第22話祝宴
新しい村の住人たちが盛大な祝宴を開いていた。
黒髪の住人たちと村の住人たちは、最初はぎこちなかったが今は酒の力で打ち解けていた。
逃亡奴隷は自由人になり、黒髪の住人たちは王国民として保護を約束されたのだ。
明るい未来にみんなが酔っていた。
僕はその席からそっと離れる。
「あなたのおかげね」
僕の後ろには黒髪の彼女が立っていた。
「ははは、そんなことはないです」
笑い声は絶えることがない。
「あなたが、あたいらの部族の地位を高くしてくれたんだろ。下の村との争いもおさめてくれた。あんたが全部やったんだろ!」
なぜ彼女は、怒った口調で褒めるんだろう。
それに、さっきの言葉は僕の本心だ。
「……たしかに盆地の村と、山の集落をどうにかしようと手を打ちました。ただ最善の手段を講じたわけではありません」
黒髪の住人たちが、彼らに伝わる踊りを披露する。
「どうしてそんなことをいう! あんたは、あたいらのために頑張ってくれたじゃないか! 新しい村の長には、うちらの長老にしてくれたしさ!」
買い被り過ぎた。
「長は山の長老で、補佐するのは村の住人二人。最初はいいでしょう、バランスがとれて」
彼女は、僕の言葉に何かを嗅ぎつける。
「だけど、すぐに新しい村の主導権は、盆地の住人にとられます」
「な!? こっちのほうが偉いんだぞ!」
彼女のいうとおり、逃亡奴隷は山の住民の保護下にあるといっていい。それは彼らしか採掘できない貴金属の力だ。
「お嬢さん、盆地の村の住人を見てみなさい。あなた方より圧倒的に多い」
祝宴を見れば、それは明白だった。
「最初は、盆地の住人も、あなた方に感謝をするでしょう。ですが時が経てば、貴族の影がなくなれば、自分たちの勢力を増したいと思うはずです」
「あんた、なんでそんな暗い話をするんだよ! 祝いの席だぞ!」
だからこそ、僕は離れたのだ。あまりにも居づらくて。
「村の統合なんてものは、もっと時間をかけてやるものなんです。それをこんな形でしてしまって」
「なら、その対策をいってみろよ。あたいがこんどは頑張るからさ」
彼女の手が僕の肩に触れる。
こんなにやさしい笑みをする子とは思わなかった。
黒髪の民の踊りの返礼に、村の住人が肩を組み歌いだす。
「……この村を維持するために必要なのは……」
僕は考えつく限りのことを彼女に伝えた。
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