第十夜 「マジ卍」とは何であるか?

 あみ 「よっすー」

 みか 「こんばんはー」

 かず 「ばんわー」

 †我†「邪魔をする」

 あみ 「あんさー、かずっちっていわゆるコギャル語って使わないっしょ?」

 かず 「おっと。イキナリだが、そうだな、使わんぞ」

 あみ 「みかっちもそうだよねー?」

 みか 「ん!? ザギンでシースー! チャンネー、レイコー一つー!」

 かず 「そ、それはコギャル語じゃないですわよ、みかお嬢様? いまどきギョーカイ人の口からも聞いたことないっつーの」

 †我†「む。ギャル語とは何であるか?」

 あみ 「あーしたちみたいなJKの、イケイケなウェイウェイした人たちが使う言語デス」

 †我†「しかしだな……お前たちは使わないのではないか?」

 あみ 「ま、そーなのデスよね……あーしたち、ウェイウェイしてないんでー」

 †我†「ウ、ウェイウェイ?」

 みか 「上野のパンダの名前だよー!」

 かず 「じゃねえよ! 過去にいた気がするけどな」

 かず 「若者同士が盛り上がった時に発する挨拶みたいなモンですわ。ウェーイ!みたいな」

 †我†「ウ、ウェーイ?」

 あみ 「ウェーイ!」

 みか 「ウェーイ!」

 かず 「ウェーイ!」

 †我†「……盛り上がった気が少しもせんのだが」

 かず 「でしょうね」


 盛り上げるつもりが逆にしょんぼりしてしまった†我†を、しばしJK三人が元気づける。


 みか 「でも、あみちゃんは分かったりするのー?」

 あみ 「って、思われてるのがあーしのおナヤミっつーかなのデスよ」

 かず 「そもそもギャル様とか呼んでるけど、あみっちはネイティブ眉だしな」

 あみ 「判断基準ってソコなのデスかー! ぎゃおー!」

 あみ 「ケド、眉全剃りとかさすがにねえ……って思いませんこと?」

 かず 「無理にお嬢言葉に挑戦せんでもいいわ」

 みか 「あみちゃんはネイルもペディキュアも凝ってるけど、コギャルではないですねー」

 あみ 「っしょー? 髪型もメイクもガンバるけど、コギャルではないのデス」

 かず 「よく知らんヤツからみたら同じように見えるんだろうな」

 あみ 「なのデス。ほら、ウチのガッコーにもいるっしょ? セリナっちとかレイっちとか」

 かず 「あー。確かにアレはコギャルって気がするのう」

 あみ 「マジトークされるとぜっんぜん会話が分からないのデス」

 かず 「〇〇ラーくらいなら少しは予想つくけどな。略語は初見じゃ分からん殺しですわー」

 あみ 「そなのデス! OPPとかSMとかDSとか言われてもわーかーらーなーいー!」

 かず 「『おっぱい』に『サドマゾ』に『携帯ゲーム機』……エロゲか? エロゲなのか?」

 あみ 「じゃなくて!」

 あみ 「『お腹痛い』に『スーパーむかつく』に『大好き』って意味らしーデス」

 あみ 「もー、さすがにイミフなのできーちゃったのデスわー! ぎゃおー!」


 さらに出てくる出てくる。BBAにDT、さらにはGHQのようなかつて実在した略語の変質した用法まである。KSやKY、MJDくらいは何とか意味も汲み取れるが、『ジャミる』と言われてもガン〇ムXしか浮かばなかったのはむしろかずだけであった。


 かず 「無理して覚えんでもいいだろうに」

 あみ 「なんかーお邪魔な気がして少しでも分かった方がイイカナーって思うのデス」

 みか 「そういうとこがあみちゃんのいいところですよねー」

 あみ 「でもっ! アレだけは無理デス! マジ卍!」

 †我†「むう……何と読むのだ?」

 かず 「『マジマンジ』と読みますな」

 かず 「でもこれってさー、スマホが浸透したこの世界だからできた言葉じゃね?」

 かず 「絶対、『マジマジ』って打とうとして変換ミスっただけっしょ」

 †我†「『マジ』とは『本気』という意だったな? では『卍』とは?」

 みか 「元々の意味は、幸福や繁栄を表すみたいです。日本では寺院を表す記号ですねー」

 かず 「意味なんてコギャルどもには関係ないんすよ、きっと。奴ら、感覚で生きてるんで」

 あみ 「でも、写メる時に、『卍~!』って言われても、あーしも困るのデス」

 かず 「卍のポーズ取るのか? むむむ……できん! こちとらオタクで良かったぜ!」

 みか 「(ノ ̄∀ ̄)ノ========卍」

 かず 「投げんな! 忍者か!」

 †我†「マジ卍か。成程……これは有益な情報を得たな。うむ」


 しばらく間を置いて、再びチャット。


 †我†「礼を言うぞ、無垢なる少女たちよ。我はまた現れる。その時はよろしく頼むぞ」


 以上、チャット終了。

 我と名乗った存在はその後の会話を知ることはなかった。


「ふむ」


 代わりに今日知り得た情報を整理することにする。



 マジ卍とは――。


 人間たちの中でも若年齢層、それも雌個体の一種である『コギャル』と呼ばれる種が常用する特殊な言語、『コギャル語』の中の一例であるようだ。当初『コギャル語』は方言の類かとも思われたのだが、生態も言動も特異で奇抜な彼らだけの閉鎖的なコミュニティでしか通じない符丁のようなもの、と考えた方が良いのだろう。


 では何故、他者に理解され難い特殊な言語を用いるのか。しかも、その進化と変容する速度は尋常ではないという。これは、我が考えるに、相互にやりとりする情報を隠匿する目的があるものと推測している。そうだ、過去に得た情報に近いものがあったではないか。『アルバイトとは何であるか』を学んだ際と似ている。言語を省略して運用することは、省略詠唱の技術鍛練に酷似している。ただ此度の場合には、言語運用者は魔法に精通したものではないらしい。では、彼女たちの目的は一体何なのだろうか。この謎は深い。


 そして、肝心のマジ卍だ。


『マジ』は『本気』を示し、『卍』は寺院を表す記号であり、同時に幸福や繁栄を表すと言う。であるならば、これは憎むべき神への祈りの言葉なのであろうか。我ら魔族に悟られることなくその信仰心の何たるかを示すため、それを迅速にかつ効果的に行うための。



 結論:HK、SKTのユグーとMTした。MKJの神対応にMK。マジ†。


 訳 :話は変わるが、《千の言霊遣い》のユグーとミーティングした。魔法効果時間の素晴らしい対応に本当に感謝している。本気の我――魔王。



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