第16話教会がある村
今日は、この集落の近くにあるという教会がある村にいってみようと思う。
近いといっても、一日はかかるそうなので、下手をすると野宿になってしまう。
「近くまでは案内してやるが、あたいは村にはいかないよ」
黒髪の彼女はそれだけいうと、山を下っていく。
この集落にきて一週間が経っていた。人口も、大洞窟から採れる鉱物の採掘量も、集落周辺の地理も報告できる状態になっている。
なので、僕は次の任務に取り掛かることにした。
山を下るほど木々が増えてくる。一度振り返ってみると、自分がどれほど高い場所にいたか驚いてしまう。同じ山でもまったく違う世界だと実感する。
小さな川があらわれる。ただ僕が知ってる川とは別物だった。あまりにもの急流はまるで滝のようだ。黒髪の彼女が沢に下りていく。
「この川沿いにすすめば村に着く」
僕はなぜか彼女の表情が固い気がする。
「ありがとうございます。では僕は村に向かいます」
いつもの彼女なら、すぐに別れるはずなのに、なぜか今日はじっと僕の顔を見ている。
「王の使い、あの村は……」
草木が騒めく。僕が反応するよりも早く彼女は身構えていた。
「ちぃ!」
白銀の短刀を構えた彼女が周囲を睨みつける。
人影が一気に僕たちを取り囲んできた。
盗賊! ではない。
各自、斧や鉈をもっているが、顔つきは荒んでいない。彼らは僕よりも黒髪の彼女に武器を向けていた。
「てめー! 山の上の民だな! こんなところで何をしにきた!」
10人ほどの男たちが僕たちを取り囲んでいる。
「また盗みにきやがったな! このド畜生が!」
悪罵が叫ばれる。これがいつ実力行使になるか。はやく対処しないといけない。
「うるさい! きさまらこそ山で何をしている!」
やめてえ!
殺気が満ちてくるのがわかる。
「まちなさい! 僕は王直属査察官だ。乱暴狼藉は許さんぞ!」
背筋に冷たいものが走っているのを我慢して、黒髪の彼女の前に出る。そして、リーダー格の男と対峙する。
「王……だって? あんた役人さんか?」
「そうだ。僕は王都からこの地方の調査にきている。一体どうしたというのだ?」
僕の登場で、男たちの殺気がおさまっていく。これで最悪の事態は免れそうだ。
「なら話ははやい! その黒髪の女を捕まえるのを手伝ってくれ! こいつらのせいで俺たちの生活はメチャクチャだ!」
僕たちは教会のある村に連れていかれた。
この土地には騎士団は派遣されなかった。限りある兵力では、この辺境の土地にまで出せなかった。そのため、ここは魔物が跋扈していた。勇者が来るまでは。
教会がある村は、周囲を山に囲まれた盆地の一角にあった。
魔物の被害はすでに払拭しているらしく、ごく普通の村の風景が続いている。
だと思ったのだが、連行されている最中にこの村の異常さにやっと気づく。
「ここの住人はどのくらいですか?」
僕の前を歩く男に聞いてみた。
「そうやね……」
さっきの殺気立った状態とは違い、普通の顔に戻った彼は、簡単に教えてくれる。
「!? それって……」
通常の村の三倍以上の人口がこの村にいると。
どうなっている?
ここにくる時に、山の上から村の全体は見ることができた。その時は通常の村ぐらいの規模しかなかった。いまこうしてみた感じでも、畑が多いとは思えない。
だが、確実に人の数は多い。
村の中心の協会につくと、やっと解放される。まあ、僕ではなく彼女がなんだが。
「おお! 査察官殿! まさかこんな辺鄙な村に来てくださるとは!」
神父は僕の胸の紋章を見るとすぐに駆け寄ってきた。
村を管理するために、王や貴族は代官を派遣する。だが、辺鄙な土地になると、代官のなり手がいなかったり、採算が合わないこともあり、教会に代行してもらうことが多々ある。
「何かありましたか? お前たち査察官殿に乱暴でもしたのか?」
神父の対応を見て、村人たちも僕の身分を理解する。
「それが神父様、山で木を伐っていたら、黒髪の民を見つけたんでさあ。捕まえようとしたら、そこのその王の役人様が」
神父は状況が理解できたらしく、男たちに囲まれた黒髪の彼女を一瞥する。
「ふうむ、そうですか。黒髪の民はどこかに閉じ込めておきましょう」
「まってください! なぜ彼女を敵視しているのですか? 僕は彼女の村で世話になっていたんですよ」
男達が騒然となる。神父が困った顔を僕に向けてくる。周りで様子を見ていた村の住人にもそれが伝播していく。
「査察官殿、黒髪の民は王国民ではありません。そればかりか、我々の生活を脅かすものなのです」
隣村同士で仲が悪いというのは珍しくない。だが、これは何かが違う。
村人の数がどんどん増えてくる。みんなの目が黒髪の彼女に集まる。
誰かが叫ぶ。「黒髪だ! 悪魔の髪だ!」と
誰かが叫ぶ。「やつらは敵だ!」と
声が広がっていく。
やばい。
僕は神父に目くばせをする。
彼女を教会が管理する倉に閉じ込める。
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