第19話俺たちじゃないですよ?
ギルドの役員と銀甲冑の兵士が事故処理に当たる。魔物は研究に回され、殉職した兵士は丁重に弔われる。ライズは眺めた。少なくとも、流れた血の臭いが届かないくらい離れた門の中から。
デッドリーパーは結局、あの後にハルトたちパーティーがものの二十分ほどで完封した。
感想から言うと、猫と虎。うん、いい例えだ。
自身のパーティーを猫と揶揄するくらいには、桁違いだった。
まず、デッドリーパーのギアの上がった速さに平然と食らいつく前衛。そして、A級魔導師のイアンの魔法をも凌ぐ威力をボコスカ放つ後衛。
そして、何より一番驚いたのは、全員が前衛も後衛も務めるのだ。後衛が魔法を放った瞬間、彼らは入れ替わる。そして、魔法の次発動までのクールタイム中を前衛でタンクとして務める。
ライズは思わず見惚れた。
驚くべきパーティーバフだけではない。彼らはパーティーとしての動きが洗練されていた。聞けばまだパーティーを結成して数ヶ月だと言うではないか。
おそらく、互いに同じ職業であるからして、魔剣士の長所・短所を的確に把握して、それを補い合っているのだ。
「はぁー。俺たち、Aランク冒険者だよな……。なんでDランクの冒険者に助けられてるんだ?」
隣で胡座をかいて座るヤヒロが不満げに頬に手を押しやってぼやく。不機嫌なような落ち込んでいるような、何にせよいつもより元気がない。
「自惚れてたわけじゃないけれど、この街には私たちより強い冒険者なんているわけないと思ってたからねぇ」
「よ、良いものが見れました。研究が捗ります、はい」
ライズは無言を貫いた。クールぶっているなどとヤヒロからはいつも口うるさく言われるが、そういうわけではない。別にカッコつけてるわけじゃないし、何なら今はダサい。非常にダサい。
それでも知らぬ間にヨイショされた名声とまぁ、おそらくビジュアル目当てで、今もこうして遠目からチラチラと視線を感じるんだから、不愉快だ。いっそのこと幻滅してくれれば、もっと静かにこの街にいることができるのだが。
「てーか、あいつら何で手伝ってるんだ? 謙虚なのか? 謙虚すぎるのか? どうなんだよライズ」
どうって言われても……。
「知らん。面識などほぼ無いし、この前まで無名の冒険者だ。わからん」
南門には既に人が戻り始めている。むしろ、今度は準災害級の魔物を一目見ようと、人だかりができているほどだ。一目散に逃げて、安全だとわかるとここぞとばかりに自分の好奇心を優先させる。人間のエゴだ。
しかし、今ばかりは誰もライズたちに近寄ろうとはしない。たぶん、戦闘中の独特なオーラのようなものがまだ無自覚にも放たれているのだろう。
いや、そんなカッコいいものじゃないな。さっきヤヒロがひと睨み効かせたからだ。
何処からともなく拡散しろと言わんばかりに、大声で叫んだ男性がいた。
「ライズさんたち、デッドリーパーを二体も倒したんだって!」
あぁ、始まった。
こうなると止まらない。皆、次々とホラ吹きに踊らされて勝手にヨイショされる。今回については尾びれがつくとかですらない。金魚よりも金魚のフンが注目されている。ただ、負けただけで助けてもらった存在なのに。
「ほら、なんか物足りなかったみたいなオーラ出てるじゃん!」
「デッドリーパー何もできなかったらしいよ」
「二体同時に相手して、勝手に飛び出してきたDランクのでしゃばりを助けたってんだからすげーわ!」
不愉快。実に胸糞悪い。いつも以上に……。
言うなれば、ここにいる群衆と似たようなものだ。少し、時間を稼いだだけで、助けてもらったということに関しては何ら変わりがない。
ヤヒロがおもむろに立ち上がり、彼らに言い放った。
「うるせぇーんだよ! 俺らは何もしてねーよ! 倒したのはあそこにいる魔剣士のやつらだ! わかったらあっちを褒めろ! うざってぇ!」
「ちょっとヤヒロさん。すみません、すみません」
イアンがなぜかすかさず群衆に向けて頭を下げる。
コマチは「逆効果だよ」とため息混じりに呟く。
「うぉぉー謙虚だ!」
「ヤヒロさんは冗談がうまいなぁ!」
「魔剣士ってあの不遇職でしょ? ないわぁ〜」
「俺、Eランクだけど魔剣士ならDランクのあいつらにだって負ける気しないぜ」
彼らが聞かなくてよかった。流石にいたたまれない。
ヤヒロはぶちぎれる。コマチは耳を塞ぐ。イアンは謝る。そしてライズはつまらなそうに空を仰いだ。灰色だ。これから一雨来そうな、嫌な空だ。
でも、嫌いじゃない。
「そんなんじゃねーよ……」
誰かが呟いた。その否定じみたセリフはすぐに他の声にかき消されたが、ライズは確かに聞いた。
振り返る。群衆の輪から外れたのは一人の少年だ。短めの金髪。首と手に無数のアクセサリーをつけて、歩くたびにじゃらじゃら鳴らしている。腰にはレイピアほどの細い刀身の剣。
不満げに歩く彼の背中は派手な身なりに反して、なぜだかライズたちと同じ哀愁に包まれていた。
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