第3話領主との会談
領主から会う準備ができたと連絡がくる。
この宿場町からそう遠く離れていない場所に領主の館があった。
なぜか僕と一緒に女騎士さんもいる。
「おのが私利私欲の為に関所など設けよって!ゆるさん!」
「あの穏便にお願いします」
最近の地方領主の館はどこも城のようになっている。堀を深くし、柵を何重にもたてる。
ここにくる途中にも物見台がたっていた。
全て魔物に対する備えだ。
「すぐに主が参りますので」
老齢な執事の案内で、だだっ広い部屋に僕ら二人は通される。壁には歴代の領主の肖像画が飾れれている。すぐにメイドたちがお茶をもってきた。
「お待たせしました。査察官殿」
思ったより温和そうな領主だった。壁の肖像画に瓜二つのがあることに気づく。
「今日はどのようなお話で」
「率直にいいます。私設関所の撤廃です」
「その件なんですが、いま現在の領土の状態ですと無理としかいえません」
この撤去の話は前に領主の使者に伝えてある。いくらか対策は練ってあるはずだ。
領主はさも困った笑顔を僕に向けてくる。
「魔王の出現で、領内に魔物が跋扈しているのです。王軍の出動もままならない今、
自前で兵を動かしています。それを養うにはどうしても関所からの収入が必要なの
です」
「それなら大丈夫です。勇者のおかげでこの地域は魔王の勢力は排除しました。王軍
も出動計画があります。傭兵は召し放っても大丈夫です」
このあたりまでは領主も想定内だろう。
「たしかに最近は魔物の出現は減っています。ですが査察官殿」
なんでしょう
「盗賊が増えているのはご存知でしょう。わが領内でも多大な被害を被っています。
他の土地でも同じです。これらを討伐し治安を回復するには兵が必要なのです!」
隣の女騎士さんはずっとしかめっ面だ。
「それに関してもすぐに処置をします。王軍騎兵が巡回をするよう要請をします」
「それでは遅いのですよ。しかも巡回するといってもわが領内を巡回するとしてもか
なりの人数が必要になりますぞ」
領主の話は一理ある。だがどんな話にも一理はあるし、他の一理と噛み合わないものだ。
そして僕は王直属査察官なのだ。
「領主殿、関所というのは王の認可が必要なのはご存知でしょう。今回の場合、非常
時ということで設置には不問とできます。だが、今だに続けるというのなら」
きっと僕の顔は酷薄な表情になっているんだろう。僕を見ている領主の顔がみるみる青醒めていく。
「王軍がここに駐屯することになりますが、よろしいか」
それは領主権の剥奪を意味する。
物見台をみながらまた来た道を帰る。領主はこのまま館に泊まらないかと誘われたが断った。
「査察官殿」
「なんでしょう」
彼女はさっきの会談以降ずっと考え込んでいた。
「たしかに勝手に関所を設けることは悪い。しかし領内の治安を維持するためならし
かたないのではないか?」
領主の兵とすれ違う。装備が全員違っていた。
「兵が減るといっても最低限は残しますよ。それに盗賊の発生も関所がなくなればあ
る程度は抑えられます」
「!?どういうことだ?」
「盗賊がなぜ増えたか。それは食えなくなったからですよ」
女騎士さんの目が僕を凝視する。
「魔王とその配下によってこの国の流通はズタズタにされました。食料や必需品が届
かなくなったんです」
勇者が現れるまで、王国領内の九割が魔王の影響化にあった。
「特に都市の民は食えなくなり、餓死者までもでるほどでした。そうなれば食料を求
めて悪事を働く者も出てきます」
現状、王都民は全て飢えている。王都近隣の食料生産では養うことは不可能なのだ。
「まずは食が満たされれば大半の者はもとに戻ります」
僕は断言をするしかなかった。
「ほんとうか?」
「それには関所の撤廃によって流通をもとに戻さないといけないんです」
王都が餓死する前に。
柵が撤去されていく。
関税を徴収していた兵はもういない。
「意外と簡単に折れたな」
僕は撤去作業を見ながら内心驚いていた。
関所というのはとても儲かるものなのだ。この宿場町など交通の要所だ。領主の懐にどれだけ入ったことか。
なので国軍が動くとブラフをかけなければ撤去はしなかっただろう。
「いや~よかったよかった。これで楽になりますよ旅が」
話を知っているキャラバンの頭が僕に礼をいってくる。町全体が活気ずいてきているのが肌でわかる。
「やはり国のことを思っていたのだな。あの領主殿」
女騎士さんが満足げな顔でこっちにくる。
僕は町から伸びる街道に目をやる。延々と続くその先に一体幾つの関所があるのだろうか。
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