今期一番のクソアニメを決めようぜ!!(2018年夏)

ちびまるフォイ

お前も人形にしてやろうかー!(CV:デーモン)

「あっ! 見てください! クソアニメです!!

 また日本の上空にクソアニメがやってきました!!!」


カメラがとらえたクソアニメは地上を焼き払い、

電波を通してテレビの前に人々を拘束する拷問をはじめる。


「いやだぁぁぁ! こんなのに時間を使いたくないぃぃ!!」

「助けてーー! 23分(CM含)がこんなに長いなんてーー!!」


「あ、みんな! これを見て!!」


クソアニメの視聴に耐えかねた人々は、光り輝くアニメにすがった。

それが『暦物語』だった。


「物語シリーズよ!」

「名作確定じゃない!!」

「みんな! 早くこっちに避難するんだ!!」


――――――――――――――――

【 暦物語 】


<物語>シリーズの後日談を描いた作品。

主人公・阿良々木暦が過去を振り返る形で、

過去のシリーズになかったその後を描く公式スピンオフ?作品

――――――――――――――――



しかし、避難した先で待っていたのは、

あの胸躍るようなワクワクとエッジの聞いたセリフ回し。

独特な空気感とシリアスとシュールなどが入り混じった不思議体験……ではなく。


「う、ううん……?」


イマイチだった。


シリーズの個性的なキャラクターたちはかわるがわる出てくるものの、

扱うテーマは「校庭で石あったんだけどこれ怪異?」などとめっちゃ小規模。


後日談というか、今回のオチ。


で、毎回その怪異もどきな事象を解決して終了。

だいたい誰かに電話して解決するので、登場するヒロインも顔合わせ程度。


なんでも知ってる羽川さん、マジ便利。\シッテルコトダケ/


「こいつ! アンチだな!! アンチは殺せ!!」

「そうだそうだ! この世界に俺を否定するやつは不要だ!」

「汚物は消毒だーー!!」


などと、名作を批判した哀れな男は消し炭になって消えた。

この世界にストレスなど必要ない。


「みんな! こっちにストレスのなさそうなアニメがあるぞ!!」


逃げ惑う人々はまた新しいアニメを見つけた。それも2つ。



――――――――――――――――

【 百錬の覇王と聖約の戦乙女 】


戦乱の異世界ユグドラシルに迷い込んだ主人公は一国の王に!?

現代の知識やらを総動員して国をどんどん発展する!

「さすがはお兄様ですわ……!」

――――――――――――――――


――――――――――――――――

【 異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術 】

MMORPG「クロスレヴェリ」に召喚された主人公はまさかの魔王!?

廃プレイヤーの主人公は女の子を奴隷にしてしまっての大冒険!

「フッ、レベル○○……この程度か」

――――――――――――――――



「さぁ、どっちに行く!?」


ラノベ2大巨塔を前に、人々はしり込みしていた。


「ちょっと、待って。これどっちが楽しいの!?」


「どっちも女の子がちやほやしてくれるよ!!」

「どっちも主人公が苦労せずにクソ強いよ!!」

「自分以外の男は仲間にいないよ!!!!」


「待て! 早まるんじゃない!! スマホ太郎を忘れたのか!?」


「バカ! その名前を出すな!!」


「ああ……ああああ!!!」


かつて猛威を振るった恐怖のクソアニメは今なお人々の記憶にトラウマとして、

PTSDとして、深く深く刻み込まれていた。


さらに連動して『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』というダブルパンチで、

延々とインベントリを開くような動作を続けたり「なのです」とか言い始めている。狂気。


2つの作品を見てきた生還者はみなボロボロで戻ってきていた。


「みんな……こっちに来ちゃダメだ……!

 ここには新しい驚きもない。緊迫するシーンもない。あるのはおっぱいだけだ。

 こんな植物のような日常がこんなにも恐ろしいなんて思わなかった……!」


「もう5話なのに……ヒロインの名前が覚えられないんだ……。

 というか、ヒロイン不在でも話が進められる気がしてならないんだ……」


「あいつら、女の子を押したらほめてくれる人形だとでも思っているのか……!」


息も絶え絶えにやってきた生還者も次々に力尽きていく。

もう現実にも異世界にも逃げ場はないと悟った人たちはゲームの世界へと向かった。


「おい! これは面白そうだぞ!」


――――――――――――――――

【 七星のスバル 】

かつてMMORPG「ユニオン」で伝説の小学生パーティ「スバル」

大切な仲間を失ったことでメンバーは離れ離れになるが、

のちのゲームで死んだはずの幼馴染と再会し、ふたたび仲間を集めていく。

――――――――――――――――


「これは前みたいなありがちゲーム転生でもなさそう!」

「見ろ! ヒロインも可愛いぞ! サブヒロインもいいツンデレ具合だ!」

「決めた! このアニメを視聴する!!」



――ふざけてるわね。



「だ、誰だ!?」


白い髪の主婦は冷たい表情で現れた。


「かつて小学生の友達がいろいろ頑張って仲間を集める?

 かつての友達が生き返ってまたあえて……ツンデレ……ふざけてるわね」


「知らない! あの日見た花の名前なんて、俺たちは知らない!」


「悪いがここは通行止めだ」


白い主婦の後ろから黒の剣士が激昂の表情でやってきた。


「あの花は2011年放送」

「SAO(アニメ)は2012年放送」


「スバル、君はいくつだ?」



【七星のスバル(小説) 2015年開始】



「元気なヒロインはめんまそのまま。

 主人公に好意を寄せるサブヒロインはあなる。

 主人公をライバル視するのはゆきあつかしら?」


「スターバーストストリーム!!!」


既視感はしだいに嫌悪感、ひいては怒りへと転化していった。

人々はもうここにはいられないと最後の逃げ道を探した。


新しい出会いを、楽しい巡り合いを信じて。



しかし、海を越えてやってきたのは希望などではなく、絶望のクソアニメだった。



――――――――――――――――

【 悪偶 -天才人形- 】

中国で12億PVをも稼ぎ出したWEBコミックのアニメ作品。

天才の才能が凝縮された人形「悪偶(あぐう)」

悪偶を手に入れた主人公は奪われた友達との行方は!?


↓wikiより引用↓

ここに小さな人形がある。「悪偶」と呼ばれるそれを持てば、それだけで常人でも瞬時に天才となれるのだ。

そんな事が有り得るのか? 有り得るのだ。

――――――――――――――――


「……バカボン?」


なぜかwiki引用部分がバカボンのパパの声で再生されてしまうのは、

深夜にアニメなんか見ているからだ。でもそれでいいのだ。あり得るのだ。


クソアニメ検定で不動の皆勤ノミネートを重ねてきた中国アニメが、

今回のクソアニメをトップで突き抜けたまま人々を悪偶にしてしまった。


オープニングアニメは奇怪で、エキセントリック。

悪偶という設定や、それを作る「裁縫師」。

さらには裁縫師と敵対する「救済者」など面白そうな設定盛りだくさん。


しかし、クソアニメだった。


かつての友達と仲たがいして争うという

喰霊やガンダムSEED、ナルトをはじめ、名作パターンの展開をもってしてもクソアニメだった。


「絵柄が全体的に古いからではないか?」

「主人公が可愛くないからだよ」

「いやいや、仲間の極太眉毛の黄色ジャージがダサすぎる」


評論家でもビジュアル面についての批判的な意見が目立つ。

それでも誰一人として、このつまらなさを証明できる人はいなかった。


「以前、専門家による入念な検査が続けられており、

 クソアニメ評議会では一応の結論として

 『主人公の主体性のなさ』が感情移入を妨げているのではとしています」



チートで周りのトラブルをストレスなくクリアする主人公だが、

女性の裸にどぎまぎしたり、コミュ障であることで悩んだり。


悪偶という謎の物を手に入れて、そんでよくわからない戦いに巻き込まれ

それでもあっさり受け入れて変わらぬ日常を過ごすヒロイン。


悩めとは言わないが、展開の盤の上を進む駒に感情移入できる人なんているのか。

擬人化ネタに尽きた同人作家くらいが手を出す。



何も引っかからないまま進む物語は、

今期の空気アニメ乱立する2018年夏クソアニメの栄光に輝いた。





――後日談、というか今回のオチ。



「ふぅ、今回もクソ回だったわぁ~~」


評論を済ませた男は、便秘を出し切った後のようなすがすがしさで伸びをした。

そこにひとりの少年がやってきた。


「どうして、どうしてそこまでクソアニメを見るんですか!?

 もう十分傷ついたじゃないですか! 見るのを止めればいいのに!」


「坊や、アニメは最後までわからない、って言葉知ってるかい?」


「ううん、知らないよ」


「『LOST SONG』という作品では終盤の8話で大どんでん返しがあったんだ。

 どんなアニメでも最後まで見ない事には、面白さがわからないんだよ」


「そっか、そうなんだ……!」


「わかってくれたかい」




「でも、その終盤を見るために、前半を必死に毎週見るほどの価値があったの?

 最後にちょっと面白くなるくらいなら、最初から面白い方がいいじゃん」



少年はすぐに悪偶にされ、それ以上しゃべれなくされた。

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