第24話川の権利

 橋の真ん中には、僕と牧畜のもののリーダーしかいない。

「この橋から、通行料をとるとしたらどうかな」

 僕の提案にリーダーは無言になる。 

「普通の旅人や、商人からは通行料を払ってもらおう。君たちは、もちろん無料だ」

 橋から通行料をとるのは珍しい話ではない。橋の建築費を補填するためにとる場合もあるし、馬車からだけとる場合もある。個人が架けた橋なら、通行料の設置は自由だ。

 この勇者が直した橋に関しては、元々は牧畜のものたちが共同でお金を出し合って建てたのがはじまりだ。官営の橋ではない。だからこそ、僕も強引なことはできない。

 

「なるほど。たしかにそりゃ、気分がいいや。あいつらから金が採れるんですからね。

だとしたら、その権利は国が補償してくれるんでしょうね?」

「ああ大丈夫だ。この橋は牧畜を営むものたちが管理している橋だからね。その権利はある」

 いままでずっと強面だったリーダーの顔がはじめて緩む。


 リーダーの説明で、牧畜のものたちは納得したらしい。

「これからは、この橋を通行する場合は、通行料がかかります」

 旅人たちからは、反対意見が出てこなかった。彼らもこれ以上揉めるのが得策ではないとわかっていたし、橋で通行料を採られるのにも慣れている。

 

 やっと渋滞が動き出す。

 

 仕事を終えた僕は、王都に帰還する。


 

 それから三日後に、またあの橋に向かっていた。


「あんた役人さんよ! こいつらにいってくれ! この川の渡るには俺たちの許可がいるってな!」

 僕の目の前でケンカがはじまろうとしていた。

 血の気の多いもの同士、手には棍棒やら剣やらを持っている。

「まってくれ! 君たちは何なのなのかな!?」

 まあ、知っているんだけど。


「俺たちは、この川の船頭よ!」

「なぜこの橋がダメなんだ? 舟の邪魔になるわけでもないのに」


 牧畜のものたちもよく肌が焼けているが、船頭たちの肌は赤銅色といっていい。そんな彼らに僕は取り囲まれる。

 

「この川の権利は王から預かってだよ! 船頭がな!」

 それは初耳だった。


 船頭たちがいうには、王国創設期の戦で、この川の船頭たちは、王の先祖に力を貸したらしい。その時に、この川に関する権利を与えられたそうな。


「これが、証拠の証文よ!」


 古びた羊皮紙を広げられた。かなり古い文体だが、確かに川の権利を保障すると記されている。


「それは川に関してだろ! 橋は関係ないだろが!」

 牧畜のもののリーダーが抗議する。

「川に関する、交通は全て船頭の管轄じゃい! 川の上もな!」

 彼らの議論は平行線のまま、交わることがない。 

「たしかに、この証文には王家の印が押されていますね……」

 偽造かと思って念入りに調べたが、おかしな点はない。


「役人さんも認めてくれたぜ! 牧畜用の橋だろうが関係ない! この川に架かっている橋は全部、俺たちのものだ!」


 それは暴論過ぎるだろう。


「しかし、なぜこの橋に関して権利を主張するだ? 古い橋はよかったんだろ?」

「前の橋の時には、ちゃんと俺たちの許可をとってから建てられたんだ! 今回は、無許可で建てやがったんだ!」

 

 僕は船頭の長の言葉に裏があることを読み取る。


「橋はまったく新しいもんじゃない! 前の橋の立て直しだぞ! 許可はいらないだろ!」

「前の橋は、木造だったじゃねーか! 今度のは立派な石造り! 同じ橋として認めれんな!」

 

 僕は男たちの間から、一旦距離をとる。

 この川の権利については、王が認めている限り、船頭たちのものだ。

 川を使って内陸に荷を運ぶ彼らは、王国には必要な存在んだ。

 

「船頭の長と、牧畜のもののリーダーだけ来てもらえますか」

 僕は、二人を伴って、端の真ん中にいく。


「役人さん、こいつらにいってください。俺たちが正しいって!」

 船頭のリーダーは、僕が味方だと思っているらしい。

「率直にいう。君たちは、橋が壊れたことで、川の渡しで稼いでいたね。それをこの橋ができたことで、おじゃんになった。それが今回の抗議だね」

 船頭は、肯定も否定もしない。ただ僕を睨みつけるだけだった。

「おいおい! そりゃやっかみもいいところだ! だいたいあんたら船頭が吹っ掛けるから、旅人は、俺たちの橋に殺到してんだろ!」

 僕は牧畜のもののリーダーを制する。ここで正邪を糺すつもりはつもりはない。

「たしかに、この川の船頭たちは、王から権利を認められている。橋に関しても、君たちの許可がいる」

 風向きがまた変わったことに二人とも驚く。

「だがね、橋に関しても権利があるというなら、船頭たちは、壊れた橋の復旧にお金を出す義務がでてくるが、いいかね」

「ちょ、まってくれ! そんな!」

 話が急展開したことで、船頭の長は狼狽を隠せない。

「ただでさえ、上流は魔物が出て、仕事にならねーのに、金までとられるようになったら、俺たちは生きていけねーよ!」

 どうやら、本業が成り立たないので、旅人の渡しで糊口をしのいでいたらしい。しかし、この橋に旅人をとられてしまい、彼らの生活が危機に瀕してしまった。

 

 このままだと、船頭たちは路頭に迷う。

 だからといって、この橋からまた旅人を締め出せば、船頭たちの舟を利用しだすかといえば、それはありえない。絶対にだ。

 

「舟の渡し賃が高すぎることで、旅人はこの橋を使っている。値段を下げることはできるか」


 船頭の長は渋々だが頷く。


「この橋の通行料を値上げする。元々、一般の旅人にはつかわしたくないんだからいいね?」

 

 牧畜のもののリーダーも不満気に頷く。どうやら、橋の通行料がいい収入になっているらしい。


 こうして、二人とも嫌々ながら解決をしたのだった。

 


 僕は王都に帰還した。

 そして、すぐまたあの橋に戻された。  

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勇者 のちょっと後で活躍するよ ふゆつき @huyutyki

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