Ⅸ‐ ③


 俺はすぐさまサコツとロッテを呼び付け、そのままヤブの家で緊急会議を開くことにした。


「すげーな、シン! どうやってこんな物手に入れた?」


 アキラの持って来た情報に、二人は目を丸くした。

 しかし、俺は二人の疑問には一切答えず、代わりに、俺が考えていた計画を打ち明けることにした。


「いいか、二人ともよく聞け。これは俺たちの、バカの集大成となる一大プロジェクトだ……」


 明かされた、乱堂恭介に関する事実は、俺の想像を遥かに超えていた。そして、それにより俺は確信していた。

 予てより俺の中で温めていた、史上最大の作戦――その成功を。


 俺の計画を聞いて、二人は神妙な面持ちになった。


「……本当にやるのか、シン?」サコツが不安そうに聞く。

「そのつもりだ。そのために、幾つかもう準備はしてある」


 この期に及んで、退くつもりなど一歩もない。手抜きも妥協も一切なしだ。徹底的に、完膚なきまでにやつを叩く。


 ただ一人、乱堂恭介ただ一人を、この世界から退場させる。


「俺は、シンの計画に乗るよ!」


 ロッテが言った。


 俯いたままのサコツを、俺とロッテが揃って見やる。


「……ここに集いし我ら三人。生まれた日は違えども、死ぬ時は同じ」


 サコツは静かにそう言った。それだけで十分だった。

 こいつの覚悟は、受け取った。


「じゃあ、やるか!」

「おう」

「うん!」


 俺たちは一つになった。また、みんなで一つになるために。


「事態は急を要する。早速今から行動開始だ!」


 身支度を整え、慌ただしくヤブの家を後にした俺たちは、またしてもあの男の元へ向かった。


 俺たちがやつの家に着いた時、シルバーPこと関譲は呑気に雑煮を食っていた。


「おい、餅なんか食ってる場合じゃねえ! おまえは今日が仕事始めだ!」


 喉につかえた餅を無理やり飲み込んで、関譲はにやりと笑った。


 俺たちは乱堂恭介に関して集めた情報を元に、関譲と協力して再び偽の号外を作ることにした。「偽の号外Ver2」である。

 それと同時並行して、筆達者なロッテには一つの纏まった文章を書いてもらう。通称、「重要なお知らせ文」だ。


 この二つが出来上がれば、計画も三分の一は終了と言っていい。大事なのは、それを問題なく運用できるかどうかということだ。全てはその一点に懸かっている。


 作戦決行の当日には、迅速かつ人手のいる作業が待っている。

 俺は各クラスのリーダーたちと密に連絡を取り合い、信用に足る、選りすぐりの俊足の士数名を確保した。当然、この中にはサコツも含まれている。

 俺たちに残された時間はそう長くない。大至急、選定された複数の俊足の士とその他数名の工作員を召集。当日の動きについて念入りなシミュレーションとリハーサルを行いつつ、あらゆる障害を打破すべく、抜かりなきよう手はずを整える。

 さらに、乱堂恭介への圧力を強めるため、各方面へ配布する資料作成も余念なく推し進めて行く。これには細心の注意を払い、出来上がった物を作戦決行の前日にポストへ投函した。


 さて、これで全ての用意は成った――。


 明日は三学期始業式。前哨戦はすでに始まっている。今の俺たちは、さながら背水の陣真っ只中と言ったところか……否、元より帰る場所などない。

 ただ、俺たちはあの男の帰りを待つだけだ。


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