第23話勇者のおかげで橋が架かった
魔王退治に旅立った勇者が、魔物によって破壊された橋を直してくれた。これで、旅人たちは大助かりだ。
街道がどんどん混雑しだす。僕の前には馬車が連なっている。
そこまで通行量が多い道ではなかったはずだ。
「なんですすまないんだよ!」
苛立つ商人が前に向かって吠える。
僕は道をそれ、渋滞の先を探す。延々と続く列の先にはやはり川があった。
「やっぱり……」
橋だ。
勇者によって復活した橋は、一躍有名になった。
石造りの新しい橋がそれだ。おもったより細い。
で、問題が発生した。
「とおせよ!」
「ここは俺たちの橋だ! 入ってくるな!」
僕の目の前で掴み合いのケンカが起きている。
「やめなさい!」
こう見えても、官史なので仲裁にはいる。このままエスカレートするば死者がでるかもしれない。
「邪魔すんな! こいつらが橋をとおさねえんだよ!」
旅人たちが彼らを指さす。
「ふざけんな! この橋はなあ、俺たちの橋だ!」
その先には変わった服装の男たちがこちらを威嚇していた。
「あんた、見たところ役人だろ! こいつらを懲らしめてくれ!」
目ざとい旅人が僕の身分を当ててしまう。
「……この橋は、国の橋ではない。この人たちの橋なのは確かだ」
旅人たちが騒めく。
「あんた、話がわかるね」
意外な展開に、変わった服装の男たちも驚いている。
「じゃあ、どうやってこの川を渡れっていうんだよ!」
今度は僕に怒声が集中する。
実は、この橋から少し離れたところにも橋があったのだ。今まではそちらの橋をみんなつかっていた。
もちろん、その橋も魔物に破壊されていた。
「この橋はなあ、勇者様が俺たちのために作ってくれた橋なんだよ! なんでお前たちにつかわせなきゃならねんだ!」
もう少し説明すると、この辺りの橋を破壊した魔物を倒すのに、この変わった服装の集団が力を貸したのだ。そのお礼として、勇者たちは、新しい橋を建てる段取りと資金を出したらしい。
なので、この橋には国は一切関わっていない。
なのに、王直属査察官の僕が派遣された。
この川には、現在、ここにしか橋が存在しないのだ。
「というわけで、この橋をつかわせて欲しい」
僕はリーダーの男と直談判している。
「役人さんが、そういうのもわかりますがね。俺たちが今まで受けた仕打ちを考えれば当然じゃないですか?」
「?なぜ君たちはあの橋をつかえなかったんです?」
僕は彼らの服装から、なんとなくだが推測していた。
「俺らは、牧畜を営んでいる。だがな、やつらは俺たちの家畜は邪魔だといってつかわせてくれなかったんだよ!」
なるほど。僕の推測通りだ。だとすると、ここにあった橋は家畜の移動用だったわけだ。普通の旅人は知らないような。
「あいつらは自分たち用の橋を直してつかえばいいじゃないか! それをなんだ!
急にこっちの橋を使わせてくれだって? ふざけんじゃねーよ!」
リーダーの言葉に、彼らは全員頷いている。今まで相当嫌な目にあってきたのだろう。牧畜や屠殺を扱う仕事は、僕たちの生活には必須なのだが、それを穢れた仕事だという心理が働いてしまう。
それがこうして拗れている。
「勇者は、なぜあの橋だけを直したんだよ!」
旅人たちが不満を吐き出す。それは僕じゃなく、勇者にいって欲しい。
「役人さんよ、あの橋を早く直してくれないか」
たしかにそうなんだが、あの橋を復旧しようにも、直せる人がいないのだ。
魔王によって荒らされた国土も、勇者のおかげで安全に解放された地域がかなりできていた。その地域で破壊された建築物の修理に今、王国中の石工や大工が駆り出されていた。
今から石工を手配しても、いつになるか目途がたたない。
勇者があの橋を直せたのも、まだ魔王の勢力が強大で、石工たちも仕事にあぶれていた時期だといえる。そのおかげというか、圧倒的なマンパワーで橋は元に戻ったといえる。ありえない早さで。
この橋の解決策としては、牧畜のものたちに頼み込んで、一般に橋をつかわしてもらうのがベストだ。
「君たちのいいたいことは、よくわかる。しかし現状、この川にかかっている橋は
ここしかないのだ。一般の旅人にも開放してくれないか」
それで解決すれば、どんなに楽か。
牧畜のものたちから囂々の非難を浴びて僕の心は折れそうになる。
「役人さん、騎士団でも呼んで、やつらを蹴散らしてくれよ」
商人が僕のそばにきてそんな提案をしてくる。
「そうだよ! 俺たちを護るために存在してるんだろ! 王国は!」
煽られた旅人が、そんなことをいいだす。
やはり彼らは、牧畜を営むものは、同じ王国民と思っていないらしい。
このままでは喧嘩が再発してしまう。それだけは避けたい。
だからといって名案があるわけでもない。
「ところで、今まではみんな、何をつかってこの川を渡っていたんですか?」
この牧畜用の橋が見つかるまでは、この川には橋がなかったことになる。
「渡し舟だよ。だけど、船頭のやつら、すげー足元見やがって、渡し賃をふっかけてくるだよ!」
船頭としては稼ぎ時だ。
僕は、牧畜のもののリーダーを、橋の真ん中まで連れて行く。そこが一番人気がない。
「この橋から、通行料をとるとしたらどうかな」
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