ピラミッドアジサイのせい
~ 八月二十日(月) 数学、化学、保健、英語、音楽 ~
ピラミッドアジサイの花言葉 乙女の夢
七色キャンディーのぐねぐね道は。
空から紐でぶら下がるお星さまに照らされて。
俺たちが乗った、シュークリームの馬車をお城へと導きます。
道の両側から、俺たちが近づくたびににょきにょきと生えるのは。
三色グミの信号に、チョコペンでクッキーに書かれた道路標識。
街路樹は、雪のクリスマスツリー。
ひっくり返したコーンアイスに、たっぷりのホイップクリームを塗りつけて。
まるで、ピラミッドアジサイのお花が並んでいるみたい。
その上から、ぱらぱらと積もる雪は。
色とりどりのチョコチップ。
ひとつぶひとつぶ、全部が光り始めると。
星空に、綺麗な虹が架かりました。
「お城の中が楽しみなのです。かき氷の床に、イチゴシロップのレッドカーペットが敷かれているんだって」
俺は、いつも通り穂咲が座っていると思っていたお隣に話しかけたのですけど。
そこできょとんと首をかしげていたのは。
デニムのスカートを穿いた。
真っ白なフェレットさん。
でも、どうやら彼女。
俺に見つかってはいけなかったようで。
やれやれと首を振ると。
馬車の窓を開いて。
金色の枠に足をかけました。
デニムのスカートにぶら下がる鎖と。
その先で揺れる銀時計。
綺麗だなあと、目を奪われた隙に。
彼女がえいやと窓から飛び出すと。
絵本の夜空が半分落ちてきて。
馬車ごとばくんと飲み込むのでした。
……次のページは大海原。
折り紙でできた海賊船は。
輪ゴムでっぽうで、これでもかと武装されて。
勇ましく、黒い海をすすむと。
そこに現れたのは巨大なタコ。
輪ゴムでっぽう、一斉放火。
ばひゅんばひゅんと放ちます。
でも、弾がタコまで届きません。
こういう時は、もっと太い輪ゴムを使えばいいのよ。
海賊帽子の白いフェレットがそう言うと。
船首に巨大な輪ゴムを引っ掻けました。
船員さんも、俺も総出でよいしょよいしょと引っ張ると。
輪ゴムを離す、その前に。
船が、後ろにばひゅんと飛んで。
残された俺たちは、海にぼちゃんと落ちました。
すると絵本の海が、半分落ちてきて。
ばくんと飲み込んだ次のページには。
山の上に広がるお花畑。
綺麗なお花を眺める俺は、なぜかちっちゃくて。
誰かに手を握られているのですが。
この人、おじさんかな?
大きな体が絵本からはみ出しちゃっているせいで。
顔が良く見えないのですけど。
たぶんおじさんなのです。
穂咲ー。
穂咲ー。
おじさんに会わせてあげたくて。
お花畑の真ん中にいる、小さな背中に声をかけますが。
そうしている間に青空が半分落ちてきたのです。
穂咲、おじさんだよ?
早く気付いて!
俺はなんとかページが閉じるのを止めようと。
絵本から飛び出して、両手だけ本に乗っけておきました。
これなら途中で止まるよね。
そう思っていたのに。
ページはばくんと。
俺の両手を食べちゃった。
「うわっ!」
「どうしたの?」
「び、びっくりした! 両腕がすぱーんて切れた!」
クーラーの効いた日帰り合宿所。
夏の勉強に最適な、おしゃれな新築一戸建て。
そこで、音楽の宿題である創作曲をらららと口ずさみながら。
五線譜にオタマジャクシを書き込んでいるのは
軽い色に染めたゆるふわロング髪の上に。
ピラミッドアジサイがひと房。
今日はそんな、とんでもない頭をしているのですが……。
「あれ? ……それ、どこかで見たのです」
「なに言ってるの? せっかく良いメロディーが浮かんで来たのに、邪魔しないでほしいの」
「それはすいません。でも、それ聞いてたら眠くなってくるのですけど」
ひかりちゃんも、隣の椅子に座ったまま。
ぐっすり眠っているのですが。
君の歌から、何かやばいものが出ているのではないでしょうか。
……あと。
メロディーと楽譜が。
まるで違うのはどういう事でしょう。
そんな魔法使いさん。
らららと歌うのを一度休憩すると。
にっこり笑いながら聞いてきます。
「なんの夢だったの?」
「え? ……さあ?」
「覚えてないの?」
「うん」
「しょうがない道久君なの」
そう言って。
くすくすと笑いながらキッチンへ向かう穂咲のデニムには。
見たこともない。
銀色の懐中時計がぶら下がっていたのでした。
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