Ⅹ‐ ③


 その後、俺たちはまたいつもの生活に戻った。


 件の乱堂恭介について、学校側は俺たちの作った偽の号外や送られて来た資料の内容を精査。その結果、飲酒、喫煙、ボヤ騒ぎ等の件については「証拠不十分」として切って捨てた。

 テストの点に関しては教師共々不正があったことを認めたが、その分を差し引いても十分な好成績であること、生徒会での活動なども加味して、なんとか卒業には漕ぎ着ける公算が大きい。不正に加担した教師共の処分については、教育委員会から追って沙汰があると言う。

 ただし、乱堂恭介が推薦で通っていた国立医大への進学に関しては、大学側の再審議の結果、入学許可は取り下げられることとなった。

 一方、俺たちの方はと言えば、短い三学期、期末だなんだと言っている内に事件のことは次第にみんなの記憶から薄れて行き、満を持して春休みに入る頃には、そんな話題を口に上らせる者は一人もいなくなっていた。




 年度は変わり、俺たちの高校生活もとうとう三年目に突入した。

 周りはみんな、まじめに受験のことなんか考えるようになっていて、俺もそいつらに流されるように、血迷ってセンター試験の過去問なんぞを買ってみたりなんかしていた。

 だからと言って、なにも俺のバカの血が枯れ果てたわけではない。受験勉強の合間を縫うようにして、俺たちは俺たちらしく粛々とバカをやっていた。それはまあ、安納幸寿の作るクッソみたいな歌詞に、関譲がメロディを付けて、瀬ノ宮友司のお昼の放送で披露するとか、そんな程度のものでしかなかったが。


 学校の方はと言えば、新しく生徒会長に就任した柏原玲梨の下、新生生徒会は失墜した威信の回復と校内の風紀引き締めのため、大々的な広報活動を展開していた。しかも、その広報活動にはあろうことか、我らバカの一団まで駆り出されることになっていた。

 マシバ失踪の後、レイリ一派及び新生生徒会と俺たちを繋ぐパイプ役はサコツが一手に担っており、彼女である相崎百合香に「お・ね・が・い(ハート)」されるたび、生徒会の人手不足を補うべく俺たちが出動する羽目になる。

 俺とレイリの仲は相変わらず冷え切ったままだった。

 俺がやりたくもない校内のポスター張りを二時間延々とやっていても、あいつからは労いの言葉一つなく、そればかりか「そこ、端から一枚ずつずれてる。やり直し」と、指図までしてくる始末。

 だからやっぱり、俺とレイリはよく言い合いになった。が、それは以前のようにドロ沼化することはなく、一言二言お互い言いたいことだけ言って、それでもうお終いというものだった。

 レイリと言い合いをしている時、俺はあいつの顔を見ながら、頭の中では別のやつのことを考えていた。きっと、レイリも俺と同じだったに違いない。

 俺とレイリ、水と油の関係である俺たち二人の間を取り持つ界面活性剤みたいな存在のマシバは、依然消失したままだった。




 やがて夏が来て、秋がすぎ、冬を迎える頃には、俺たちももうバカだけやっていればいいという状況ではなくなっていた。

 みんなそれぞれ真剣にこれからのことを考えていて、俺も割とマジな感じでせっせと大学の願書を書いていた。

 みんな、学校ではバカを言い合いながらも勉強には真面目に取り組んでいた。放課後には必ず誰かの家で勉強会を開き、息抜きにと始めたゲームに本気になって、後で集団自己嫌悪に陥ったりした。

 とまあ、そういうのも全部ひっくるめて、俺たちは最後の最後まで、高校生活を楽しんだ。


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