第6話僕の仕事
僕の査察官としての任務は街道の整備だった。流通の回復こそが喫緊の問題だと上も認識していた。
が現場では街道は荒れ放題で、盗賊が跋扈し、勝手に関所がたっている。
どうしろと
いうんだ
重い頭のまま朝食をとる。昨夜は色々とありすぎた。
そういえば朝食も流通が多少は回復したので豪華になっていた。水ではなくお茶が、パンもふっくらとしている。スープの具も多い。
これが僕の成果だ。
「査察官殿おきてるか」
もう女騎士さんが僕の部屋にくるのには慣れた。
「おやようございます騎士さん」
「おやよう。ところで昨日の話なんだが」
「異常にはやいキャラバンですよね」
どう考えても答えがでなかった。
「そのキャラバンなのだが、もう朝一で王都に向かってしまった」
「そうですか……」
「うむ、私も彼らのはやさの理由を知りたかったのだが、何度聞いても教えてはくれなか
ったのだ」
キャラバンは商売柄教えれないことは多い。僕は暖かいスープを喉にとおす。
「だがな、彼らはかわりに勇者殿の情報を教えてくれたのだ。彼らはどうやら勇者殿と
すれ違ったそうだ!」
ここにきてようやく勇者の情報が手に入り女騎士さんがもの凄い喜びようだった。
「どのあたりですれ違ったんです?」
「……それは……どこか山深い……街道だと」
この王国の国土の三割は山岳なんだが。
「査察官殿!どこか見当がつかないか?」
無茶を
「まってください。彼らは山部会街道をつかっていると?」
「ああ、そこで勇者殿とすれ違ったと」
…………
僕はカバンから地図をとりだし、机に広げる。
この地図は行政官専用といっていい。王都を中心に都市は全て記され、主要な街道と河川は名前まで記されている。
王都から港町までを繋ぐ街道ももちろん描かれている。
王都からこの宿場町、そして幾つかの町をとおりそして港町に辿り着く。
その道中に山はない。
平坦な土地を選んでつくられたのがこの街道だ。
ではどこど勇者とすれ違ったんだ。
「ほうこれが我らの王国か!こんなに繊細な地図があるのだな」
「騎士さん、これは部外者以外見てはダメなので、秘密にしてくだい」
僕が今もっている地図が他国にでもわたればかなり危険なことになる。これほど繊細な地図は世間に出回っていないのだ。
「わかった。しかし王都周辺にはそれほど高い山はないのだな。だとすると……」
もう少し説明すると、地図は軍事戦略上必須なのだ。主要街道と河川、橋の位置。これらがわかれば軍の進行にどれほど有利なことか。
「査察官殿、ここら辺りがあやしいと思わないか・」
女騎士さんが地図の一点を指さす。そこには山が幾つか描かれており、細い街道も存在している。
「キャラバンなら王都と港町を往復するはずだ。そう考えると宿場町を通って山を抜ける
道はこれしかない」
僕は彼女のさした街道を目で辿っていく。たしかに宿場町をとおり、最後は港町につく。
「かなり辺鄙な街道ですね」
街道のランクからしてかなり低い。
大きな町をとおっているわけでもなく、運ばれているのは木材ぐらいだろう。
主要街道が王都と港町を直線で繋いでいるとすれば、この道はかなり迂回をしている。
南の大陸から港町経由で届いたお茶で喉を潤す。
どうやって関所を撤去するか……。
流通の回復を……。
女騎士さんの指先をもう一度見る。
この地図にはもう一つ重要なものが記されている。
貴族の領地だ。
「この街道は……」
「どうした査察官殿?」
「この街道は直轄領だ」
彼女も地図を凝視する。
使いくたびれた羊皮紙の地図に僕たち二人は顔を近づけていた。
「たしかにこの街道は直轄領をとおっているな」
女騎士さんの髪が僕の頬をくすぐる。
「そうなんですよ!貴族の領地をほとんど通っていない!」
とおっていたとしても小さな貴族領ばかりだ。
「それだと何かいいことがあるのか?」
「もちろんですとも!関所がない!」
僕は直ぐに確認のため旅路に出る。
そしてなぜが女騎士さんもついてきている。
目指すは山岳部の街道。
「ほんとうに関所がないのか?」
女騎士さんは信じられないようだった。たしかに今この国ではどこにでも関所がたっている。
「王直轄領地には王都から代官が派遣されています。かれらに関所を設置する権限はあり
ません」
現地に派遣された代官が私欲を肥やすために関所を設置している可能性もあるが、その場合は極刑がまっている。
もしくは関所を設置することで独立をしようとする代官がいるかもしれないけれど、僕の知っている限りそんな覇気のある代官はいない。
道はやはり細いものだった。だが手入れはされているらしく通行に支障はなかった。
「なあ査察官殿」
「なんでしょう?」
見渡す限り山しかない景色に。
「貴族たちが勝手に関所をつくっているのを王が成敗しないのは、もしかしてだぞ。
王軍を動かせば貴族の反乱が起きるからなのか?」
巨木が空を覆う。
「騎士さん、なぜ貴族達が王に従っているかわかりますか?」
「それは、王が神聖にして唯一のものだからだ」
きいたことがない鳥の鳴き声が響き渡る。
「そうです。ですが魔王の出現によってその……王と貴族の間の結束が緩んでしまっ
たんです。王の力が衰えれば、貴族の中には自立を望むものも出てきます」
収入の増大には関所ほど価値のあるものはない。
だからこそ関所の設置は王が管理していたのだ。
「私は最初、魔王に対して一致団結してあたれば勝てると思っていた。だが今この国
はバラバラだ。だれも国のことを思って行動をしていない」
いつしか道は薄っすらと暗くなっていた。
「そうですね。ですが王の求心力が戻ればすぐに貴族たちも王に従いますよ。そのた
めにも王都に対する流通の回復です」
それしか僕にはできない。
一気に目の前が明るくなった。
僕たちは高台に出ていた。
天を貫く山々と深い木々が広がる世界に、一本の道が延々と伸びていた。
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