきたのは優しそうな顔をした男だった。


「はい、この本をいただけないでしょうか?」


「いいよ、確かこの本棚の本は金貨5枚だったはずだよ」


 高いな。

 でもまぁ、この世界では紙は高価なものらしいからそれぐらいはするか。

 俺は袋から金貨5枚を取り出し、男に渡す。


「はい、確かに受け取りました」


 男は金貨の枚数を確認し、紙袋を持ってきて本を丁寧に入れる。


「じゃあ、そろそろ店を閉めるから外に出てもらえるかな?」


「わかりました」


 俺は本の入った紙袋を持ちながら寮までの道を歩く。


 寮に着くと、部屋の目の前に今日買ったものが置いてあった。

 量が結構あるから、何回か部屋を出入りして全て部屋の中に運んだ。


 今日は疲れたな、もう今日は明日の準備とシャワーを浴びて寝よう。


 ‥‥‥そういえば、明日何時に学園に行けばいいんだ?

 学園の場所と持ち物は今日教えてもらったが、何時に行けばいいのかは教えてもらうのを忘れていた。


 どうしよう。


 ‥‥‥仕方ない、明日は早起きをして、七時には学校に行こう。

 確か、寮の管理人に言えば、決まった時間に起こしてくれたはずだ。


 この後、管理人に起こしてほしい時間を伝え、明日必要なものを全て今日買ったカバンに入れ、シャワーを浴びる。


 本に書いてある魔法陣がなんなのか気になるが、学園で学べばそのうちわかるようになるだろう。

 フレアに聞いてもいいが、それだと自分で解読する楽しみがない。

 まぁ、最悪わかんなければフレアに聞けばいいだろう。

 もう眠いな、今日はもう寝るか。


 俺はベッドに入り、一瞬で寝た。


 

「クロエル様、5時です」


 扉の外から聞こえる管理人の声で目がさめる。


 よし、今日から学校だ。

 できる限り目立たないようにしよう。


 俺は朝食を軽く作って、食べて、制服に着替える。

 6時50分まで部屋で休み、カバンを持って学園に行く。


 学園の校舎は寮から十数分歩いたところにある。

 校舎と寮は同じ学園の敷地内にあるはずなのになんでこんなに遠いのかは正直よくわからないが、同じ敷地内なら変な大人に絡まれないからありがたい。


 校舎に着くと、すでに何人かの先生が忙しそうに動いていた。

 やっぱり初日は忙しいのだろうか?


 壁にはそれぞれの学年の教室の場所が書いてあった。

 小等部1年は東校舎1階の一番手前の教室だった。

 どうやら、小等部が東校舎、中等部が南校舎、高等部が北校舎というふうに分かれているらしい。


 まだ誰もきてないんだろうな。

 俺は教室の扉を開ける。

 そこにはすでに水色髪の少女がいた。


「あ、おはようございます」


 眠たそうな顔で挨拶をしてくる。

 この少女も貴族なのだろうか?


「おはようございます」


 挨拶を返す。


「黒髪‥‥‥あなたがリュミラ王の推薦でこの学園に入った人?」


「はい、そうですが」


「そうなんだ。私の名前はセレナ=レヴィア、セレナって呼んで、これからよろしく」


「私の名前はクロエルです。よろしくお願いします」


「その敬語、いらない。

 私には同い年だからタメ口でいい」


「わかった」


 この少女、セレナは一体何を考えているのだろう?

 王室にいた貴族、王族達の反応を見るに平民がこの学校に通うのは嫌がるはずじゃないのか?


「そろそろ違う生徒が来る」


 セレナがそう言った直後、フレアが教室の扉を開けて入ってきた。

 セレナは予言魔法か何かの使い手なのだろうか?


「あ、クロエルだ、おはよう! 結構早くきたつもりなんだけど早いね。

 それと、今日からよろしくねセレナちゃん」


 あれ、フレアはセレナのことを知っているのか?


「よろしく、私は先生来るまで寝るから、おやすみ」


 セレナはそう言って、机の上に伏せて寝始める。

 セレナはマイペースなのかな。


「あ、そうだ、クロエルが座るところの隣に座っていい?」


「え、なんで?」


 フレアが俺の横に座るなんて、貴族達に何を言われるかわからない。

 別に俺は構わないけれど、フレアが何か言われる可能性がある。

 ここは断ったほうがいいのか?


「クロエル以外に楽に話せる人がいないから」


 フレアが悲しそうな顔で言う。

 短い付き合いだが、これは演技じゃないことぐらいはわかる。


 ‥‥‥はぁ、まぁいいか。

 別にどこに座るかは人の自由だし。


 俺は一番後ろの長椅子の窓側に座る。

 それから数分して他の生徒達も入って来る。

 教室に入って来る生徒達は皆同様に俺を睨んだり、小さな声で何かを言ったりしていた。


 フレアはそれを見て何かを言おうとしたが、俺が止めた。

 フレアは「なんで?」と尋ねて来るが、別にめんどくさいだけであって、特に怒りも湧かないし、気にしすぎると疲れるだけだからと説明すると納得はしてなさそうな顔だったけれど、一応黙ってくれた。


 そして黒板の上の時計の針が8時を示すと同時にジャージを着たユーフラが入ってきた。

 ‥‥‥あれ、ユーフラって騎士のはずじゃなかったっけ?


「知ってる者もいると思うが、私の名前はユーフラ=メラルダだ。

 今日からお前達の担任になる、ユーフラ先生とでも呼んでくれ」


 ユーフラ先生?

 なに、あの人騎士から教師に転職したの?


「ユーフラねこの学校の警備を任せられたんだって、それと同時に剣術の先生も任されたらしいよ」


 隣に座るフレアが小さな声で教えてくれる。

 なるほど、確かにユーフラに剣術を習えば上達しそうだ。


「まずはこの学園について話す。

 この学園は校舎が三つあり、その中の東校舎が小等部の校舎だ。

 少なくとも6年間はこの校舎で授業を受けることになるからな、しっかりどこにどの教室があるのかを覚えておけ。

 小等部卒業の成績次第では騎士団から勧誘がきたり、魔法研究所から勧誘がきたりするからしっかり勉学に励め」


 なんかいつもと喋り方が違うような気がする。

 もしくはこっちが素の喋り方なのか?


「数分後には算学を教えてくれる先生が来るはずだ、それまでは好きなことしていていいぞ」


 ユーフラはそう言い残すと、教室の扉を開けて何処かへ行ってしまう。

 この世界では日本みたいにどこかへ移動して、校長の長い話を聞くということはしないらしい。


 それから数分後、大量に本を持った先生が教室に入って来た。

 そして、本を教卓の上に置き、自己紹介してから本を配る。

 どうやら大量の本は教科書のようだ。


「それでは、教科書の1ページを開いてください」


 先生の指示に従い教科書の表紙をめくる。


 ‥‥‥深刻な問題が発生した。

 本当に今更だが、文字が読めない。


 昨日は欲しいものとかは全てユーフラとフレアが説明してくれたから文字なんて読まなかったし、本屋に行ったのも声の原因を調べるだけだったから文字なんて読まなかった。


「じゃあ、クロエルくん呼んでくれないかな?」


 なんでこういう時に限って先生に当てられるんだろう。

 あの先生からは悪意は感じられないから多分適当に名簿か何かを見て当てたんだろうけど、最悪のタイミングだ。


「先生、ごめんなさい。文字が読めません」


 俺がそう言うと、周りの生徒達がクスクスと笑い始める。


「先生、代わりに私が読みます」


 フレアが手を上げ、先生に言う。


「じゃあ、フレアさんお願いね」


 フレアはスラスラと教科書に書いてある文を読んでしまう。

 なんか、かっこいい。


「はい、ありがとうございます」


 算学の先生は、フレアが読み終わると同時に足し算の説明をし始める。


 まじか、文字が読めないと足し算もわからなくなるのか。

 しかも、いま先生が説明してるの一桁たす一桁だぞ。

 元高校生が文字が違うだけでここまで問題の難易度が変わるとは。

 でも、この国で一番すごい学校だからもっと難しい問題が出ると思ったんだけどな。

 以外に日本の小学一年生と変わらないんだな。


「クロエル、よかったら放課後文字の読み方、書き方教えてあげようか?」


 やっぱりフレアは優しいな。


「お願いします」


「わかった、今日の授業が終わったら教えてあげるね」


 最初にこの世界で出会ったのがフレアでよかった。


 それからの授業は4時間目までずっと先生の説明を聞いていた。

 紙に日本語でメモを取ってもよかったが、この世界の人からしたら暗号か古代文字にしか見えないだろう。

 最悪、落書きだと思われる可能性もある。

 まぁ、どう思われてもめんどくさいことになるのは目に見えているから日本語で書くのはやめた。


 4時間目は剣術の授業だった。


 まだ小等部1年だからか、男女わかれず同じ教室で運動着に着替える。

 これ、ロリコンが見たら興奮するんだろうな。


 できる限り他の人は見ないように運動着に着替え、東校舎一階の広い運動用の教室に行く。


「最初に来たのはクロエルか」


 そこには朝と同じ格好で木の棒を持ったユーフラがいた。


「今日は簡単に皆の実力を見るぞ。

 クロエルは自分の実力を隠したりせずに本気で取り組めよ。

 じゃなかったら成績さげるからな」


 あまり目立ちたくないから手を抜くつもりだったんだけどな。

 成績か目立たない、どちらを選ぶべきか。


 悩まされる選択である。

 ‥‥‥まぁ、成績の方が重要か。


「お、そろそろ他の生徒達も来る。

 早めに準備運動したほうがいいぞ」


 ユーフラの表情がいつもより緩い気がする。

 剣術が教えられるからこんなに楽しそうなのか?

 それに敬語がなくなってる。


 まぁいいか。

 俺は自分のことに集中していよう。


 俺は軽く準備運動をする。

 準備運動をしていると、同じクラスの人たちがどんどん教室に入って着た。


「今日は皆の実力を見るために申し込み戦をしてもらう。

 使う武器はこの木の棒だ、盾も使ってくれて構わないただし、魔法は使用禁止だ。

 相手が降参する、あるいは相手が戦闘不能になったら試合終了だ。

 試合の開始は私が支持する。

 安心しろ、回復魔法を使える先生も呼んであるからな」


 ユーフラは一年生徒が全員が揃うと、大きな声で言う。

 生徒達はそれぞれ木の棒と木の盾を手に取り、各自準備運動を始める。


 ユーフラは盾も使っていいと言ったが、俺は二刀流の経験しかなく、盾を使った戦闘方法を知らない。

 そもそも、盾があっても重たいだけではないのか?

 できれば、木の棒二本で試合がしたい。


「ユーフラ先生、盾の代わりに木の棒をもう一本使っていいですか?」


「盾を使わないのか?‥‥‥まぁ、いいぞ。ただし、絶対に手は抜くなよ」


「わかりました」


 俺は木の棒を右手と左手に一本ずつ持ち、軽く素振りをする。

 やはり、こっちの方が動きやすい。


「それでは各自、申し込め。

 相手が格上の貴族だとしても手は抜くな。

 相手にどんな怪我を与えても私が責任をとる」


 ユーフラがそう言うと、生徒達はそれぞれ相手を見つけ始める。


「クロエルくんだっけ、僕の相手をしてくれないかな?」


 なぜかもうすでに勝ち誇っている紫髪の少年が訪ねて来る。

 なんでもうこいつはこち誇ってるんだろう。


「いいですよ。その前に名前だけ教えてもらえますか?」


「ごめん、ごめん、僕の名前はインドラ=クーレルだインドラと呼んでくれ」


「インドラ様ですね、では移動しましょうか」


 俺とインドラは少し移動しそれぞれ構える。

 他の生徒もこの広い教室の中で他の生徒の邪魔にならないように少し距離をとって構える。


「それでは初め!」


 インドラは初めの合図とともに木の棒を縦に振り下ろす。


 俺は右手に持つ木の棒でインドラの攻撃を受け流し、左手で握っている木の棒でインドラの脇腹に強く当てる。


「グホッ」と言う声を発し、インドラは床にうずくまる。


 あんなに勝ち誇った顔をしていたからもう少し耐えれると思ったんだけどな。


「ユーフラ先生、終わりました」


 他の生徒の目線が対戦相手ではなく、一瞬だけ俺に集中する。

 まぁ、こんなに早く終わったらそうなるはな。


「そうか、早かったな。クロエルは隅で休んでいるといい、今日は3試合はする予定だからな」


 俺はインドラのことを回復魔法を使う先生に任せ、教室の隅でフレアの試合を見ることにする。


「ドスッ」


 一瞬思考が止まった。

 なぜなら、目の前にフレアが飛んで来たからだ。


「あれ、軽くなぎ払っただけなのにこんなに吹き飛ぶなんて。

 フレア様は本当に特別才能保持者アマテラスなのですか?」


 金髪の少年が木の棒を持ってフレアに近づいていく。

 そして、フレアの顔に木の棒を当てる。

 フレアは気絶しているのか、目を開けない。


「ここであなたを殺したら俺が特別才能保持者アマテラスの称号をもらえるかもしれないんですよね。

 普段だったらここで攻撃はやめますが、今日は先生が責任を取ってくれるらしいので安心して攻撃できますね」


 金髪の少年は木の棒をフレアの顔に向けて振り下ろす。

 俺はすぐに動き、木の棒で金髪の少年の攻撃を防ぐ。


「誰ですか?」


「もう勝負はついてるはずです。これ以上攻撃することはルール上できませんよ」


 殺意が湧く。


「はぁ、全く。平民の分際で俺に意見してんじゃねえよ」


「おいお前達、そこで何をしている」


 戦闘になりそうな雰囲気の時にユーフラが来てくれた。

 ユーフラが来てくれたことで殺意は少し弱まる。


「な、フレア様、大丈夫ですか?! 先生! すぐにこちらに来てください!」


「ユーフラ先生、大丈夫です。俺がなおします」


 俺は回復魔法を詠唱する。

 直後、フレアの腹の上に緑色の魔法陣が出現する。

 どうやら、怪我をしたのは腹のようだ。


「ガルド=エルージェ、お前は何を考えている! クロエルがいなかったらフレア様を殺していたかもしれないのだぞ!」


「すいません、フレア様が気絶しているなんて思わなかったんです。

 それに、もし何かあったら特別才能保持者アマテラスなのですから、なんらかの魔法で防げると思っていました」


 ガルド=エルージェの発言によって、収まりかけていた殺意がまた膨れ上がる。


 こいつは絶対にフレアが気絶していることを知っていたはずだ。

 じゃなければ顔に木の棒を当てるなんて行動起こすはずがない。


「先生、次はガルド様と試合をしてもいいでしょうか?」


 正直、もうこれ以上殺意を止められる気がしなかった。


「わかった、だが、殺すなよ」


「わかりました」


「は、お前みたいな平民が俺に勝てるわけないだろ」


 今はこいつが喋るたびに殺意が湧く。

 もう限界だ。


「早く始めるぞ」


「死んでも知らねえぞ」


 俺は木の棒を構える。

 ガルドも同様に木の棒と木の盾を構える。


 あとはユーフラの初めの合図を待つだけだ。




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