第14話納税の義務

 租税の話はいつも荒れる。そりゃ自分たちが、汗水たらして稼いだものを出さないといけないのだ。嫌に決まってる。だが、税収ほど国の根幹に関わる問題はない。税金逃れなど絶対に許されない。

「いてて、これからは税を納めてもらいます」

 背中の痛みを堪えながら、長老に説明をする。

「今まで納めていなかったのが、今更必要ですかのう」

「はい。この王国領内で、税を納めていないものなどいません」

長老はそのまま黙考にはいる。

 その間に、僕も色々と思案する。まず、この集落には謎がいくつかる。

 集落の大きさが思ったより大きい。なのに今まで記録さえされなかった?ありえない。辺鄙な土地といっても巡回官使や、騎士団がこのあたりをとおっている。何かしらの報告ぐらいあるはずだ。

「この集落から何を奪うつもりだ! このやろう!」

 後ろで悪態をつく黒髪の女性。黒髪もそうだ。王国には多種多様な人種、部族が住んでいる。だが黒髪の人種はこの辺りには存在しない。

「監査官殿、では税は何を納めればよい?見てのとおり痩せた土地で、農作物など、わしらが食う分しか採れんでな」

「それは大丈夫です」

 今の王国では現物での納税はほぼない。農村でも一度、現金に換えてからの納税が主流だ。

「ではなにを?」

「こちらで採れる鉱物を納めてください」

 僕がここに派遣された目的の一つがこれになる。

「ほう、鉱物で……なるほど」

「そんなのでいいのかい……あんた?」

「はい。どのくらいの量になるかはまだ決まっていませんが。どうですか」

 悪い話ではないことは長老もわかっているはずだ。

 それに、貨幣での納税はこの集落では無理だろう。他の村落や町との交流がなかったのに、貨幣が流通しているはずがない。 

「わかりました。ですが、大洞窟から採れる鉱物は多様ですじゃ。鉄や銅でよいのですかな」

 たしかに鉄や銅が安定して手に入るのは王国としては嬉しい。だけど、国内には、それらを採掘している場所がすでにいくつかある。

「この土地で勇者が手に入れた剣と装備。それに使われた金属を納めて欲しいのです」

 僕の言葉で長老の目つきが変わる。

「ほう、ご存知でしたか。たしかにあの金属は、この大洞窟でしか採れないものですじゃ。それをご所望とは」

「長老! いいんですか、あれはこの集落の切り札だって」

 報告では、大洞窟に攻め込んだ勇者たちは、最初は敗退したと記されている。魔物の強固な肌に武器が一切通じなかったそうだ。

「大洞窟の魔物を倒した武器は、こちらで作られたのですよね?」

「そうよ! あの勇者たちはこの集落にいたわ!ボロボロだったのを、あたいらが介抱したのよ!」

「そうですか、あなた方が。王国を代表して感謝します」

 僕の謝意に彼女は意表を突かれ、顔が緩んでしまう。

「勇者にわたした武器なんですが、どのような金属なんですか?」

 報告書には『強力な武器と装備』とし書かれていなかった。

「これだよ」

 突然、黒髪の女性が僕に向けて切先を向ける。

 白くそして滑らかな刃が、薄暗い室内で淡く輝く。

「これがその金属よ」

 見たことがなかった。鋼ですらない。

「査察官殿よ、税はその金属でよいのですな」

 僕は長老に頷いてみせる。

「では、これからの世話はあの娘がしますじゃ。よろしいかのう」

 僕が振り返ると彼女も同じようにこっちを見ていた。

「長老! 私は独り身ですよ! それを男の世話など! 危険でしょう!」

 僕も危ないと思う。自分の体が。

 長老は笑って済ましてしまった。 

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