第三夜 「コミケ」とは何であるか?

 あみ 「よっすー」

 みか 「こんばんはー」

 かず 「ばんわー」

 †我†「邪魔をする」

 あみ 「ところでお盆の予定ってどーなん?」

 みか 「あたしは軽井沢の別荘に行く予定だよー」

 かず 「……ねー。みかっちって、マジでお嬢様だよね? ね?」

 みか 「そっかなー? フツーだと思いますよー」

 あみ 「フツーの庶民ってば軽井沢に別荘持ってないし」

 みか 「えー? えー?」

 あみ 「で、アレっしょ? かずっちはコミケっての行くっしょー?」

 かず 「ん? 行かんけども?」

 あみ 「何でだし」

 かず 「一応言っておくが、全てのオタクがコミケに行く訳ではないのだよ?」

 あみ 「そーなん!?」

 かず 「そこまで驚かれると逆に傷つくんだが」

 かず 「あたしは確かにオタク女子だけども、あたしが好きなのは小説とマンガだけだから」

 みか 「小説すきー」

 かず 「た、多分、みかっちの読むのともちょっち違うと思うんだけどね……」


 純文学をこよなく愛するみかの嗜好と、自分の偏りまくった嗜好ではあまりに違い過ぎる。


 あみ 「よく分かんないんだけどー?」

 かず 「たとえばだな……あみっちみたいな白ギャルと黒ギャルも一緒っしょ、って言われたらどー思うん?」

 あみ 「……ちょっと嫌デス」

 かず 「ギャル様だからエクステもネイルも詳しくて、カラコンも入れてるんっしょ?って言われたら嫌じゃない? 男に誘われたらホイホイついてくんでしょ?とか」

 あみ 「……分かりやすい解説ありがとデス。メンゴメンゴねー」

 かず 「分かってくれれば良いのだよ」

 かず 「ま、お兄に無理言って、一回だけ言ってみたけどな、コミケ夏の方」

 あみ 「どーだったん?」

 かず 「あそこは……地獄です」

 みか 「コワーイ」

 かず 「あれはシロートの行くところじゃないね。まさに魔窟ですわー」

 †我†「魔窟……そこまで恐ろしいダンジョンなのか。何が人を駆り立てるのか?」

 かず 「人によっては貴重なお宝がいっぱいだからね。それなりの戦闘力も求められるけど」

 †我†「弱き者は退ける魔窟か……難易度は?」

 かず 「チョーゼツ。まず中に入れてもらえるまでは灼熱地獄だからね。水分超重要だわ」

 かず 「入ったら入ったで、臭いのとべたべたするのが超鳥肌立ったわー」

 かず 「お宝の種類別にエリア分かれてて助かるけど、やれあっちだやれこっちだと忙しい」

 あみ 「体力いりそー」

 かず 「いやいや。戦闘力はむしろ財力の方。お兄の財布から次々とコインが消える消える」

 みか 「コイン? お札じゃなく?」

 かず 「いかにお釣りなしでクリアするかが重要。諭吉出したらパニック起こるわ。マジで」

 †我†「しかし、得られる財宝は貴重な物なのだろう?」

 かず 「これが当たり外れが大きいらしくてね。だからこそ根こそぎゲットするんだと」


 お兄のお使いの為に、どれだけ恥ずかしい思いをして大変だったかの雑談が続く。


 かず 「ま、最終的にはドギツいエロ絵の紙バックをぱんぱんに膨らませて満面の笑みを浮かべてるお兄と電車で帰るのが一番の拷問でしたわー」

 あみ 「それっ! アレ、マジで恥ずかしくないのかっつーの! ありえないしっ!」

 かず 「ドMなんじゃないかと。そこまで込みでコミケだとか言ってたので蹴っといた」

 †我†「一種の祭りのような物なのか。死ぬような危険性はないのだな?」

 かず 「熱中症で運ばれる勇者たちはいるみたいだけどねー。死ぬまではないっしょ」

 あみ 「で、行くのん?」

 かず 「二度と行くまいと誓ったね」

 みか 「やっぱ行かないんだー」

 †我†「ううむ……今回は特に難しい内容だな……」



 しばらく間を置いて、再びチャット。


 †我†「礼を言うぞ、無垢なる少女たちよ。我はまた現れる。その時はよろしく頼むぞ」


 以上、チャット終了。

 我と名乗った存在はその後の会話を知ることはなかった。


「ふむ」


 代わりに今日知り得た情報を整理することにする。



 コミケとは――。


 人間たちの世界で夏と冬にのみ解放されるダンジョンのことである。それなりの熟練度を備えた者でないと入ることすら難しいと言う。そして、熟練度の他にも、力と財力を有した実力者でなければならないらしい。これは実に興味深い。こちらの世界のダンジョンで、財力を求められる物などいまだかつて存在しないからだ。冒険者たちはこのダンジョンに入り、自らが求める財宝の種別ごとに区画整理されたエリアを目指す。そして、一定のコインを消費することでそれと引き換えに貴重な財宝を手に入れることができるのだ。


 しかし、その道のりは決して平坦なものではない。


 夏の場合には、ダンジョンの入口前は灼熱地獄が広がり、冒険者たちを苦しめると言う。恐らく溶岩やマグマが広がる壮絶な光景であることだろう。事前の水分の備えあるなしが生死を決める。冬は逆に、極寒地獄であることが予想される。手足の感覚は徐々に失われ、一人、また一人と醒めない眠りの世界へと誘われる。ようやく中に入れば入ったで、すえたような悪臭と行動を阻害する粘着質のトラップが冒険者たちを苦しめる。ようやく手に入れたと思ったお宝が、望む物ではなく外れであることも多々あるらしい。そこまで過酷なダンジョンに、人間たちは何故幾度となく挑み続けるのだろうか。


 恐らくこれは、人間たちの底知れぬ欲望と、その目的達成の為には決して諦めない不屈の執念めいたものがある為だと考えられる。彼らの欲望は我々の想像以上に果てしないのだ。穴と見るや、躊躇いもなくその中に足を踏み入れる彼ら冒険者たちの行動原理からもそれはうかがえる。


 穴と見れば見境なくツッコむのはそれだけではない、と少女の一人は意味深な科白を言っていたが……その示す真意は今一つ分からなかった。お兄、という者に聞くことができれば何かが分かりそうだ。今後、その者を詳しく尋問することも検討する。



 結論:今後、コミケについては見識をより深め、魔界でも開催することを検討したい。

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