第13話黒髪の集落
吹雪は一昼夜おさまらず、翌朝になってピタリとやんだ。
扉を開けると外が一変していた。
白い世界。
「ここが、あなたが探してた集落よ」
王国ではあまり見かけない形の屋根の家が並んでいた。
日の光でキラキラと輝る雪に足を踏み込む。一気に沈む。
「長老のとこに案内するわ」
僕を助けてくれた女性も家の外に。僕も彼女の後についていくが、雪に足をとられて思うように進めない。彼女との距離がどんどんひらいていく。僕は必死で彼女を追う。
彼女の黒髪がなびいている。王国では珍しい髪色だ。
他の住人をちらほらと見かける。みんな黒髪だ。彼らも突然の来訪者に注目している。
思ったより人がいるな
どうにかこうにか一軒の家の前に辿り着く。
「長老の家よ」
僕は息を整え中に。
息を呑む。
巨大な影が目の前に。今この土地の魔物は駆逐されたならば熊かだがここは長老の家のはずではなんなのか罠か魔物が潜んでいたのか
「どなたか?」
影が人語で語りかけてきた。混乱した僕はやっとそれが人間だと認識する。
「王の使いだそうです」
でかい。僕の身長の倍ある。
「僕は王直属査察官です」
「ほう、私はこの辺りのまとめている者ですが、一体どのような御用で」
その巨体の割には丁寧な口調だった。
「大洞窟周辺の調査にきました。最近まで魔王が侵略していたので被害の状況の確認です」
「そうですか。勇者たちが大洞窟の巨大トカゲを退治してくれたのはつい一月前ですからのう。それまではこの辺りには魔物がよく出没していました」
「どうぞ」
奥から若い娘があらわれ、僕の前にお茶をさし出してくれる。
「被害はどうでしたか?」
「そうですな、何人かはやつらに殺されましてのう。家も破壊され……、仕事にも支障がでましたのう」
長老は目を細め思い出している。
僕は熱いお茶をすする。
「この辺りの仕事といいますと」
長老の目つきがかわる。
「このあたりは農作物もとれんような土地でしてのう」
語り口はまだ丁寧だが声音が若干高くなっている。
「ではどのように糧を得ているのですか?」
この集落の規模を維持するにはけっこうな食料が必要なはずだ。だがこの辺りに田畑がある様子はない。
僕は長老を見上げる。まじで怖い。
「……わしらは洞窟で採れる鉱物を売ったりして生活をしておりますのじゃ査察官殿」
やはり
「おい王の使い! そんなことを聴いてどうするつもりだ。あたいらの生活がそんなに珍しいのか!」
横で様子を見ていた黒髪の女性が僕に詰め寄ってくる。
「いや! ちがうんですよ!」
「やめないか!無礼を働くのではない!」
巨大な手が僕と彼女を引き離す。
怒りの視線を感じながら僕はまた長老と対峙する。
もうこうなったらさっさと理由をいうしかない。
「僕がここにきたのは、この集落が突然あらわれたからなんです」
ちょっとした沈黙が流れる。
「? おい王の使い、あたいらはずっとこの辺りに住んでいるぞ! なんだ突然あらわれただと!」
黒髪の彼女がまた僕に詰め寄ろうとする。
「それが地図にも人別帳にも記されていないんですよ! ここ!」
勇者たちが大洞窟で魔物を退治した情報はすぐに王都にも届いた。すぐに集められた情報は文書官がまとめ、王や上層部に届けられる。がその時、一人の文書官が気づいたのだ。勇者が立ち寄った集落に名前がないと。彼は過去の記録から名前を探そうとしたがやはり見つからなかった。この集落はなんなのか。
「で、僕がきたんです」
僕の説明を聞いて長老は納得してくれたが、背中の視線はやはり厳しいようだ。
「なるほど。たしかにめったに人が来ぬ土地ですからな。でしたら、十分に調査をしてくだされ」
さあて、これからが問題なんだよなあ。
「ありがとうございます。ではこちらの集落の人数を調べさせてもらいます。まとめましたら、こちらで納めてもらう税について連絡が」
「ふざけるんじゃね! なんで王なんかに貢がなきゃならんのだ!」
彼女を止めてくれるものはいなかった。
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