第3話 牢獄の中

 目がさめるとそこには自室の天井でも、ショッピングモールの天井でも、病院の天井でもない、あちこちにヒビが入り、苔が生えたりしているボロボロの天井があった。


 頭が少しぼんやりとするが、俺は今の自分の状況を確認するためにあたりを見わたそうと体に力を入れる。


 だが、体に力を入れると同時に頭もはっきりとし、自分の頭の下に何か敷いてあることに気づく。


「よかった。いくら回復魔法をかけても目が覚めないから死んでしまったのかと思いました。

 あの、大丈夫ですか?」


 少し顔を傾けると、そこにはバラの花のように赤い髪をもつ6歳ぐらいの少女の顔があった。


 その少女を認識すると同時に、自分の頭の下にあるものがなんなのかも認識することになる。


「わぁ! えと、ごめんなさい!」


 俺はすぐに起き上がり、すぐに少女に向かって頭をさげる。

 なぜなら、15歳になったのにも関わらず、見た目6歳ぐらいの少女に膝枕をしてもらっていたからだ。


「あ、まだ動かない方が」


 少女がそう言うと同時に、俺は体のバランス感覚をなくし、少女に向かって倒れてしまう。


「大丈夫ですか?」


 少女は俺の体を両手で支えると、当然かのように頭を膝の上に乗せようとする。


 俺はそこそこ体を鍛えて、身長もそこそこあったつもりだったが少女に体を支えられてしまったことにショックを受け、悲しみにうち浸っている間に少女の膝の上へ流されるように頭を誘導されてしまう。


「本当に良かった。これで少しは安心できます。少し疲れたので寝ますね」


 少女はそう言って壁を背もたれにしてスヤスヤと寝息を立てながら眠る。

 少女の寝顔からは疲労が感じられた。


「もしかして、ずっと看病してくれてたのかな?」


 眠っている少女を起こさぬようそっと頭を上げる。


 冷静になったからか、色々と疑問が浮かんできた。

 まず、少女が喋っていた言語は日本語ではなかった。

 だけどなぜか、理解し、しゃべることができた。


 そして今自分がいるところの状況だ。


 横を振り向くと、少し錆びてはいるが開けられそうにない鉄格子がはめてあり。

 かと言って、他はあちこちに小さなヒビが入り、そこから土が漏れ出ている壁や天井、地面しかなかった。


「なんでこんなところにいるんだ? どう見てもここは牢屋の中だよな?」


 俺は牢屋を試しに一度蹴ってみる。

 その時、俺は信じられないものを目にする。


 普通なら鉄格子に届く距離で振り上げた足が宙を蹴り、勢い余ってそのまま転倒してしまう。


「あれ、なんで当たらないんだ?」


 通常ではありえない思考が脳裏をよぎり、そんなことはありえないだろと思いながら自分の顔つき、腕の長さ、手の大きさ、足の長さを確認する。


「‥‥‥嘘だろ? 子供になってる?!」


 俺は自分の体をもう一度確かめる。


 髪は黒髪だが、肩まで伸びていて、腕は鍛えたことによって身につけた筋肉質な腕ではなく、ちゃんと食べているのか不安になる程痩せ細った腕で、足も同じようにちゃんと食べているのか不安にさせられる程細かった。


 俺は信じられずにもう一度自分の体型を確認しようと手と目を動かそうとする。


 だが、先ほどの声で起きてしまったのか赤髪の少女がこちらを見ていることに気づき、赤髪の少女に聞くことにする。


「ねぇ、俺って今何歳に見える?」


 少女はいきなりの質問に驚いたのか、少しの間じっくりと俺の体を見て‥‥‥


「私と同じ6歳ぐらいにしか見えませんが‥‥‥」


 やっぱりそう見えるらしい。

 どうやら本当に体が小さくなってしまったらしい。


「魔法であなたの年齢がわかりますけど確認しますか?」


 俺は少女が言った魔法という言葉を聞き逃さなかった。


「魔法?」


「知らないんですか?‥‥‥あなた、もしかして孤児ですか?」


 少女に言われ、少し考える。

 だが、いくら考えても、日本にいた頃の普通の日常しか思い浮かばない。


「わからない、どうやら記憶がないらしくてね」


 多少強引だが、記憶喪失ということで少女に説明する。


「そうなんですか‥‥‥ごめんなさい、こんなに明るい方が孤児なわけないですよね」


 少女は一瞬暗い顔をするが、すぐに顔を上げて微笑む。


「さっきの話に戻るんだけど、この世界には魔法があるの?」


 孤児かどうかでうやむやになりそうだった魔法について、詳しく尋ねる。


「魔法は主に魔法陣式、詠唱式の二つあります。けれど、魔法を使うためには体に流れる魔力を使います。


 魔力は人それぞれ量が違って、代を重ねれば魔力も高くなるとはかぎりませんん。

 それに魔法が万能というわけでもなく、魔力が尽きてくるにつれて頭痛を感じ、さらに魔法を使うと頭痛がひどくなり、魔力が完全に尽きると気絶します。

 

 主に魔力が体に流れているのは貴族、王族達だけで、たまに魔力をもつ子供が平民にも生まれますが、魔力は大して強くはありません。


 仮に魔力が高くても、国の王に認められなければ平民と同じ扱いになります。


 ここまで簡単に説明しましたけど何か気になることはありますか?」


 少女はまるで学校の先生のように魔法について教えてくれる。


「魔法って何かタイプに分かれてたりするの?」


 少女の今一番気になっていることを尋ねる。


 そりゃあ、俺だって男だ。

 一度くらい魔法や異能力などに憧れたりするもんだ。


「火属性魔法、水属性魔法、木属性魔法、土属性魔法、光属性魔法、闇属性魔法、無属性魔法の6種類があります。


 無属性魔法以外の属性魔法は名前の通りなので説明はいらないと思いますが、何か知りたくなったらあとで言ってください。


 ですが、先に無属性魔法の説明だけしてしまいますね。


 無属性魔法とは、謎に包まれている空間系魔法と言ったすごい魔法から、相手の年齢がわかるなどと言ったしょうもない魔法も含む属性でして、無属性魔法には無限の可能性があると魔法科学者達の間では言われている程多くの謎に包まれた魔法なんです!」


 なぜか少女は無属性魔法を熱く説明する。

 俺はそれに少しばかり引きながらも説明を聞く。


「へぇ、無属性魔法ってそんなにすごい魔法なんだ」


「そうです! しかも、無属性魔法は魔力がある者の中でも一部の人間にしか使えない魔法なんです」


 あー、これ完全に魔法オタクというやつだ。


「む、なんですか自分から質問しておいて」


「いやぁ、あまりにも熱心に教えてくれるから感動しちゃって」


 熱心に無属性魔法について語る少女に、熱心に語りすぎて軽く引いていた、などと言えるはずもなく、ただ感動していたと言うことにした。


「そうだ、さっき年齢を確認してほしいって言ってたよね」


 そうだ、すっかり忘れていたが、そこから魔法について聞くことになったんだ。


「ああ、確認してくれ」


「じゃあ、早速始めるのでじっとしていてください」


 少女はそう言うと、呪文を詠唱し始める。


 数秒後。


「わかりましたよ。私と同じ6歳ですね」


 少女は嬉しそうに微笑む。

 同い年の人が一緒ならまだ心強いと思っているのだろう。

 でも、中身は15歳の高校生なんだよなぁ。


「それと一様魔法に関心があったようなので魔力値も測っておきましたよ。

 そろそろ結果が出るはずです」


 少女がそう言った直後、少女の目の前に読めないが、光る文字のようなものが宙に浮き出る。


「魔力値は‥‥‥」


 少女の顔から血の気が引いていく。


 もしかして、俺の魔力値0だったのかな?

 それだったら内心がっかりだけど、しょうがないか。

 

 などと考えながらあまり期待しないでいると。


「えーと、魔力値が想定不可能とでました」


 想定不可能? 

 それはどう言う意味だろう?


 そんな俺の表情を見たのか少女は俺にわかりやすく説明してくれる。


「魔力がない人は0と出るんですけど、この魔法で測れる最高魔力値は1000まで測れるんです。

 そして、1000を超えると想定不可能と出るらしいんですが‥‥‥あなたはどこかの貴族なんですか? 何か事情があって記憶喪失だと嘘をついて身分を隠してるとかですか?」


 今度は少女から質問される。


 だが、もしもこの世界で貴族だったとしたら、なぜこんなにも痩せ細っているのかが不思議だった。


「多分違うと思う。もし貴族ならもうちょっと肉付きがいいはずでしょ?」


「それもそうですね。それにもう一度計り直したら以外に0という可能性もありますからね」


 少女はそう言って、もう一度詠唱し始める。


「でました‥‥‥やっぱり想定不可能とでましたね」


 なぜだろう、魔力値を測ってからのこの空間の空気が重い。

 想定不可能と出るのはすごいことだとはわかったが、それでなんでここまで空気が重くなるのかがわからなかった。


「す、凄い!」


 ああ、逆だった。


 これは空気が重たくなったんじゃなくて、少女が興奮を耐えていたからなんか暗く見えたんだ。

 多分そろそろ我慢しきれなくなる。


「凄い! ねぇ、魔法覚えてみる気はない? 魔力値は高くても魔法習得までには時間がかかるけど、覚えてみる気はない? 

 覚えてみる気があったら教えてあげるからさ」


 やっぱり魔法ヲタクなんだなぁ、ともう一度実感した。


 まぁ、でも魔法が覚えられるんだったらお願いしないわけにはいかない。

 せっかく魔法が使えるんだ。

 だったらとことん習得してやる!


「じゃあ、教えて。それと、名前も教えてください。教えてくれる人に向かってお前とかは失礼だから」


「そ、そうね。私の名前はフレア=エルーフィア、フレイって呼んでね」


 少女、もといフレイは嬉しそうにニコニコしながら自己紹介をする。


 次に俺から自己紹介をしようとするが、記憶喪失という設定にしているから名前が出てきたらおかしいし、天空と言ってもこの世界では変な名前にしか聞こえない気がしたから言うのを迷っていると。


「そういえば記憶喪失だったね。だったらあなたは今からクロエル。

 ちなみにクロエルは私が住んでいる街に伝わる神話に出てくる黒いカラスの名前なの。

 本物のカラスは見たことないけど、神話に出てくるカラスの色も黒で、クロエルの髪の色もクロだからいいかなって。

 もしかして嫌だった?」


 フレアは恐る恐る尋ねてくる。


 なぜカラスなのかわからないが、クロエルという名前は自分でも気に入ったのでそれにすることにした。


「じゃあ、宜しくお願いしますフレア先生」


「こちらこそ宜しくね、クロエル」


 フレアは嬉しそうに微笑む。

 

 こうして俺とフレイとの魔法授業が牢獄の中で開催されることになった。


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