第7話一攫千金チャンス?
雲ひとつない空から降り注ぐ光は、街に陽炎を生み出す。
新緑の芽吹く炎天下の中、四人は木製のテーブルを囲むようにして座る。テーブルの中央には一枚のビラが置かれていた。四人は真剣にそのビラを見つめる。
「ついに来たな......」
ハルトはビラを見ながら呟く。三人は思わず喉を鳴らし、ハルトの発言に無言で頷く。
周りのテーブルでも同じように他のパーティーがこぞってビラを食い入るように見つめていた。なんせ、年に一度の大勝負だからだ。
「今年こそ億万長者になる!」
「昨年は僕のいたパーティは散々な結果だったよ」
「私のパーティもです」
一体、何が冒険者一同を闘志を剥き出しにさせているのかというと――
「ドキッ! 真夏のスライム大繁殖だ!」
三時間後、ハルトたちは街から馬車で一時間の『暴殺の草原』に来ていた。その名前に似合わず、生息する魔物のレベルは低く、駆け出しのパーティがクエストで訪れるような場所だ。
『ドキッ! 真夏のスライム大繁殖』とは、スライムの繁殖期である初夏に開催される冒険者のお祭りと言っても過言ではないイベントだ。
毎年このイベントで、多額の賞金を得る冒険者パーティが現れる。というのも、元々スライムという魔物は最弱の魔物といわれている。緑色の体はゼリー状で、打撃・斬撃はもちろん、魔法抵抗力も低い。初心者どころか、冒険者でなくとも簡単に倒せてしまうような魔物だ。
しかし、繁殖期になると、極稀に黄金色のスライムが生まれる。そいつを倒して得られる素材はとても高額で取引されていることから、毎年冒険者はこの繁殖期になるとこぞって暴殺の草原に訪れ、そこら中に溢れるスライムを乱獲するのだ。
「昨年の最高記録は七百万ガロらしいからな。腕がなるぜぇ」
ハルトは剣を振り回し、溢れかえるスライムの群れをザクザク斬り倒す。
周りを見渡すと、既に多くの冒険者が同じようにスライムをなぎ倒している。
「あーもう! 人もスライムも多過ぎ! 魔法ぶっぱしたくてもできないじゃない!」
「私達は剣が使える分、まだマシ......だと思う。魔法職の人とかは、杖で地道に殴るしかないから」
既にスライムをなぎ倒し始めてから二時間。四人にも疲れの色が見えてくる。
しかし、今年はまだ黄金色のスライムを倒したという報告は上がっていない。不作の年ということだろうか。
「ねぇ、みんなもう少し奥に行かない? ここも人が増えてきたし」
「でも、ここより奥って最奥地だろ? あそこは毎年スライムが少ないぞ?」
「もういっそのことスライムが少なくてもいいから、人が少ないところ行きたい。ってか、魔法ぶっ放したい」
マナツは剣を振る手を止め、汗を拭う。三人もそれに習い、手を一旦止めて突進してくる個体のみ対処するようにして休憩をとる。
しばしの間、議論を重ねた結果、四人は暴殺の草原の最奥地である洞窟に場所を変えることにした。
やはり例年通り、スライムの数は少なく、冒険者の数もまばらだ。
「はー快適。魔法って素晴らしい」
今日一番の笑顔で特大の氷塊を大砲のように連発するマナツを見て、ハルトは苦笑いを浮かべる。
小一時間ほどスライムを無心で狩り続けたが、ここでも未だに緑色のスライムしかお目にかかれていない。
「うーん、そろそろスライムも枯渇してきたぞ。もしかして今年は黄金スライムは出現しないのか?」
「まぁ、毎年個体数に差があるし、今年はハズレ年かなぁ」
辺りに完全にスライムが居なくなったことを確認し、四人はその場に座り込む。他の冒険者も諦めて街へと引き返し始めていた。
その時、洞窟の奥から悲鳴が聞こえてきた。恐怖の入り混じる切迫した声だった。
四人は顔を見合わせる。早々に立ち上がり、悲鳴の元へと駆けつけると、そこには地面に倒れ込む三人の冒険者。そして、その奥に洞窟を埋め尽くさんばかりの巨大な黄金色のスライムがそびえ立っていた。
「なっ......スライムジェネラル!?」
スライムジェネラルとは、ランクCの魔物であり、普段であれば暴殺の草原には出現しない魔物だ。スライムの比にならないほどの突進力と、高速で射出される溶解液に数々の冒険者が命を落としている。
本来であれば、金よりも命を優先して街に退避、上級のパーティに任せるのがセオリーだ。しかし、四人の脳裏にはそのような安全策など、その黄金の塊をみた瞬間から消え失せていた。
互いに顔を見合わせ、にやりと口角を上げる。
四人は血眼になり魔法を詠唱した。
この後、特大の魔法が四発スライムジェネラルに撃ち込まれ、オーバーキルをかましたことは言うまでもない。
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