第2話関所

 とりあえず僕たちは宿場町の門に。魔物が出没しだしてからは、町を囲う塀もかなり頑強に補強されている。

 それはわかる。だが町からずっとのびる柵は魔物相手には無力なつくりだ。これは人ぐらいしか防げない。

 長槍をもった門番がやってくる。

「荷物はないのか?なら大人二人で銅貨五枚だ」

 ……

「よし、私が二人分だそう」

 女騎士さんが懐から出そうとするのを僕は止める。

「これは誰の許可をとっているのかな?」

 他の門番も集まってくる。空気がかわっていく。

「おいおいそのくらいの銭でもめるつもりか?俺たちも面倒くさいことはしたくない

 だけどな」

 僕も同感だった。

「責任者にあわせてもらおう。国軍と揉めたくないだろう」

 僕の胸の紋章に気づかないのなら、話も進まない。ならこれぐらいのハッタリが必要になってくる。

 門を抜けてすぐに簡素な家が建っていた。どうやらここが番所らしい。

「査察官殿、なぜあのような少額をケチる?」

 女騎士さんはまだ状況を理解してない。

 番所から年配の男が出てくる。

「あんたかい国軍なんて脅しを出してきたのは。まったくそんなもんがここまで」

「王直属査察官だ」

 男が硬直する。

「え?査察官様で」

 僕の胸の紋章に釘づけになっているので話がはやい。

「この関所は誰が勝手にたてたのだ」


 僕たちはこの宿場町を代表している宿に泊まっいる。査察官などの公務を帯びたものが来た場合は世話をしなければならない。

 まあ役得だ。

 旅の疲れを癒すため僕はふかふかのベットの上で大の字で寝る。

「ああ~~やっぱ羊毛はいいなああ」

 家のベットでは味わえない感触を楽しむ。

「査察官殿」

「うわ!なんでしょう!」

 いつの間にか部屋に女騎士さんが。

 しかも彼女は鎧を脱いでおり、男物の旅装束を着ていた。なので、体のラインが、特に胸の大きさがわかることに。

「今日の関所のことなんだが、どういうことなのかわからないのだが」

 僕はいそいで服を整える。

「あの門での徴収、ようは関所なんですが。違法です」

「違法!?ならばすぐに撤去を!」

 だとしたらどんなにいいことか。

「あの関所をたてたのは、この辺り一帯を領する貴族なんですよ」

「貴族とあろうものがなぜに」

 どう説明すればいいのだろう。

「この辺りは最近まで魔王の勢力下でした。なので貴族は己で身を守らなくてはいけ

 なかったんです。傭兵を雇い、城を改装したりと。そのためにお金が必要なんです

 よ」

「ふむ、なるほど。しかし、もう勇者殿がこの辺りを開放したのだ。必要ないだろ

 う」

 一度手に入れた金の卵を手放すものか。

 僕は窓から外を見る。この部屋は二階にあるので見晴らしがかなりいい。それでも町から伸びる柵の先までは見ることができない。

 納得しないまま姫騎士さんは自分の部屋に戻っていった。

 この部屋は最上クラスの部屋になる。王直属査察官はそれほどの扱いをしないといけないのだ。だけど、女騎士さんはもう少しランクの低い部屋に泊まっている。貴族の子弟だといっても公務ではないのだ。まあ、僕が彼女も随伴者だといえば、無料でいい部屋に泊まれるのだけど。

 きっと彼女は断る。

 前に勇者を追った貴族の子息が、宿屋の最上級の部屋に連泊して無一文になったことがあった。それを知っていると彼女はとても素晴らしいのだけど。

 翌日、宿に領主の使いの者がやってきた。

「査察官殿、今回の関所の件なのですが。穏便に済ませれないでしょうか?」

「私設の関所が違法なのはご存知でしょう。今のうちに撤去すれば不問にします」

「主人も領民を守るためにどうしても関所が必要なのです。それにここに関所があれ

 ば不逞の輩を防ぐこともできます」

 使いの者との会談はお昼まで終わらなかった。もちろん結論もでなかった。  

 査察官の服ではなく平装で宿場町に出てみる。

 この規模の町にしては活気がない。この宿場町からは港町や大農園地域に繋がる街道が伸びているのにだ。キャラバンもかなり小規模なものしか見かけない。

 露天商が集まる通りに差し掛かる。やはり数が少ない。彼らこそここを通過する人を測る目安だ。

 お菓子を売っている露店に足を向ける。暇そうにしてたオヤジが急に笑顔に変わる。

「どうです、この宿場特産のものですよ」

「そうだな。オヤジさんはこの町に長いのかな?」

 口に入れたお菓子は思ったより甘い。

「ええ、もう十年近くなりますかね。しっかし魔王がでてくるなんて思いもしません

 でしたよ」

 銅貨を渡してもう一つお菓子を受けとる。

「この辺りは勇者が魔物を退治してくれたんだろ。よかったじゃないか」

「それがね……関所なんてできちまって、キャラバンがこなくなってるんですよう」

 やはり。しかしそれなら他のルートを探すだろう。

 僕はもう一つお菓子をとろうか迷う。あまりにも甘いのでこれ以上はちょっときつい。

「キャラバンの連中がいうには、このあたりの街道に関所がどんどんできているそう

 なんですよ」

 勘弁してほしい。     

 

「査察官殿」

 町はずれで女騎士さんと偶然出会う。

 しかし人目を引く人だと思う。

「実は勇者殿の行方がわからなくて困っているのです」

 彼女の目的は勇者たちに加わること。なので、町に出て情報を集めていたのだが、ここにきて足取りが消えたそうだ。

「この町からなら港町に向かったのではないですか?」

「そう思うのだが、もう一つの大農園地域は魔物の被害が酷いらしくてな。勇者殿な

 ら見捨てていけないだろうし……」

 港町は交通の要。魔王の勢力下の奥深くまでいくこともできる。だが心情的に大農園地域にいくかもしれない。

 しかしだ

「勇者の足取りが消えるなんてちょっと信じられないな」

 もう無名の存在ではないのだ。どこかの町でも泊れば噂になる。

 それが伝わらないほど関所が乱立してるのか。

 これは早急に対処しなければ王都が干上がってしまう。

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