第九夜 「怪談」とは何であるか?
あみ 「よっすー」
みか 「こんばんはー」
かず 「ばんわー」
†我†「邪魔をする」
あみ 「ねむーい! 昨日、ヨフカって映画観たの失敗したしー!」
かず 「チャットしてないで、はよ寝ろ」
†我†「ほう、映画であるか。例の物だな」
あみ 「そなのデスよー。お気にの俳優サン出てたので油断ってたんだけどー」
あみ 「これまた、ごてごてのゴシックホラー物でー。超怖かったし!」
かず 「夜に観るとまた倍増だわな」
みか 「コワーイ」
あみ 「おトイレ行くのも大変だったわー」
かず 「一回止めたらええやん」
あみ 「TSUTAYAって来たヤツじゃなくてー、たまたまテレビ点けたらやってたヤツ」
かず 「オムツでも履いちまえ。ゲーマーの間ではいるぞ、オムツァー」
あみ 「マジデスカ」
ここでしばしかずの無駄知識の披露。
廃人ゲーマーが途中で離席したくないがために取る手段は二つ。一つは既出のオムツ装着プレイ。別のプレイに聴こえるが、あみは敢えてツッコまずにスルーする。二つ目はボトラー。文字どおりペットボトルで用を足してしまうツワモノである。
あみ 「オネーも寝ちゃってたし、おトイレに行くまでがヒヤッとしてまた怖くってー」
かず 「で、漏らしたと」
あみ 「お漏らしないデス! 超ギリセーフだったし! ぎゃおー!」
みか 「あみちゃん、ボーコー炎になっちゃうと痛いよー?」
かず 「しかしだな……あたしの場合、洋モノは意外と怖くないんだよねー。和はやばいが」
あみ 「もしかして怪談話とかも苦手ったりするカンジ?」
かず 「おいこらやめろ」
あみ 「番町皿屋敷とかの古風なのもコワイけど、最近の都市伝説系はコワイよねー」
みか 「へー物知りー」
あみ 「廃村とかの話ならまだ行かなきゃいいケド、身近にあるネタは超コワイデス」
かず 「やめろってばよー」
あみ 「テケテケとかくねくねとか。隙間女とかはありソーで超コワイ! ぎゃおー!」
かず 「くぁwせdrftgyふじこlp」
いつもと立場が逆転し、あみが主導権を握っていくつかのエピソードを仔細に至るまで披露する。対して、普段は披露する側のかずのチャットがしばらく意味不明な文字の羅列になった。
かず 「はーはー! やめろっつーの! 風呂入った時、シャンプーできないだろ!」
みか 「一番無防備だもんねー」
あみ 「ガシガシーってやって、パッと顔を上げたら」
かず 「うおおおおお! やめいと言うに!」
†我†「怪談、というのはそれほどまでに恐怖を与える物なのか?」
みか 「ヒトによりますねー」
あみ 「ん? みかっちはダイジョーブなん?」
みか 「あんま怖くないですよー」
†我†「ほう。勇敢なのだな」
みか 「えっとー。そういう訳じゃなくてー。結局、一番怖いのは人間の想像力なのデス」
あみ 「……みかっちって突然スゴイこと言ったりするよね」
みか 「それにー。怪談話って、話した人のところに霊がよりやすいのでダイジョブです」
あみ 「……ぎくっ」
かず 「あたしはしてない! してないぞ! あたしじゃないからな!」
みか 「あれ? あみちゃんの後ろの人、誰です?」
あみ 「ぎゃおー! ってチャットだから見えてないっしょ! もー! あれ……?」
かず 「おい」
みか 「おーい」
かず 「……おい!」
みか 「……おーい!」
かず 「……」
みか 「……」
あみ 「メンゴメンゴねー。オネーが帰って来たのでお迎え行ってましたー!」
かず 「驚かすなっつーの! マジかと思っただろーが! つか、おせーな、ねーちゃん!」
†我†「怪談か。成程……これは有益な情報を得たな。うむ」
しばらく間を置いて、再びチャット。
†我†「礼を言うぞ、無垢なる少女たちよ。我はまた現れる。その時はよろしく頼むぞ」
以上、チャット終了。
我と名乗った存在はその後の会話を知ることはなかった。
「ふむ」
代わりに今日知り得た情報を整理することにする。
怪談とは――。
人間たちの想像力を最大限に働かせ、互いを恐怖に陥れるための逸話である。古よりこの風習は行われており、今では『都市伝説』と呼ぶように、各地にそれぞれ特色を生かした怪談が存在するようだ。いくつか名前の挙がった物はあったが、詳細は語られていないため、不明である。また、この風習を執り行うことで、魔や霊を呼び寄せる効果があるらしい。
しかしながら、それらによって人間は何の恩恵を得るのか、という謎が残る。
我が考えるに、これは闇魔法、中でも人間たちの闘争心を削ぐためにもっぱら用いられる『
魔や霊を呼び寄せる効果というのも、それで頷ける。これに応じるのは魔族の中でも低級の者に限られると思うのだが、ほいほい呼び出された者を倒し、少しずつ少しずつ、我々の戦力を削り取るための重要な儀式でもあるのだろう。
ただ一つ、一つだけ、我に疑問が残る。
どの怪談も、それを見た者は皆死ぬ、や、皆発狂した、などの表現で締めくくられていたのだが、では、その話を語っている者は一体どのようにそれを知り得たのだろうか?
ううむ……そちらを考えた方が余程怖い。
結論:夜、寝る前には必ず用を足しておくこと。きっちりとだ。いや、我には何一つ恐るるものはないのだが。嘘ではない。
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