第10話牢屋
すでに街道の工事は予定以上に進んでいた。
僕ですら想像できない速度で街道が新しくなっていく。
港町の商人の実力を見せつけられていた。大量に動員されれた人々が土を削り、埋め、固めていく。港町付近の街道は石畳で舗装されていた。
僕は工事中の街道を通って宿場町に向かっていた。
今ここで働いている男たちの大半は魔王出現によって、働き場を失ったものたちだ。大量の人員が集められた理由がここにある。
またこの工事によって流民の盗賊化が防止できるようになった。人は職を得れば悪事など働かない。治安の回復の情報が頻繁に届いてきている。
工事中の街道の先頭に着く。この辺りはまだ道幅は狭く、土を満載したトロッコが行き交っていた。
「査察官殿!こんなところにおこしとは」
現場監督が僕に気づく。
この大人数を仕切るだけあってその体はまるで歴戦の戦士のように屈強だ。
「どうですか?順調ですか?」
監督は懐から図面を取り出し僕の前で広げる。そこには工期と街道の地図が描かれていたい。
「いまいるのがここなので、ここが街道の半分て所ですわい。人数が多いので昼夜交代の突貫工事ですすめていますわい。これなら、あと二三日で宿場町の手前までいけますわい」
自信満々に監督は地図を指さす。僕もこの工事の勢いならそうだろうと納得する。
そのまま、工事地区を抜け、まだ未整備の街道に出る。僕は宿場町に向かう。
宿場町につくとえらいことになっていた。
キャラバンで埋め尽くされている。
まるで平和な時代の頃のように。
「これは一体?」
街道にキャラバンの荷馬車が延々と連れねている。
「どうしでこんなにキャラバンがいるんです?」
僕は荷馬車で暇そうにしている商人にきいてみた。
「それがよお、山岳部に新しい街道ができるってんで、関所を設置してた貴族がびびって、通行料を下げだしたんだよ」
まさか……こんなところで影響があるなんて。
「貴族もよ、おいらたちキャラバンがこなけりゃ自分とこの町が潤わないってやっと気づいたんだよ。今さらおせーけどよ」
口を歪め商人は笑みをみせる。
この渋滞を起こしている、キャラバンが全て王都に着いたとしたら。
疲れている脚が、どんどん軽くなっていく。
「これで」
僕の前に黒い装飾の男たちが立ち塞がる。
背後にも。
「王都が救われた」
「査察官殿ですね」
頭の男が慇懃に僕に尋ねる。
「は、はい」
有無をいわせず僕は拘束された。
まさかこんな形で王都に戻るとは思いもしなかった。
石造りの部屋で僕は一人座っていた。
世間的にいう牢屋にいる。
まあ査察官だと普通の牢屋よりランクが高くて、ベットや机が備えてある。窓も大きく日の光もよく差し込んでくる。鉄格子さえなければどんなに気分がいいことか。
黒い服の男たちは騎士団のものたちだった。別段乱暴は受けなかったが、拘束の説明はされなかった。
石畳の響く音が廊下からきこえてくる。
僕の牢屋の前で止まる。
「査察官」
扉の覗き窓が開き、初老の男がこちらを覗き込む。
「大臣!?これはいったい?」
扉の向こうには、この国を支える大臣が立っていた。
「お前は何をしているのだ。あのような行為、越権も甚だしい」
乾いた声が石壁に吸収されていく。
「私は指示道理に街道に整備をしました」
「バカな!きさまが整備するべき街道は王都から港町までの街道だ!なぜ遠回りして山の中の街道を整備している!」
「それは
僕は今までの経過を全て王都に手紙で連絡していた。もしもの為に同じ手紙を何通も違うルートで。知らないはずがない。
「命じられたことをすればよいのだ!それを勝手に!どう始末してくれる!」
やっと気づく。
「大臣、今回の街道整備の件にあなたは関わってはいないはずですが」
だからこの場に番兵がいない。聞かれたくないのだ。
「どうかこの場に僕の上司を呼んでください。そうすれば解決します」
だが扉の向こうから帰ってきた言葉は無残なものだった。
「国費の無断使用、重度の越権行為。きさまは死刑だ」
やはり石造りの部屋は冷える。ベットで丸くなっても寒さで寝れない。
この国には大臣が11人いる。一応は各自の担当は決まっているが、かなり曖昧な部分もある。東方の帝国のように官僚制が完備した国に比べればこの国の制度は杜撰極まりない。
月が雲に隠れ牢屋の中が真っ暗になる。
無音が支配する。
何かを考えようとしてもなにも形にならない。
何も見えない。
それを破るものがあらわれた。
廊下から足音が。
そして僕の部屋の前に。
「査察官殿」
まさかの女騎士さんの声だった。
「!?どうしてこんなところに!」
僕はベットから飛び降りると、扉に前に向かう。覗き扉があき、そこにはやはり女騎士さんの顔があらわれた。
「宿場町で査察官殿が攫われたときいてな、伝手をつかって調べたのだ。しかしなぜこんなところに幽閉されているのだ?」
一体彼女は何者なんだ。
「僕が街道の整備をしたのがダメだったみたいです」
「バカな!なぜだ!あれによって見てみろ!宿場町の繁盛ぶりを!王都の市にも物がいきわたっているのだぞ!何がいけない!?」
「僕の権限ではないのですよ。あの街道の整備は」
大臣がいったとおり、僕が整備する街道は宿場町から港町までの街道。あそこではない。
「だが関所が乱立していて、街道として意味をなしていなかった!だからこそ違う街道をつかって港町との流通の回復を計画したのだろ!それを説明すればいいではないか!」
今この部屋に差し込む光は除き窓からしかない。
「説明はしていました。いままでの経緯も。勝手に関所をたてた貴族に王自らの命で撤廃できないかと頼んでいました。ですがね」
そういえば女騎士さんとは、港町の件以来会っていなかった。
「返ってきた指示は『街道の整備をしろ』です。それが何回も」
「バカな……」
「まったくです。貴族に命令できないんですよ。それにこの国の大臣自身が領地に関所をたてているんですから」
扉の向こうは無言だった。
「それに僕は知っててやってたんです。新しい街道の整備が越権だって」
「!?知っててやったのか査察官殿」
「そうしないと」
今の僕の顔を彼女に見せたくないな。
「そうしないと、誰が王都の民を救えるんですか。大臣も貴族も己のことしか考えていない。民が飢えても、関所が勝手にできても知ったことではない。ただ王都の城壁の中かで権力を弄っているだけだ。誰かがやらなければいけなかったんです」
「なぜそこまで……」
「なぜ?若い少年少女を勇者だと騙して、魔王討伐に向かわせているのに!僕はそれをただ見ているしかなかった。彼らは命を賭して戦っているのに、僕が何もしないなんて!」
部屋の中にまた月明かりが差し込んでくる。
「大丈夫です。新しい街道の整備はもうすぐ完了します。あの規模の工事をなかったことにはできないのできません。王都に安定してものが流れてきます。絶対に」
「査察官殿はそれでいいのか!?私は許せんぞ!」
「まあ、そうなんですけどね」
達観しているわけではないが、乾いた笑いがでてしまった。
翌日、僕は刑を執行されることになった。
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