それでも日々は行進する
八子 みやこ
第1話
割と博愛主義に自分は分類されると自負しているのだけど苦手なものはやはりある。
梅雨…アナタはダメだ。体はベタつくし、通学は傘が必要になるし気分も鬱々としてくるわで僕の中では許容出来ない。
夏が訪れる前に雨が降らないと水不足になるというが、生まれてこのかた十数年危機的に口渇したことがない。なので梅雨さん、アナタは不要です。
それでも干ばつみたいな緊急事態の時は、とりあえず水族館へ行こうと思う。海水は飲めないけれど淡水魚の入っている水なら大丈夫じゃなかろうか。魚類がいるから食糧にも困らないしいたせりつくせり。生き物にサンキュー。
でも衛生的にアウトかな。お腹壊すかしら。
そんなどうでもいいことを考えて現実逃避してしまうくらいに現在の気候は不快極まりない。
しかし、僕の不快指数が高まっているのは多湿だけが原因ではない。
視界に映っている光景もまた大いに僕の気分を盛り下げている。
……。カップルが多い。
先月末に行われた体育祭以降、教室でイチャコラしている男女がよく目に付く。
あれかな。明らか足引っ張っている系女子を肩まくりしてる系男子が励ましていたから、恋的なものが芽生えてしまったのかな。
嗚呼、ダメだ。あの寒々な光景を思い出すと鳥肌が立ってしまう。
嗚呼、眼前の人々みんな不幸にならないかな。
「ほらお前ら席につけー。HR始めるぞー」
僕が名前も知らないクラスメイトを心の中で呪っていると、担任の先生が教室に入って来た。マイルドなヤンキーさん達を屈強な男教諭は軽くあしらってから教壇の前に立ち、出席を取り始める。
教師は淀みなく出欠を取っていき、聞き馴染んだ名前を呼んだ。僕は担任にかなりウィースパーな声で返事をした。
自分で驚く。あまりの声の小ささに。
そうか。「はい」という言葉が今日目覚めてから初めて自分が発した声であることに遅まきながら気付く。
基本的に肉親とくらいしか会話をしないし。そりゃ声帯も萎縮し退化するわ。
使わない機能は衰える。人間の神秘にほんのり感動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます