第3話 ニラ玉



ニラ玉の中心の方にはかなり大きい核があって、そこから毎秒5tもの濁った薄緑色の粘性を持った液体が流れ出てくる。


水芭蕉の白い花を連想する生臭い魚の腐ったような臭いがあたりには立ち込め、とめどなく溢れ出る液体からもうもうと湧き出る湯気は剥き出しになったねずみ色の天井を静かに濡らしていた。


作業靴の底にへばりつくねちゃねちゃとした生温かいその液体は確かにニラ玉の面影を残していて、しかし彼にとってただ汚らしく不快だった。


清掃員は見慣れたその汚物を苛々とした様子でコンクリートへ擦り付ける。


東京都の上空に巨大なニラ玉が出現してから、もう半世紀が経過していた。




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mo_modoki @mo_modoki

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