起-8

 滾るものをヌルつく手で片手間に擦り、頃合いを見計らって抜いた指の代わりに圧し当てた。

 異変に気付いた吉見が弾かれたように逃げかけるのを許さず、腰を引き戻す勢いで切っ先を割り込ませると、過剰なほど濡れたそこは思いのほか簡単に先端を呑み込んだ。

「ちょっ……嘘だろ!?」

 慌てる吉見の膝を掴んで開かせ、体重をかけてのし掛かる。いくら細身とはいえ、さすがに女の筋力とは違う脚に暴れられたら厄介だ。

「や……マジで無理っ……入るわけねぇ、抜けって!!」

 首を振って藻搔く身体に少しずつ、でも確実に沈んでいきながら、矢嶋は上体を折って耳元に顔を近づけた。

「あんた、仕事んときに無理難題押し付けられて、できませんって言うか? 言わねぇよな?」

「言わな……けどコレは──って、そんな奥……!?」

「何言ってんだ、まだ入るぜ? 泣きごと言うなよ」

「ッ……ん、ぅっ」

 脚を開かされたまま男に挿入され、掴み寄せた上掛け布団の端を握り締めて仰け反る。そうやって悶える吉見の姿には思わぬ色気があって、尻に収めた矢嶋の興奮が内部でますます増大してしまう。

「狭いな」

「文句言うぐらい、ならっ──!」

「文句じゃねぇけど、ちょっと力抜いてみろよ……なぁ? できるだろ?」

 仕事中毒のプライドを擽りそうな問いかけを意図的に選んだ。すると狙いどおり、それ以上の口答えはなく、吉見は噛み付きそうな目で無言のまま深く息を吸って吐き出した。

 おそらく相当な負担を強いられてるはずの男の忍耐は、仕事を成し遂げる意地とイコールなんだろうか。胸を喘がせて矢嶋を受け入れる吉見の眼差しには、次第に威圧的な色合いすらチラつき始めた。

 昼間はつけ麺屋のテーブルで、夜の入口には焼き鳥屋のカウンターで、あんなにも果てしない無気力感を撒き散らしてたくせに。

 今や完全に覚醒したツラで歯を食い縛り、腹の底を貫かれて目をギラつかせてやがる。

 一体、何なんだコイツは──呆れるを通り越して、もはや表現しようのない思いで矢嶋は吉見を見下ろした。が、何にしたって抵抗されないというのは好都合だったし、たとえどんなに尖りきったメンタリティであっても、この状態で肚を括ったのなら、今さらいきり立ったワーカホリックに上下をひっくり返される心配もないだろう。

 動くからな、と前置きして、根元まで収めたものを慎重に引き抜いて再び突き入れる。表情を窺いつつ繰り返し、徐々に気遣いを取り崩して突き上げ始めると、吉見が身悶えて声を引き絞った。

「ン──あ……ぁっ」

 戦慄く唇に喰らいついた途端、縋るような勢いで舌を突っ込んできた。

 乱暴に絡め合って唾液を啜り合い、余さず舐め回して互いに根こそぎ奪い尽くす。繋がった箇所からはジェルの音が耳障りなほど響き続け、掻き回された液体が溢れて滴る。腹の間に挟まる吉見を掴んで扱き上げた瞬間、矢嶋を呑んだ内腔が痙攣するように締まった。

「あんた、すげぇイイ──」

 囁いて再び塞いだノドの奥から、矢嶋の動きにシンクロする呻きが漏れてくる。

 正直、吉見の中はあまりにも良すぎて、ともすれば加減を忘れてしまいそうだった。

 それでも一切の泣きごとを言わなくなった野郎は、その代わり挑発的なまでに濃厚なキスを求め、己の股間を支配する手に片手を重ねてきた。催促するように腰を浮かせて、尻の奥を責め立てる男とともに勃起したものを擦り上げる。

 やがて舌を絡めるのも忘れて息を荒げたかと思うと、吉見は下肢を震わせて派手に爆ぜ、硬直して弛緩した。その瞬間の表情も息遣いも、ひどくそそるものがあって矢嶋の頭の芯をゾクゾク疼かせた。

 鳩尾に飛んだ体液に指で触れたのは無意識だった。

 冷静に思えば、他人の精液なんか不快なだけの代物だ。にもかかわらず自然と触れてみたくなったし、その生ぬるい感触に妙な安堵すら覚えた。この男の下半身が、ちゃんと機能してるという事実への安堵だ。

「早ぇな」

 小さく漏らした笑いに舌打ちが返った。

「久しぶりだから──って、あぁ!? まだすんのかっ?」

「だって、あんたがいっただけで、俺はまだ終わってないよな」

「早く終わらせろ!」

「自分が満足した途端にそれかよ」

「そもそも頼んでねぇしっ」

「そう言わずに、どうせならもっかい気持ちよくなってみたらどうだ? たまにしかない機会なんだろ?」

 吐き出された体液を塗り込むように萎えたものを擦りながら、身構える隙を与えず奥まで押し入ると、何か言いかけた吉見の唇から掠れた悲鳴が上がった。

「……ってか、触んな! 俺はもう……いっ」

「根を上げんのか? チャンスには貪欲になれよ」

「いちいちそういう、言い方──」

「仕事を連想するほうが燃えるんじゃないかと思って」

 矢嶋は言って体重をかけ、両手で割り開いた尻の狭間に容赦なく腰を押し付けた。

 限界まで矢嶋を呑み込まされて、苦しげに背筋を撓らせたワーカホリックが、意外なほど艶っぽい声で呪いの言葉を迸らせた。

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