第8話整備資金
数日たっても許可は出なかった。
今現状が国の危機という実感がないのか、それとも無能なのか。
何度掛け合っても長官は待ってくれとしか答えなかった。
「なんなのだあの男は!優柔不断にもほどがあるだろう!」
女騎士さんが港町名物のタコの串焼きを頬張りながら怒りをあらわにする。
「巨大な額ですからね。即決はできないのでしょう」
この港町の賑わいの中にいると王都の現状が信じられない。あまりにも物が溢れている。
「こうなれば王都にいって大臣に話をつけるしかありません」
それは移動でまた二週間は浪費することになる。
そして許可が下りるかはわからない。
お金がない。
僕たちの泊っている宿は町の中心部からやや離れた地区にあった。そこにいくには大商店が軒を連ねた通りをとおらなければならない。
「査察官殿!」
豪奢な建物から声をかけられる。
「やっぱり査察官殿じゃないですか!」
そこには宿場町の居酒屋で僕に声をかけてきた商人がいた。
「あの後、急にいなくなるからどうしたかと思えば、こちらに来ていたのですか」
「はい、港町に急用ができたので」
「もしや、長官に街道の整備を訴えにきている役人とはあなたのことでしたか!」
もう外に漏れている。もしくはこの商人の情報網が凄いのか。
「よくご存知で。先ほど長官とその話をしてきたばかりです」
「ははは、そうですか。大変でしょう、どうです私の店によっていきかせんか」
長官との無益な話合いで僕は疲労していた。はやくベットで横になりたい。
だがこの商人も流通の回復を望んでいる。
僕たちが通された部屋は、行政庁の部屋よりも豪華だった。
金糸で刺繍された壁紙、鮮やかなカーテン。匠な装飾をされた机。透き通った白磁の水入れ。
「あの長官では話はすすまないでしょう」
彼は僕たちのグラスに水を注いでくれる。ここまで透明なグラスは初めて見た。
「もともとは猟官で得た地位ですからね。まあ平時ならよかったんですがね」
メイドが僕たちの前に色とりどりのお菓子を用意してくれる。
机の上が華やかに輝いていく。
「我々港町の商人たちが何度、関所の撤廃を嘆願したと思います?」
何気なくのんだ水がこの世のものとは思えないほど旨い。
「港町の長官は、貴族に対して権限がありませんからね」
「そうでしょうが、この港町の不利益になることに何も手を打たないというのも、ど
うしたものでしょうか」
この商人の発言は港町の総意だ。港町の荷を最も消費するのは王都だ。そこに思うように荷が送れないでいる。
「商人さん、悪いんですが関所の撤廃は限界です」
僕の言葉に彼は動じることはなかった。
「査察官殿!そんな弱気なことを!王の勅命を貴族たちに下せば関所など!」
かわりに女騎士さんが狼狽えてしまう。
「私の見立てでは王都は後三カ月で食料が枯渇するでしょう。今は王都近隣からの農
作物で凌いでますが、それも収穫が終わってしまいました。現在の街道の流通量で
は王都の民の半数にも足りないでしょう」
その計算に僕は同意する。
港町には物資が満ちている。王都は枯渇している。僕はこの二つを繋げることができないでいる。
すべては金だ。
街道を整備する金がない。
……
「商人さん、折り入ってお話があるんですが」
「なんでしょう」
「今回、僕が港町にきたのは街道の整備資金を得るためです。ですがそれは今つかっている街道ではなく、別の街道なんです」
どうやらこの情報は伝わってないらしい。
「山岳部の街道を整備します。ここは王直轄領地ばかりなので関所が存在しません」
「たしかにそうですが、あの街道では王都までかなりの日数がかかるのでは?」
「徒歩でなら、宿場町までは二週間かかりません。僕たち二人が実地で試しました」
いままでにない表情で商人が黙考をする。すでに彼は察している。僕が何を求めているか。
「それが本当なら、新しいルートで王都まで荷を運べるということですが、その場合
は道の整備にどれほどの額が必要なものか」
僕は正直に答える。
「なるほど。その額なら長官でなくても二の足を踏むでしょう」
喉が渇くがグラスに手が伸ばせなかった。
この大きな賭けに勝たなければならない。
「街道の整備資金をわれわれ港町の商人たちに出してもらいのですね」
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