第六夜 「もんじゃ焼き」とは何であるか?

 あみ 「よっすー」

 みか 「こんばんはー」

 かず 「ばんわー」

 †我†「邪魔をする」

 あみ 「毎日がーあーつーいー!」

 みか 「あっつーい」

 かず 「連日真夏日だもんな。三十九度とかインフルった時くらいしか出たことないわー」

 あみ 「部屋の中にいても汗かいちゃってベタベター」

 かず 「ほほう。さすがは乳ブラ裸族のあみっち。下乳に汗がたまるたまる」

 あみ 「だーれーがー! 乳ブラ裸族デスかー! ぎゃおー!」

 あみ 「でもでもー。おっぱいには汗腺がないので汗かかないとか聞いたことあるケド」

 かず 「それはYESでありNO。実は乳腺こそ発達した汗腺なのであるよ、あみっち殿」

 あみ 「マジで!?」

 みか 「ほへーびっくり」

 かず 「それでは、ここで顔の汗を止める必殺技を伝授しようかのう」

 みか 「教えてハカセー」

 かず 「よろしい。腋の下を圧迫すると止まるのじゃ。祇園の舞妓さんの秘儀じゃな」

 あみ 「あーなるー。帯をギュッとね」

 かず 「それはマンガのタイトル……げふんげふん」

 かず 「ともかく、さすれば顔の汗は止まり、メイクも崩れずに済むのじゃよ」

 みか 「タメになるー」

 かず 「あたしはメイクなんぞしないけどな!」

 あみ 「オネーに教えてあげよっと」


 しばしメイク談義……というより、あみによるメイク講座が繰り広げられる。


 あみ 「でもさー。汗かいてもやりたいことってあるよねー」

 かず 「実セ」

 あみ 「ん?」

 かず 「何でもない何でもない。オホホー」

 あみ 「またエロっちーことだしゼッタイ!」

 みか 「エローい」

 あみ 「たーとーえーばー。あっつーい鉄板でもんじゃ焼きとかー!」

 みか 「もんじゃ焼き?」

 かず 「おう。みかお嬢様におかれましてはご存じありませんでしたか、もんじゃ焼き」

 †我†「我も知らぬ。何だ、その『もんじゃ焼き』なる物は?」

 かず 「あたし的にはお好み焼き派なんだが」

 あみ 「えとえとー。えとー……もんじゃ焼きって説明ムズくない!?」

 かず 「ううむ。確かに。これに関してはみかっちも知らんみたいだからな。困った」

 あみ 「あうう……『お好み焼き』の水っぽい奴!」

 みか 「オコノミヤキ?」

 †我†「我も分からぬぞ」

 あみ 「うぇえっ! ピ、ピーンチ! どしよー??」

 かず 「あ、あたしに振るな! ええと、イッツ・ジャパニーズ・パンケーキ!」

 あみ 「何で英語だし!」

 かず 「それのさらにウォータリーな奴!」

 あみ 「中途ハンパに英語だし!」

 かず 「ホットなプレートにインして、ジュージューいったらヘラでイントゥ・マウス!」

 あみ 「あーしも分かんなくなってきたデス……」

 かず 「アウチ! トゥー・ホット! ウォーター・プリーズ! ヘルプ!」

 あみ 「……自分で書いてて爆笑してるし、ゼッタイ!」

 みか 「なるほどー!」

 †我†「ふむ。何となくイメージは固まったな」

 みか 「ねー?」

 †我†「である」

 あみ 「マジで!?」

 かず 「マジか!?」

 †我†「成程……もんじゃ焼きという物はおおよそ理解できた」


 しばらく間を置いて、再びチャット。


 †我†「礼を言うぞ、無垢なる少女たちよ。我はまた現れる。その時はよろしく頼むぞ」


 以上、チャット終了。

 我と名乗った存在はその後の会話を知ることはなかった。


「ふむ」


 代わりに今日知り得た情報を整理することにする。



 もんじゃ焼きとは――。


 人間族の国、ジャパンで好まれているパン・ケーキ――すなわち半獣神風のケーキ――と読み間違えると思った者もいるだろう。いやいや、そうはいかない。これはこの我ならば過たず理解できる。小麦粉に水を加えて焼いた、人間族の食すあのパンであろう。それに相違ない。


 ただし、水の分量を間違えた物、と言う補足説明があった。そうなると適切な膨らみを得られないだろうからべちゃべちゃになった失敗作である筈だ。だが人間は、ときにこうした失敗から成功を学ぶ。この点は我ら魔族も学ぶべき必要があるであろう。


 それを熱い鉄板の上に流し込むらしい。

 だが……どうにもならない気がしてならない。


 じゅーじゅーと音がし始めたら、ヘラの加護を得られるよう祈りを捧げつつ、口の中に入れるのだ。灼熱の液状の物体が口の中に一気に雪崩れ込む、その壮絶なる光景がありありと目に浮かぶ。ヘラと言えばそう、もちろんかの憎き全能神の妻であり、最高位の女神のことに他ならない。それほどまでの加護を得られなければ無事では済まない、ということなのだ。ああ、熱い、水をくれ、助けてくれ、と叫ぶ人間たち……。


 しかし困った。


 結局、何が楽しいのか我には理解できないのだ。

 これは罰ゲームのたぐいなのだろうか?



 結論:今後、人間族に食べ物を与える際には、適切な温度まで冷ましてやった方が良いだろう。無駄に喜びを与えかねないからだ。


 追伸:彼女たちより花火大会なる祭りに参加した際の「写メ」なるものが送られてきた。我には人間たちの美醜は判別できないが、不覚にも彼女たちの華やかないで立ちと嬉々とした表情にしばし心奪われてしまった。これが『カワイー』という感情なのだろうか。ううむ、これはいかん。引き続き検証が必要と考える。


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