第7話港町到着

 宿場町を出て、十日。僕たちは港町にいた。

 荷下ろし場には大量の荷が積まれていた。巨大な船が連ねた波止場。喧噪。

 人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人

「ここにこんなにあるじゃないか」

 ここにある物資はすべて王都に必要なものばかりだ。これさえスムーズに流れれば王都は飢えなくていい。

「やはりあのキャラバンは山岳部の街道を使っていたんだな」

 女騎士さんは道中の疲れを一切みせない。鎧を完全装備のまま徒歩でここまで来た。一体どれほどの体力があるのか。

「そうですね。思った以上にはやかったです。これなら荷馬車を連れていたとしても

 そうかわりはありませんね」

僕たちが通った王直轄領地はやはり関所はなかった。貴族の領地に関所が設けられていたが、それは通行税徴収目的よりも防衛が理由だった。

 すぐに、僕たちは港町の行政庁に向かう。この規模の町だと王から派遣された行政官がいる。

「あの街道を他のキャラバンに教えれば、これからはスムーズに物資が王都に届くよ

 うになるだろ」

 潮の香りが流れてくる。内陸にある王都では感じることができない解放感がこの町にはある。

「騎士さん、あの街道では荷馬車はせいぜい一台ぐらいしか通れないでしょう」

 僕と女騎士さん二人でも狭いと感じた場所も多々あった。

「うむ。だが荷馬車が一列に連なっていけば混雑もしまい」

「みんなが同じ方向に進むのならいいですがね。王都と港町、絶対にすれ違うキャラ

 バン同士が発生します」

 町の富を顕示する豪奢な建物が見えてくる。あれがこの町の行政庁だ。

「そこは、どこかで待機なり調節なりを」

 商人たちにそんなことができるわけがない。はやさが儲けに繋がるのならどんな強引な手でも使ってくる。

 行政庁正門前の道はかなり広くとってある。石畳を敷、道の左右には巨大な商社の館が幾つもたっている。ここを中心に町が動いているのがわかる。

「なので道幅を拡張使用と思います」

 

 僕の到来を告げると行政庁の長官の部屋にすぐにとおされた。

 この辺り、王直属同士というので話がはやい。

 異国の装飾を施された部屋で長官はまっていた。これほどの部屋は王都の大臣でももっていないのではないだろうか。

「これはこれは査察官殿。遠路遥々ようこそ港町へ」

 恰幅のいい体の長官が僕に挨拶をし、みずから冷えた果実酒を用意してくれる。

「よく港町をまとめていらっしゃる。魔王の被害もないようですね」

「それがこちらに寄港する船の数が減っているのですよ。海の魔物にかなり襲われて

いるそうで」

 壁にはこの港町を中心にした地図が飾ってあった。かなり古い地図でどちらかといえば絵画に近い。

「こちらの物資が王都に届いていないのですよ長官殿」

 予想していたらしく反応は薄い。

「商人たちからも関所の乱立で困っていると聞いています。この港町と接した貴族などは

 領地内にいくつも関所をたてている始末です」

 この長官が早期に反応してくれれば、関所がこれほどの数にならなかったのだけど。

「関所のせいで街道の流通量が激変しています。王都の物価の高騰を抑えなけれ至近

 のうちに政変が起こるでしょうね」

 いままで平静を装っていた長官の顔に焦りがあらわれる。遠方地で気ままにやっていたこの人にとっても王都の情勢は影響を及ぼす。はやい話が長官の交代だ。

「それは……しかし現状、王都に荷を運ぶキャラバンは関所でかかる経費を上乗せて

 価格をきめています。それに我々が干渉するのは得策とはいえません」

 値段の設定は闇で流れる物資を生み出す。

「流通の復活。そのための妙案があるので僕はここにきました」

 僕は机から果実酒の瓶をどけ地図を広げる。

 そして僕たちが通った道を示す。


 僕には街道の整備をする権限が与えられている。そのための経費もある。

 だがこの山岳部の街道の道幅を広げるには、僕が使える経費では全然足りない。

「港町からも資金を出してもらいたいのです」

 僕の話を聞いた長官はずっと地図を睨んでいた。

「やったな査察官殿」

 女騎士さんが僕を労ってくれる。しかし、この場所に貴族出とはいえ彼女を連れてきてよかったんだろうか。

「たしかにこの街道は穴場でした。材木の搬出でしか使用されていなかったので」

 やっと長官が顔を上げる。彼の眉間に深い皺ができていた。

「いかんせんこの距離の街道を整備するとなるとかなりの額が必要になります。それ

 をすぐには出せません」

「この場合は緊急必要なので長官の許可さえあれば独断でできるはずです。たしかに

 整備にかかる額は大きいものですが流通の回復が最優先です」

 僕なりに金額の試算してみたが、認可するにはかなり勇気が必要だろう。

 そして結論はでなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る