Ⅴ‐ ②
とある昼休み。机を突き合わせて弁当を食べながら、俺はマシバに言った。
「なんかおまえ、最近楽しそうだな」
「そうか?」言いながら、マシバは俺の弁当箱からウインナーをつまみ上げた。
「ああ。やってることは、全然面白そうに見えねえけど」俺もマシバの唐揚げを掠め取る。
「まあ、面白いってことはないよな」マシバが俺に茹でたブロッコリーを寄こしてきた。
「じゃあ、なにがそんなに面白いんだよ?」俺はマシバの白飯の上にアスパラを突き立てた。
「おい、それはやめろ」
「わりぃ」
俺とマシバがそんなやり取りをしていると、横にいたサコツが机を叩いてきた。
「うん?」
「あれ――」親指で後ろのドアを差すサコツ。その顔は、ほんのり赤みを帯びていた。
俺たちがそっちの方を向くと、ドアの前にはレイリと相崎百合香が並んで立っていた。どうやら、生徒会の用事でマシバを呼びに来たものらしい。
「わりぃ、俺行くわ」マシバはそそくさと用意を始めた。「これ、おまえが食っとけよ、シン」そう言って、マシバは白飯にアスパラの突き立った弁当箱を俺に押し付けていった。
「ごめんごめん、忘れてた」
「もう! 朝のLINE、見てないの?」
やって来たマシバに、レイリは口を尖らせて言った。
「違うって、ずっと見てたら、見過ぎて忘れちゃったんだよ」
「なにそれ、どんな言い訳?」
軽快なド突き漫才を披露して、二人は教室を後にした。
相崎百合香もサコツに向かってにっこり微笑み、小さく手を振って、二人の後を追って行った。彼女もまた、生徒会の書記としてレイリを陰日向にサポートしていた。
「……おい、サコツ!」俺は、サコツの肩を軽く殴った。
「え、え、なに?」
「それ!」言って、俺はサコツの手を指差す。
「ああ……」
サコツは、手に持ったおにぎりを強烈な握力で握り潰していた。
「いい加減、もう慣れろよ。顔、赤いぞ?」
「……うっせえ!」
サコツと相崎百合香が付き合っていることは、今や全校周知の事実であったが、サコツはまだ、校内で彼女と顔を合わすことに恥じらいを感じていた。
俺はマシバからもらったそのアスパラの生えた弁当を、すぐそばで昼メシを食っていたロッテとヤスオ君にあげた。
その後も、マシバとレイリが並んで歩いている姿は、校内のあちらこちらで見受けられた。それ自体は別にどうでもいいことだったのだが、たまたま廊下を歩いていたマシバに声を掛けると、横からひょっこりレイリが顔を覗かせる、なんてこともあって、お互い気まずい雰囲気になったりもした。
しばらく時が経ったとは言え、俺とレイリの仲は相変わらず険悪なままだった。そして、それがまたしても如実に表れる事件が起きた。
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