『アイをツぐ者』②
その後、俺と宮前亜子が会話をすることはなくなった。
クラスの中にいても、互いが互いをそこにいないものとして意識していた。それでも、たまに宮前亜子が俺の席の横を通り過ぎる時なんかは、思わず身体が固まった。
俺にまた、ミスチルのアルバムを差し出してくるんじゃないか……。発売されたばかりの新曲について、ポップコーンが弾けるみたいに次から次へと感想を語り掛けてくるんじゃないか……。
記憶と幻想がない交ぜになり、たった一瞬の出来事なのに、俺の精神は大いに疲弊した。
また、これは後になってからマシバに指摘されて気付いたことだが、俺が宮前亜子からの告白メールをもらったのは十二月三日。クリスマスイブまであと三週間と迫っている時期だった。
「時期を考えろよ、シン」
俺はそんなことすらも考えられないような、とびっきりのウルトラバカだった。
どうやら、今年も俺の元にはそりに乗ったサンタクロースがやって来ることはなさそうだ。訪れる者があるとすれば、そいつはきっと西高東低の冬型気圧配置に乗った極寒の冬将軍かなにかだろう。
いやなに、どうということはない。俺の恋の氷河期は今に始まったことではないのだから。
「まあ気にすんなって。なんならロッテも誘ってさ、今年はヤブの家で男だらけのクリスマスパーティーでもしようぜ」マシバがへらへら笑いながら声を掛けてきた。
別に、俺が振られたわけでもないのに、さも同情するかのような口振りで話すマシバのことが俺は気に食わなかった。
もちろん、マシバが俺の鬱屈した気を晴らそうとしてそう言ってくれていることはわかっていた。それでも俺は、そんなマシバに対して素直になれる気分ではなかったのだ。
「どうせ、おまえはイブの日にも誰かに告白されたりするんだろ?」
俺はマシバの顔など一切見ず、足元の凍ったアスファルトに叩き付けるように言った。
「断るさ。なんか、そんな気分じゃねえんだ」
この時期、マシバに彼女がいないというのは非常に珍しいことだった。それどころか、マシバは二学期に入ってからまだ誰一人として女と付き合っていなかった。
「どうした? 好きな女でもできたのか?」俺がからかうと、マシバは「どうだかなあ?」とおどけて見せた。
結局、この年のクリスマスイブはマシバの言ったようにヤブの家で男四人、ヤブのお母上特製の巨大クリスマスケーキを囲んでの、それはそれは涙が出るほどに楽しい一夜となった。
一方、サコツは彼女である相崎百合香と二人、お互いガッチガチの凍えるようなクリスマスデートを楽しんだとか楽しむ余裕もなかったとか――。
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