第5話 牢屋生活

 この世界に来てから体感的には一日が経過した。


 フレアが寝てからは暇だった。


 俺もすぐに寝れば暇な時間を有効活用できたかもしれない。

 だが、あの大男が寝ている最中に殺しに来るかもしれないという警戒心から寝ることができなかった。


 だが、さすがに6歳児の体というべきか、ほとんど眠れていない所為で体が重いし眠い。


「どうしたの?」


 フレアが心配そうな顔をしてそう尋ねてくる。


「ちょっと昨日眠れなかっただけだから大丈夫だよ」


「大丈夫? 少し寝ておく? また膝枕してあげようか?」


 少し寝ておくという選択はいいが、なぜそこで膝枕なのかものすごく不思議だ。


「いいや、いいよ。またいつあいつらが来るのかわからないから起きてるよ。

 それより、この世界には死んだ人の魂を転生させる魔法とかあるの?」


 俺はこの世界に6歳児の体で目覚めた理由として魔法が関係している可能性があるため、フレアに尋ねる。


「そんな魔法は聞いたことはないけど、多分、無属性魔法にだったらあるかも」


 フレアからそんな回答が返って来る。


 やっぱり、そんな簡単には手がかりは掴めないか。


「今日は何について勉強する?」


 フレアがワクワクしながら尋ねて来る。

 昨日わかったことだが、フレアは重度の魔法オタクであり、魔法のこととなるとものすごく熱心に喋り始める。


 そんなフレアを見ながら魔法の勉強をするのもいいが、今日は違うことを聞くことにする。


「今日は貴族、王族、平民について教えて欲しいかな。それと、フレアのことも、もうちょっと知りたいな」


 俺がそう尋ねると、フレアは気まずそうに顔を背ける。


「あれ、なんか俺変なこと言った?」


「ううん。ただ、私のことを話すと今みたいに接してくれなくなるかもしれないから」


 そういうことか。


 多分、親しい人か何かに自分のことを話したら、今までとは全く違う態度で接して来るようになったとかそんなことだろう。


「じゃあ、貴族、王族、平民についてだけでも教えて」


「わかった」


 フレアは少し安心したような表情になり話し始める。


「まずは平民のことから話すね。

 平民は主に畑を耕したり、国に税金を払ったりとあまり豊かではないけど幸せそうに暮らしている人たちの身分のことで、身分的には一番下に入ります。


 平民でも商人になって儲けさえすればそこそこ豊かな暮らしができます。

 まぁ、商人で豊かになれる人はあまりいませんけどね。


 平民についてはこれぐらいしかわからないんですけど、何か質問はありますか?」


「いや、特にないかな。次は貴族に関して教えてくれなかな?」


 平民は要は国民ということだろう。

 今の説明を聞く限りでは特に予想していたこととあまり変わらないため、貴族について聞くことにする。


「貴族は王様から直々に仕事を渡されたり、税を免除されたり、領地をもらったり、今はほとんどなくなったけど自分の領地の住民を集めて戦争に出陣したりする人たちのことです。


 稀に元平民でも貴族になれるらしいんですが、貴族になったとしても元平民の家として他の貴族から差別されたりします。


 これ以上は貴族が何をやるのか勉強不足なのでわからないです。ごめんなさい」


 フレアは申し訳なさそうに謝る。

 でも、6歳で魔法のことや身分関係のことなどをここまで話せる人はそういないだろう。

 だから、勉強不足で謝るフレアは少し違うと思う。


「いやいいよ。俺と同い年なのに魔法以外のこともそこまでわかるなんてたくさん勉強してる証拠だね」


 俺の言葉を聞いてか、フレアは口元をほころばせて嬉しそうにしている。

 やばいものすごくかわいい。


 決して、俺はロリコンなどではない。

 女子がクマのぬいぐるみを可愛いと言うことと同じような感覚であって、俺は決してロリコンになど目覚めてはいない。


 ‥‥‥よし、もう他の話を聞いて忘れよう。


「王族のことについても教えて欲しいな」


「う、うん。わかった。


 王族は王様の兄弟たちのことを言って、王様の次に偉いけど、権力の強い貴族よりは権力がなくて、何もしなくても裕福に生きていける人たちのこと。


 私がわかるのはこれぐらいかな」


 なるほど、結構この世界の身分について知ることができた。

 これもフレアが勉強熱心だったおかげだ。

「ありがとう」


「学校に通えればもっと詳しく教われるんだけど。私がいけるのは来月の4月からだからあまり詳しく教えられなくてごめんね」


 フレアはそう言って謝る。


 だが、俺は学校と暦があることに驚く。


 はっきり言って、俺の中のイメージでは学校なんてものはなくて、貴族たちは家庭教師か何かを雇って勉強しているのかとばかり思っていた。


「学校があるんだぁ」


「‥‥‥え?」


 フレアが驚いている。

 なんでだろう?


「学校が何かわかるの?」


 ‥‥‥やってしまった。

 

 どうしよう。

 記憶喪失という設定なのになんで「学校があるんだぁ」なんて言ってしまったんだろう。

 そこはせめて学校は何? とでも聞いておくべきだった。


 ま、まぁ、今はとにかくフレアが納得する言い訳を考えなければ。


「もしかして記憶が戻ったの?!」


 ‥‥‥ああ、これはうまい具合に勘違いしてくれた。


「今の言葉で少しだけ記憶が戻ったみたい」


「よかった。学校以外には何か思い出したことない?」


「いや、学校がどういうところか以外は特には思い出せないかな」


「そっか。でも、記憶が戻るとわかっただけでも進歩だね。

 でもあの男の人はたまたま焼いた家にクロエルがいたって言ってたけどそこそこお金持ちの家だったのかもね。

 だって、普通の平民が学校がどういうところかなんて普通知らないもん」


 なんか、こんないい子に嘘をついているのに罪悪感が。


「お前ら、今日一日の食事だ」


 いきなり鉄格子の外から声がして、昨日と同じパン一本とペットボトルに入った水が放り込まれた。


 鉄格子の外を見ると、昨日の大男が歩いていた。


「これクロエルの分ね」


 大男を見ていると、フレアがそう言って昨日と同じように半分にちぎったパンを渡される。


 だが、大男はこれを今日一日の食事と言っていた。

 多分、これだけで明日まで過ごせということだろう。

 水はフレアが水属性魔法で飲める綺麗な水を作れるからいいとして、食べ物は精神的にも幼いフレアが食べるのが良いだろう。


 断食はしたことはないが、できる自信はある。


「俺は水だけ飲めればいいよ。それはフレアが食べな」


 渡されたパンをフレアに返して、俺は水の入ったペットボトルを手にする。


「これは魔法を教えてもらってるお礼として受け取ってくれないかな? 安いお礼だけどごめんね。

 食べたら、魔法のことについてもっと教えてね」


 最初は遠慮していたフレアだったがやっぱりしっかりしていてもまだ子供なだけあって、食欲には勝てなかったようだ。


 フレアは相当お腹を空かしていたのか、パンを一瞬で食べ終わる。

 そして、水魔法で作った水を飲んでから、俺に魔法を教えてくれる。


 この後はフレアから一日中魔法のことについて色々と教わった。


 俺はこの時、こんな楽しい時間がすぐに終わるなんて思いもしなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る