Ⅷ‐ ①


 みんなを前に、俺は由口雄貴から聞いた話を要点だけ絞って話した。


 みんなの反応は一様でなかった。


「俺は、乱堂を絶対に許さねえ。残りの高校生活全てを投げ打ってでも、必ずやつを地獄に落とす!」


 俺の言葉に、ロッテは激しく首を縦に振った。サコツは顔を拭うレイリに優しく寄り添っている。ヤブは……気付けばどこかへ消えていた。

 俺たちは後日対策会議を設けることにして、一旦その場は解散することにした。


 一番の心配はレイリだった。こいつの性格では、生徒会長である乱堂恭介の本性を知った今、激昂してなにをしでかすかわからない。そんなレイリに俺は、

「乱堂のことは俺たちに任せて、おまえはいつも通りにしていろ」と、しつこいくらいに言って聞かせた。


 俺が話をした時だって、乱堂恭介がレイリの家庭を脅かそうとしていることにまでは言及していない。これ以上、こいつの心に傷を付けたくはなかった。


 解散したとは言え、俺たちの戦いはすでに始まっている。なにをおいても、まずすべきことが一つだけある。そのために、俺はサコツと相崎百合香の二人を呼び出した。

 ひとまず、相崎百合香にも掻い摘んで事の次第を説明する。彼女はそれにひどくショックを受けたようで、サコツの支えがなければ立っていられないほどだった。まあ、無理もない。

 が、これも全て必要なことだ。その上で、俺は二人にとある重要な任務を与えた。


「柏原玲梨を、全力で死守せよ――」


 由口雄貴の話から、乱堂恭介がレイリに対してなにか邪な思いを抱いていることは明白。

 俺にとっての天敵・レイリも、マシバにとっては愛した女だ。マシバがその身を犠牲にしてまで守ろうとした、それをあいつが守れないなら、誰が守ってやればいい?


「電話でもメールでもLINEでもなんでもいい。相崎さんにはレイリの動きを常に把握していてほしい。なにかあれば、すぐにサコツを呼んでくれ。サコツ、おまえもできるだけ相崎さんのそばにいろ。相崎さんまで巻き添えを食うようなことになったら、それこそ洒落になんねえ」


 サコツは無言で頷いた。


「うん。レイリにはいつも守ってもらってばっかりだったから、今度は私が守ってみせる!」


 相崎百合香は両手を握り絞め、力強くそう言った。

 この二人には、主にレイリの防衛を担当してもらう。しかし、これはあくまでも陰ながらのサポートだ。こんなことをレイリに言ったところで、あいつはきっと一も二もなく撥ね付けてくるに決まっている。だがしかし、もしもレイリになにかあった時、それで傷付くのはレイリ本人だけではないのだ。

 あいつの意思に関わらず、俺たちは俺たちの意思であいつを守る。


 相崎百合香には、レイリを慕う女子たちを総動員しての一大「レイリ防御網」を敷くことを指示し、常時誰かの目があいつに張り付いているという状況を作り出すよう、重ねて依頼した。

 普段は厄介なだけの女子の結束力も、こういう時には役に立つ。

 この日はそこまでを確認して、相崎百合香とは別れた。


 肝心の文化祭の方はと言うと、想定していただけの集客・売上には程遠い結果となった。それでも、売上ベースでは全校二位の座に着けたと言うのだから、これはもうクラスの団結と瀬ノ宮友司の協力の賜物であろう。

 俺とサコツはクラスのやつらに礼を言い、率先して後片付けに励んだ。


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