第2話
ぬかった……。
昨日水筒を洗い忘れてたから今日は昼食と一緒に飲み物を買わなければならなかったのにすっかり忘れていた。
自販機まで行くのは面倒くさいなぁ。しかしパンを水分無しで食すのはキツい。されど紙パックのジュースを手に入れる為だけに移動するのもこのコッペパンに屈した気がして悔しい。
はっ。パンを食べながら自販機まで行くのはどうだろう。ちょうど喉が渇いてきた頃に飲み物を手に入れられるはず。 水分補給が出来るうえに時間節約も可能で一石二鳥だ。というかもうコンビニ袋ごと持って自販機で飲料購入して、その足で保健室行って臥床しよう。今まで考えたことなかったが、移動しながら食事を摂るってもの凄く効率的なのではないだろうか。
素晴らしい。革新的なアイディアを生み出してしまった自身を褒めてあげたい。
ピーナッツ味のコッペパンをモクモク食べながら最初の目的地である自販機に到着する。
どうやら先客がいるらしい。校則で引っかかりそうなくらい明るめの栗色、軽くウェーブした長髪のギャルっぽい生徒がジュースのサンプルを見ながら悩んでいた。
いや、考えているなら機械の前に突っ立ってないで横にズレろよと思ったけれど口には出さない。校内ヒエラルキーはこの女の方が圧倒的に上なはずなので下手に恨みを買うとこれからの2年以上残っている高校生活が辛過ぎる。
僕は無言で隣に併設してある自販機の前に移動し右手に持っていた小銭を投入した。乳酸菌含有を前面にアピールしている紙パック飲料を買い、次の目的地である保健室に向かおうとする。その時、硬貨が盛大に落ちた音がした。どうやら隣にいたJKが財布をひっくり返してしまったらしい。おいおい……、飲み物選ぶの遅いわお金ぶちまけるわ購入にどんだけ時間かけるつもりなんだよこの人。僕は屈んで100円玉を拾う。落ちてしまった瞬間を目撃してしまったので無視するのも何となく気不味い。
「どうぞ」
「ん」
ある程度小銭を拾い女生徒に渡した。
お礼くらい言えよと思ったが受け取り方はぞんざいではなかったので大目に見ることにする。僕は立ち上がり、コンビニ袋から新しいパンを取り出して保健室へ向かうべく再び歩を進める。
「ねえ、キミは腹ペコキャラなの? ガリガリなのに」
唐突に白ギャルに話しかけられた。
「ん?」
僕は彼女の方へ振り返る。あれ? 今ナチュラルに体型ディスられた?
「廊下を歩きながらパン食べるとかお腹空き過ぎじゃね?」
JKが無遠慮にペタペタお腹を触ってくる。距離が近い。女の子特有の甘い香りが鼻をくすぐる。おいおいやめてくれそういうことされたら勘違いしてあなたに恋心抱いちゃうでしょうが。心臓の高鳴りを悟られぬよう僕は数歩後退した。
「あー。食べながらの方が素早く目的地に辿り着けると思い至ったのでやってみた」
「ふーん、どこ行くの?」
「保健室に向かう。……向かいます」
異性にじっと目を見られ思わず僕は敬語に直してしまった。
「保健室登校的な? 引きこもりなの?」
んー? ちょいちょい口が悪いなこの娘は。
「見た目で人を判断しないでいただきたい。まだ普通に教室で授業を受けている、一応」
「何年? クラスは?」
「1年5組」
「本気!? 同じクラスじゃん。 今まで全然気づかなかった」
え、それはクラスメイトだったことに気づいていなかったの? それとも僕という存在自体を今まで知覚していなかったのかな?
「存在感の薄さには割と定評があるので」
「なにそれ。ウケる」
クラスメイトらしい女生徒はケタケタ笑う。なんて無神経な奴だ。地味な人間はそれを改めて認識させられるとかなり惨めな気持ちになるのに。リア充っぽい人と話すと現実を突きつけられるので辛い。早く退散しよう。
「では用事があるので僕はこの辺で」
「ん、いってらっしゃい。そうだ、さっきはお金を拾ってくれてありがと」
屈託の無い少女の笑顔に一瞬ドキッとする。
……なんだよ。ちゃんと礼を言えるじゃねーか。
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