第五夜 「勝負服」とは何であるか?

 あみ 「よっすー」

 みか 「こんばんはー」

 かず 「ばんわー」

 †我†「邪魔をする」

 あみ 「もうすぐ夏が終わっちゃうんですけどっ!」

 かず 「終わるのう」

 みか 「あつーい」

 あみ 「海とか花火大会とかいかないとかマジありえない……」

 かず 「こちとら熟練のインドア派だからねえ」

 みか 「あたしはー海ーいきましたよー!」

 かず 「ま、まさか……海にも別荘がおありとか仰るんじゃないでしょうね、みかお嬢様?」

 みか 「まっさかー! 海にはないよー! 溺れちゃいまーす!」

 かず 「い、いや、そういう話ではなく」

 あみ 「でも、実際海行くとなったら、おニューの水着が必要だしー」

 かず 「……ほう? また成長なされたのか、その爆乳が」

 あみ 「爆乳いうなし!」

 †我†「爆乳……爆裂するのか、胸が。危険ではないか」

 あみ 「デモデスヨー……お胸のあたりがキツイのはホントだったりします……」

 かず 「くっそ! 貧なる者の恨みを知れ! もげろ!」

 みか 「あまりおっきいと、可愛い水着がないよねー」

 あみ 「ソナノデス。エロっちいのしかないのが悩みでー」

 かず 「うおぅい! こちとらスク水でも余裕だっつーの!」

 あみ 「ま、まーまー。そゆの好きな人だっているっていうしー」

 かず 「ロリしか需要ねえじゃねえか! どうせ眼鏡キャラで背もちっこいわ!」


 珍しくかずがエキサイトして、しばしチャットが停滞する。


 かず 「夏の風物詩、花火大会ねえ……そもそも人混みが苦手だわ」

 あみ 「汗をぱたぱたウチワで沈めながらワタアメとか食べるの、いくない?」

 みか 「あまーい」

 かず 「どーせお二人は浴衣着るのもサラシ巻いて胸潰さないとアカンでしょ」

 あみ 「そこまでじゃないしっ! ま、油断してるとすぐ胸元はだけちゃうケド」

 かず 「その点、あたしの場合は和装が似合うのだよ。ズンドーだからな!」

 みか 「かずちゃんの浴衣、ちょっと見てみたいかもー」

 あみ 「結構似合いソーよね。マジで行かない? 花火大会?」

 かず 「うーむ」

 みか 「行きたーい」

 あみ 「これぞかずっちの勝負服!っての見たいんですケド」

 かず 「何の勝負なのさ」

 †我†「少し待て。勝負服、と言うのは何であるか?」

 あみ 「ここぞと言う時に着る服、ってことっしょー?」

 †我†「その、ここぞ、と言うのは例えばどんな状況下であるのだろう?」

 かず 「絶対に負けられない戦いがそこにある!みたいな」

 みか 「おー!」

 あみ 「こいつだけは絶対に落とす!みたいな重要な日に着たりするワケデス」

 かず 「あたしにはないけどな!」

 みか 「ええー??」

 あみ 「イヤイヤ。そんなー。かずっちだって興味がないワケじゃないっしょ? 男子」

 かず 「うーむ。しばらくは二次元で十分だのう」

 †我†「その勝負服という物には、何かしらの銘があったりするのだろうか?」

 あみ 「め、銘? ブランドってことでいいのかしらん?」

 †我†「ブランド……良く分からないが、そういう誰もが知っている作り手の名だな」

 かず 「正直あたしは興味ないなー。機能的なユニクロで十分」

 あみ 「あーし的にはこだわっちゃう方かも。WEGOとかプチプラ系でもカワイーの揃うしー。あと、オネーちゃんがいろいろ持ってるからナイショで借りたりしまーす」

 みか 「使用人の人が出してくれたのを着まーす」

 かず 「……い、今何て仰いました、みかお嬢様?」

 あみ 「結論的には、上見たらキリないのでJKらしーお気にのモノでいいと思いまーす」

 †我†「成程……勝負服という物はそういう感じなのだな」


 しばらく間を置いて、再びチャット。


 †我†「礼を言うぞ、無垢なる少女たちよ。我はまた現れる。その時はよろしく頼むぞ」


 以上、チャット終了。

 我と名乗った存在はその後の会話を知ることはなかった。


「ふむ」


 代わりに今日知り得た情報を整理することにする。



 勝負服とは――。


 人間族が、来るべき決戦の日に備えて準備する装備のことである。彼女たちの説明では、何かしら職人の名を冠した銘ではなく、それを、ブランド、というらしい。


 話を聞く限り、必ずしもブランドが重要ではなく、機能面で選ぶ者もいる。それは手堅い選択だ。装備によっては防御力重視だったり、状態異常対策重視だったりするのだから。ただ、やはり汎用性の高い物の方がより便利であろうと思う。いくつも大荷物を抱えてやって来る勇者はちと見栄えが悪い。


 カワイー……という見た目の艶やかさ、華やかさを重視する者もいる。これは良くない。見た目装備は貧弱、というのが通例であるからだ。プチプラ、というのが分からなかったので詳しく聞いたところ、プチプライス、つまり安価に入手できる物ということらしい。これも賢い選択とは言えないだろう。ひのきのぼう、なべのふた……こんなガラクタのごとき代物は、我ら魔族でもよほど低級な者でなければ通用しない。言わずもがな、だ。


 また一方で、提供された物をそのまま着用する者も見受けられた。使用人、と言っていたので、魔王討伐の命を受けた際に国王より一式手渡された、その城に代々受け継がれてきた伝説の鎧や兜なのだろう。それはそれで正しい選択と言える。


 結局、彼女たちは花火大会なる人間族の祭りに参加することにしたようだ。


 その際、それぞれ勝負服で行こう、と言っており、その「写メ」なるものを送ってくれると約束してくれた。それが一体どんな物なのか、今はただそれを楽しみに待っていようと思う。



 結論:今後、『ロトの剣』のような銘の入ったものは、彼女たち流に『ロト・ブランドの剣』と呼ぶと恰好良い気がする。


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