二章 学園生活

第7話 フレアの事情

 目が覚めたら、前までいた牢屋とは違う牢屋にいた。


「ああ、やっと目が覚めたか」


 目の前には木でできた椅子に座っている、髪の長い金髪の女性が座っていた。


「お前に聞きたいことがいくつかある。その格好のままですまないが、答えてくれ。

 全て正直に答えてくれるというのであれば、解放することを約束しよう」


 目の前の女性が言っていることがわからなかった。

 だが、それも体を動かそうとしたことで理解する。


 ‥‥‥吊るされていた。


 牢屋の壁に取り付けられていたフックに俺の両腕を縛っている鎖が引っ掛けられていて、足が地面から離れていた。


「な、なんだよこれ」


「見ての通り拘束させてもらった。一応魔力を制限する鎖だから、魔法は使えない」


 目の前の女性はそう言って手に持っていた資料を見始める。


「お前のことに関して調べて見たが。驚くことにお前が孤児だということ以外何も出てこなかった。


 最初の質問をする。お前は何者だ? なんであんなところにいた?」


「わからない。あの場所にいた男からは焼いた家で倒れてたところをたまたま拾って、あのお嬢様の心の拠り所にするために同じ牢の中に入れたと言われた」


 ここはあえて、フレアのことをお嬢様と呼ぶ。

 フレアは貴族だ。

 貴族に孤児がフレアなんて名前で呼んだら、何をされるのかわかったものじゃない。


「そうか、なら次の質問だ。

 

 お前はなんでフレア様を背負ってあの家から出て来た?」


 また質問だ。

 そんな質問より今はフレアのことの方が気になるのに。

 だけど、聞いても答えてくれない可能性がある。

 でも、駄目元で一回聞いてみるべきか?


「その質問に答える前に、お嬢様は大丈夫なのか?」


 目の前の女性は何も喋らない。

 これはその質問に答えるつもりはないと言うことだろうか?


「そうだな、そちらも一つ質問に答えてくれたんだ。それぐらいは教えてやろう。フレア様は無事だ。今は王城の自室で寝ているだろう」


 よかった。

 どうやらフレアは無事だったようだ。


 だけど、なんで王城に自室があるのだろう? 

 フレアが言うには、王城の中に自室があるのは一部例外はあるものの王族と追うだけのはずだった。


 もしかして、フレアはその例外の中に入るのだろうか?


「さぁ、次は私の質問に答えろ。

 お前はなぜフレア様を背負ってあの家から出て来た?」


 ここは本当のことを話しておくべきなのだろうか? 


「あなた達が来る一日前に、あのお嬢様が高熱を発症したんですよ。

 そして、蕁麻疹も出て来て、目が充血し、息苦しそうだったから助けたいと思ったから、あのお嬢様を背負って牢屋から逃げ出したんですよ」


 俺の回答に女性は書類にペンを走らせる。

 よく見ると、この女性は窓の外から家の中を見ていた女騎士だった。


「はぁ、もういい。私は本当のことを話せと言ったよな?」


 女騎士は俺をにらみ、椅子から立ち上がり、腰に刺してる鞘から細剣レイピアを抜く。


「出会って四日の人間、しかも6歳の子供がそんな自分の命を捨てるような真似するわけないだろ。

 何が目的だ。どうせお前もフレア様を拉致した男達の仲間なのだろう?」


 なんでこの女騎士は決めつけで話を無理やり進めようとするのだろう?

 本当に意味がわからない。


「俺は本当のことを話しました。

 逆に聞きますが。あの状態の姫様を放置しておけとあなたは言うんですか? 

 俺が動かなかったらあのまま人質にされていたかもしれなかったのに」


 さすがに、女騎士の決めつけにはイラついた。

 だから、俺は反論してやる。

 細剣で俺を指すなら刺せばいい。


 女騎士は何を思ったのか、細剣を腰の鞘に戻し、椅子に座りなおす。


「すまなかった。お前の言い分はもっともだ」


 女騎士がそう言って頭は下げないが謝る。

 まぁ、謝っただけでもいい方か。


「お前の処分はフレア様が目覚めてから決める。それまではここにいてもらう」


 女騎士は資料をまとめ、椅子から立ち上がり扉を開けて外へ行こうとする。


「あの! 釣り上げるのだけは勘弁してくれませんか? あの男におられた腕が痛むんですけど‥‥‥」


 俺の声は聞こえているはずだ。

 だが、女騎士はそれを無視し、扉から外へ出て扉を閉めてしまう。


 あの女騎士め!

 もう少し子供に優しくできないのか!

 ああ、なんでこんなことになったんだろう。

 まぁ、フレアを助けたことには後悔はないけどさぁ。


 はぁ、解放されるまで我慢するしかないか。



____________________________________



 ユーフラが牢屋から外へ出てから少し経った頃。


「はぁ、なんだあの子供は。私が睨んだのにもかかわらず、あの平然とした態度が取れる子供なんて私の知る限りでは一人もいないぞ」


 ユーフラは王室へ続く道を歩きながら喋る。

 

「それにあの歳で、あの状況で普通あそこまで頭が回るか?」


 ユーフラはそう言っているうちに王室の前に着く。


 「‥‥‥まぁ、それを考えるのは後にしよう」


 ユーフラは王室の扉の目の前で軽く息を整え、思考を止める。

 そして、王室の扉を軽く三回叩く。


「リュミラ王よ、ユーフラ=メラルダです」


「入れ」


 ユーフラは扉を開け、王室に入る。

 王室の奥には黄金に光る椅子に座る白髪のそこそこ老けた男がいた。


「報告します。あの孤児はフレア様を拉致した男達の仲間の可能性は低いと思われます」


「そうか、この程度の連絡をさせてしまいすまないな」


「いえ、これが私の仕事というならば」


「もし、フレアが目を覚まして、その男が完全に白でフレアを助けたのならば、皆を集めよ。皆の前で余が自ら恩賞を与えねばならぬからな」


「そんな、あのような孤児にわざわざ王自ら恩賞を与えるなど、あのような孤児には少し金銭をもたせて解放してやればいいと思われます」


「ユーフラよ、そなたは余が決めたことに口を出すつもりか?」


「い、いえ、決してそのようなつもりは」


「ならいいではないか」


「王がそれで良いのであれば。‥‥‥そろそろ次の仕事があるので失礼します」


「ああ、行ってくるが良い」


 ユーフラはそう言って一礼し、王室を出る。


「やはり、あの娘は頭が少々硬いなぁ」


 黄金の椅子に座る王はそんなことを呟いた後、深く重たいため息をつく。



 ユーフラが王室を出ると、メイドが慌てて「ユーフラ様!」と声をかける。


「なんだ?」


「フレア様が、フレア様が目を覚ましました!」


 ユーフラはそれを聞いた瞬間、フレアの部屋まで全力で走る。


「フレア様! 無事でしたか?!」


 ユーフラはフレアの部屋の扉を勢いよく開ける。

 なぜこんなにユーフラが慌てているかというと、ユーフラはフレアのことを実の妹のように思っていて、フレアが寝ている間も心配で心配で仕方なかったからだ。


「ユーフラ、そのフレア様ってのやめてって言ってるでしょ?」


「ご、ごめんなさい」


「その敬語もいいって」


 フレアは呆れがちにいうが、その表情は嬉しそうに笑っていた。


「そうだ、クロエルが今どこにいるかわかる? 会って、いろいろ看病とかしてくれたお礼が言いたいんだけど」


「あの孤児のことですか? それなら今は王城の敷地内のはずれにある牢に捕らえていますけど」


 フレアはユーフラのその言葉に激怒する。


「私の恩人に何をしているの! 今すぐに彼を解放してここに連れてきて!」


 ユーフラは初めてここまで怒るフレアの姿を見て驚く。


「フ、フレア様? 正気なのですか? さすがにあの孤児をここに連れてくるというのは‥‥‥」


「じゃあ、私が自分で行きます!」


 フレアは壁に手をつけ立ち上がろうとする。

 だが、フレアは病み上がりだからか、足が震えていつこけてもおかしくなかった。


「わ、わかりました。今すぐここに連れてきます!」


 ユーフラはクロエルを捕らえている牢屋まで走る。



____________________________________



 ユーフラが牢屋の扉を開る少し前。


 いてぇ。

 あの男に握りつぶされた骨が痛い。

 しかも、徐々に腕の感覚がなくなっていく。


「クロエル様、すいません」


 牢屋の扉がいきなり空いたと思いきや、そこからさっきとは態度が違う女騎士が慌てて俺の元まできて、鎖を外していく。


「今すぐ回復魔法を使える魔道士を読んでくるので、ここで待っていてください」


 女騎士は明らかに慌てていた。


「いや、何があったのかは知りませんけど。これぐらいだったら鎖さえなければ治せますんで」


 俺は回復魔法を詠唱する。

 やっぱり、魔法は凄い。

 あの粉砕骨折の可能性があった腕を一瞬で完治させた。


「魔法が使えるんですか?」


「まぁ、多少は使えます。お嬢様が教えてくれたので」


「そ、そうなんですか。今からフレア様の元までご案内しますね」


 女騎士はそう言ってついてくるよう促す。

 罠の可能性を考慮し、警戒しながら俺はついていく。


 そして、長い長い通路を歩くこと十数分。


「着きました。ここがフレア様のお部屋です。私は王に報告しなければならないことがあるのでここで失礼します」


 そう言ってユーフラは来た道を戻っていく。

 なんだったんだろう?


 まぁ、いいか。

 それより、フレアは本当に大丈夫なのだろうか? 

 もし大丈夫なら、聞きたいことが結構ある。


「フレア、入るよ」


 ドアを開けると、大きなベッドに座っているフレアの姿があった。


「あ、クロエルだ!」


 無邪気な笑顔でフレアは笑う。


「体調はどう?」


「全然平気だよ。それと、ありがとね、いろいろ助けてもらっちゃって。それと、大丈夫だった? 牢屋に入れられてたんだよね。何かひどいことされなかった?」


 フレアは本当に優しいこだ。

 もう、その優しさを向けられるだけで、さっきまで牢屋にいたことがどうでもよくなる。


「大丈夫だよ。それよりフレアに聞きたいことがあるんだ」


「聞きたいこと?」


「フレアは一体何者なの? 確か王城には王族以外は限られたものしか住めないはずだったよね」


 フレアはまた気まずそうに顔をそらす。

 だけど、今日はすぐに顔の位置を元に戻して。


「私はね、このリュミラ王国の特別才能保持者、アマテラスの称号を持つ人間なんだ」


 なるほど‥‥‥名前からしてすごい人ということ以外は全くわからん。

 

「えっとね、特別才能保持者ってのは。貴族でも平民でも何かの能力にものすご

 く優れた人たちに与えられる称号のことで。


 その中にもいくつか種類はあるんだけど、私は最大三つまで連続詠唱できて、無属性魔法以外の魔法はほとんど覚えられる才能を持っているから、特別才能保持者の中でも結構上の方のアマテラスの称号を与えられたんだ」


 この話を聞く限りでは、いつでもあの大男に勝てた気がする。

 まぁ、単に相手は大人だから勝てないと思い込んでいたからかもしれないが。


 「前に牢屋の中で言ったことって覚えてる?」


 前に牢屋で言ったこととはあれだろうか? 自分のことを親しい人に話したら今までとは違う接し方をして来たということだろうか?


「中のいい人に自分のことを話したら、今までとは違う接し方をして来たことかな?」


「うん。クロエルもそうなっちゃうかな、やっぱり」


 フレアは寂しそうにそう言う。

 だけど、別にそんなことで今更接し方を変えるつもりはない。


「別にそんなんで接し方を変えたりしないよ。それに、水よ吹き出ろ、ウォーター、風よ舞え、ウィンド」


 試しに水魔法と風魔法を繋げて詠唱する。

 直後、フレアの目の前に小さな水色の魔法陣が出現し、その上に緑色の小さな魔法陣する。

 そして、発動まで約1秒空いたが二つの魔法陣が同時に発動し、小さな水の竜巻きが魔法陣から放出される。


「え、二つ同時詠唱?」


「うん、できちゃった」


「そんな簡単なノリでできちゃうの?!」


 フレアは信じられないものを見たような顔で驚く。

 だが、できてしまったものは仕方がない。


「これで少しはフレアと同じような関係になれるかな?」


 フレアにそう言うと、フレアは嬉しそうに笑顔を作る。

 どうやら少しはフレアの不安を取り除けたみたいだ。


「クロエル様、王がお呼びです。至急王室まで来てください」


 いきなり女騎士が扉を開けて入って来た。

 そして、いきなりそんなことを言う。

 何か呼び出されるようなことしたっけ?


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