Ⅵ‐ ①
秋になり、文化祭の近付く季節となった。
俺たち二年A組は、抽選倍率五倍という難関を潜り抜け、見事「喫茶店」出店許可を取り付けることに成功した。
早速学級会議が開かれ、喫茶店の内容について喧々諤々の議論が交わされた。その結果決まったのは、「執事&メイドカフェ~おかえりなさいませ、ご主人様。ようこそ二年A組へ~」という、なんとも長ったらしくもわかりやすいものであった。
まずはメインとなる執事&メイドの選出だ。これには、立候補と推薦投票という二つの形式によるポイント合算制で係が選出された。
男子については言わずもがな、圧倒的支持を受けたマシバとロッテがまずは頭一つ抜け出し、三人目には同点でサコツと
女子は上位陣が混戦となる中、
次に衣装制作係を決め、最後は余った人間の中から食糧調達班と調理係を決めるだけだ。
結局、食い物なんぞはついでにすぎない。適当にコーヒーとサンドイッチでも作って出しておけばいいのだ。
重要なのは、いかに他で差異を付けるかということ。
抽選倍率五倍を潜り抜けたとは言え、校内にはまだ二つも喫茶店を出すクラスがあるのだ。うかうかしてはいられない。
だがしかし、こちらには最強の切り札・マシバがいる。やつが凛々しい執事に扮し、笑顔で接客に当たるとなれば、学校中――いや、学外から来た女子までが、我がクラスに殺到するに違いあるまい。
店には飲食の他に「執事&メイドとのツーショット。それぞれ一回百円」というオプションを設けてある。当日はこれで、群がるマシバ信奉者の女子共から銭金を巻き上げてやろうという魂胆だ。奉仕するのはマシバではなく、マシバ目当ての女子共の方だ。さあ、思う存分尽くすがいい、貢ぐがいい。
ちなみに、俺は食糧調達班の一員となり、文化祭前日に調理係が考案したメニューの買い出しに行くだけという、なんとも楽ちんな役どころに納まった。
文化祭の準備は前日の放課後遅くまで続き、ようやく解散となった頃にはとっぷりと日が暮れていた。
「そんじゃあ帰ろうぜ、マシバ」俺はマシバに声を掛けた。
「わりぃな、シン。俺、まだ生徒会の方で動かなきゃなんねえから、今日は先に帰ってくれ」
マシバは申し訳なさそうに、俺の前で手を合わせた。
「そっか、大変だな」
「まあな」
「そんじゃあ俺、先帰るわ」
「おう、また明日な」
「ういー」
そう言って、俺たちは別れた。
いつものように。
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