第8話 ロイル学園
「えーと、俺何かやりましたか?」
「王がクロエル様に恩賞を与えたいとのことです」
「それって辞退とかできませんか?」
女騎士は静かに首を横に振る。
ああ、やっぱり辞退はできないみたいだ。
どうしよう、めちゃくちゃ行きたくない。
「早めに準備をしていただいてもよろしいでしょうか。王はこの後の予定を全て遅らせてでもあなたに会いたいと言っておられるので」
これはもう行かないといけないやつだ。
さすがに王様にそこまでさせて、行かないなんて言ったら処刑されるかもしれない。
さすがにこんなくだらない理由で死にたくない。
「わかりました、ですがその前に作法や言葉使いを教えてください。さすがに王様の目の前で礼儀知らずの行動は取りたくないので」
「わかりました。とは言ってもクロエル様は今の言葉使いでいいと思います。あまり時間はないので、基本的な作法だけを少し教えますね」
ユーフラに作法を少し教えてもらい、用意された、今来ている服よりはまともな服に着替え、王様がいる王室へと向かう。
王室の扉を開けると、地面に赤い絨毯がひかれていて、その先には黄金に輝く椅子に座っている白髪の40代後半ぐらいに見える男が座っていた。
多分、この人がこの国の王様なんだろう。
王様の元へと続く赤い絨毯から少し離れたところでは、金の指輪や、ネックレス、腕輪などを身につける貴族、王族と思われる人たちがたくさんいた。
「遅れてしまい申し訳ありません。私の名前はクロエルと申します」
王室にいる王の目の前まで歩いて行き、右膝を地面につきしゃがみこみ、頭を下げる。
ユーフラが言うに、王様が「面をあげよ」と言うまでは顔は上げてはいけないようだ。
「作法は特に気にせんでいいと言っておいたはずなんだが‥‥‥まぁ良い、面をあげよ」
右膝は地面に着いたまま顔だけを王様に向ける。
「まずは此度は我が国の特別才能保持者、フレア=エルーフィアを助けてくれたことに感謝する」
王様はそう言って、座りながら頭をさげる。
正直、目の前で起きていることが信じられない。
「な! 王よ顔をあげてください、素性もわからぬ孤児に頭を下げるなんて」
「そうです、あのような孤児に頭をさげる必要などありません。王がお礼の言葉を言うだけでも勿体無いと言うのに」
周りの貴族達から王様は批判をかう。
悪かったな、素性もわからぬ孤児で。
でも、さすがに王様が頭をさげるなんてやばくないか?
「私のような孤児に王が頭をさげる必要などありません。ですからすぐに頭をあげてください」
王は俺の言葉を聞くと顔をあげる。
さすがに勘弁してほしい。
今の出来事のせいで周りにいる貴族達からものすごい睨まれている。
「クロエルと言ったな? どうだこの国最高級の学校、もとい、学園に行くつもりはないか? もちろん費用、入学の手続きはこちらで済まさせてもらう。
どうだ?」
また周りの貴族達が何かを小声で言いはじめる。
「王よお待ちください。王はこの孤児をロイル学園に入れると言っておられるのですか?!」
「そうだが、何か問題があるのか? あの学園は平民でも授業料を払えば入れたはずだが」
「確かにそうですが、王はもう一つの入学条件をお忘れではないでしょうか?
あの学園に入るためには魔法が使えることか、なにかに秀でたが才能があることが最低条件ですよ。
こんな孤児に魔法が使えるはずがないじゃないですか、ましてやそんな秀でた才能もないと思われます」
また決めつけだ。
この国の人は決めつけることが好きなのか?
「そうだったか? まぁ、そこは余の権力でどうにかなるだろう。
全く、エルージェ伯爵は頭が硬いな」
「そんなことをしたら、他の貴族、国民達に示しがつきませんぞ!」
さっきから批判をしているエルージェ伯爵に賛同して、他の貴族、王族達も批判し始める。
しかも途中から「あの孤児」ではなく「あんな殺人鬼の目をした子供」とか「頭悪そうな孤児」とか散々言われてさすがにうざい。
「炎よ燃え上がれ、ファイア」
俺は炎魔法を詠唱する。
直後、エルージェ伯爵と呼ばれていた男の目の前に赤い魔法陣が出現し、そこから炎が燃え上がる。
貴族達はさすがに驚いて、言葉を失っている。
いい気味だ。
「これで入学するための条件はクリアできますか?」
「それはロイル学園に入学するということでいいかな?」
この世界については知らないことが多いし、魔法を使えることが最低条件ということは魔法に関する授業もあるかもしれない。
だったら迷うまでもなく入学するしかない。
「はい、お願いします」
「よかろう。その前に歳を聞きたい。年によってどの学年になるか決まるからな」
「6歳です」
「そうか、ならちょうど小東部1年になるな。あとは、こちらで手続きは済ませておく。
入学は明後日からだが、孤児だったのなら住む家もないだろう。
学園に通う者が使える寮の部屋が空いている。そこで暮らすといい。
ついでにロイル学園を卒業するまでの生活費はこちらが工面しよう」
凄い、至れり尽くせりだ。
学費だけではなく、生活費まで工面してくれるなんて。
「ありがとうございます」
「専属のメイドもつけられるがどうする?」
さすがは最高級の学校だ、専属のメイドもつけられるのか。
だけど、さすがにそこまでしてもらう必要はないか。
「それは大丈夫です」
「そうか。では、ここにそなたを連れてきた女騎士、ユーフラに学園の寮まで案内するよう伝えておく、部屋はそなたが選ぶといい。
それではこれにて解散にする」
王様の「解散」の一言で貴族達は小声で何かを言いつつも俺が入ってきた扉とは別の扉から出て行く。
ついでに、エルージェ伯爵は最後まで何も言わなかった。
「それではクロエル様、寮までご案内します」
ユーフラと呼ばれていた女騎士がこちらに歩いてきてそういう。
だけど、寮に行く前にフレアと話がしたかった。
「その、寮に行く前にフレア様に会えませんか?」
「フレア様にですか‥‥‥いいでしょう。私もこのあとは仕事がないので」
ユーフラから許可がでたので、ユーフラと一緒にフレアの部屋まで行く。
けれど、ユーフラは部屋には入らず、扉の前にいると言う。
扉を開けると、フレアが心配そうにこちらを見ていた。
「クロエル、大丈夫だった?! リュミラ王はひどいこと言ったりしないと思うけど、エルージェ伯爵になんか言われたりしなかった?」
リュミラ王とはこの国の王様のことだろうか?
「リュミラ王はこの国の王様のこと?」
「そうだよ。ジルフィア=リュミラだからリュミラ王って呼ばれてるんだ。
平民にも優しく接するとてもいい王様なんだよ」
そうなのか、だから、他の貴族と違ってあんなに接しやすかったのか。
「そういえば、どんな話をしてきたの?」
フレアが知りたそうな顔をして尋ねてくる。
まぁ、特に隠すことでもないのでフレアにロイル学園に通うことになったことと学園在籍中は生活費を工面してもらえることを話す。
「え! クロエルもロイル学園にいくの?!」
ああ、クロエルもということはフレアもロイル学園に行くのだろうか。
「私も明後日からロイル学園に行くの!」
やっぱりな。
「学園は1学年につき1クラスしかないから同じクラスになれるね」
フレアは学園の中でもこうして接してくるつもりなのだろうか?
ただでさえ、元孤児が学園に通うと言うことで貴族達に目をつけられるかもしれないのに、こんな可愛くて、優しいフレアが親しく接してくるとなると、他の貴族達からの嫌がらせや、いじめを受けるかもしれない。
でも、接し方は変えないと言っちゃったしな‥‥‥
明後日から大変そうだなぁ。
「そうだね」
まぁ、なんとかなるだろう。
「そうだ、まだこの街に何があるのかとか知らないよね。
もしよかったら明日一緒に街を見て回らない?」
それはいい提案だが、この子は自分が拉致されたことを忘れてないだろうか?
「あ、大丈夫だよ。これからしばらくはユーフラが護衛についてきてくれるから。
ユーフラはものすごく強いから安心して」
よかった忘れてはいないようだ。
まだ、彼女の実力はわからないが、フレアがそう言うのなら大丈夫だろう。
でも、正直少し気まずい。
今は態度が違うが、なんせ初めて話したところが牢屋の中だ。
相手はどう思っているかはわからないが少し接しづらい。
「ねぇ、ユーフラもいいでしょ?」
フレアは扉に向かってそう尋ねる。
すると、扉の奥から「フレア様がそう言うのなら」と帰ってくる。
「ユーフラもいいって言ってるんだし、一緒に行こうよ。私も歩けるぐらいまで回復したしさ」
フレアは上目遣いで言う。
だめだ、こんな顔をされたら断れない。
「わかった」
「やった〜! じゃあ、明日の午前10時にこの部屋の前集合ね。城の門番の人には私から伝えておくから」
フレアは本当に嬉しそうに言う。
まぁ、フレアが喜ぶなら気まずさぐらいどうでもいいか。
「じゃあ、今日はこれから寮に案内してもらう予定だから。また明日ね」
フレアは少し寂しそうにするが、すぐに「また明日ね」と言う。
我慢がうまいな。
そのあとは、フレアの部屋の外で待っていたユーフラに寮まで案内してもらい。
その寮の空いている部屋だったら好きな部屋を選んでいいと言われたので、できる限り他の生徒とは合わないよう周りの部屋に生徒が住んでいない部屋を選んだ。
「本当にここでよろしかったんですか? ここは裏口を使えばすぐですけど、大して広くもない部屋ですよ」
ユーフラはそう言うが、日本で住んでいた家しか知らない俺にとってはものすごく広く感じる。
一体、この国の貴族はどんだけ広い家に住んでいるのだろう?
「この大きさでも十分広いくらいなんですけどね」
「そ、そうなんですか‥‥‥」
沈黙が続く。
ユーフラの仕事はもうすでに済んでいるはずだ。
でも、なんでまだここに残っているんだろう?
「そ、その。先ほどはごめんなさい」
ユーフラはそう言って頭をさげる。
「えーと、なんのことですか?」
「私があなたにした事と態度のことです。
本当は腕が痛いから降ろしてもらえないかと言う言葉も聞いていました。
それなのに私はあなたを無視してしまって‥‥‥
それに、フレア様のご友人にもかかわらずあんな上から目線の態度で話してしまって」
ああ、もしかしてずっとここにいた理由は謝るためだったのだろうか。
「別に怒ってないんで顔をあげてください」
「そ、そんなわけにも行きません。お詫びがしたいので何か私にできることはありませんか?
一応、家事全般はできます。
それ以外だったら剣術をお教えすることも可能です。
もしクロエル様が望むのならメイド、いや、奴隷として扱ってもらっても構いません。
大きくなったら‥‥‥その、夜のお相手にすることでもいいですよ」
おいちょっと待て。
今この人なんて言った?
夜の相手って言わなかった?
この人は6歳の少年に何を言っているんだ。
しかも、メイドならまだしも奴隷って。
この人は本当に何を言っているんだ。
でも、何か頼まないと下がりそうにないしなぁ。
‥‥‥あ、いいこと思いついた。
「その、夜の相手ってなんですか?」
「はっ、すいません。私6歳児に何を言っているの」
ユーフラは顔を赤くする。
今頃気づいたか。
まぁ、それは置いといて。
「あの、その敬語をなくしてもらえますか?」
「え、敬語ですか?」
「はい、年上の人に敬語を使われるのはなんか変な感じなので」
「そ、それでいいなら‥‥‥」
ユーフラはキョトンとした顔で言う。
「じゃあ、明日はよろしくねユーフラさん」
「こちらこそ、よろしく」
この後ユーフラは王城へと戻って行った。
はっきり行って疲れた。
「今日はまだ早いけど寝るか」
何もない部屋に唯一つけられた少し高級そうな時計を見て時間を確認し、もう今日はこの部屋に備え付けられたシャワー室でシャワーを浴びて寝ることにする。
こうして、この世界に来て初めてまとものベッドねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます