勇者 のちょっと後で活躍するよ
ふゆつき
第1話街道
勇者が王都を立ち数カ月、とうとう魔族の幹部を討つという大功をなしとげた。
それは劣勢な王国では久方ぶりの吉報だった。希望が見えてきたのだ。
そして僕に仕事ができた。
僕がいま歩いている街道は荒れ果てていた。
雑草が膝丈まで生い茂り、至る所に轍がある。王法では街道から一定距離は何もあってはならないのに今では当たり前のように雑木が生えていた。
前に進むほど落ち込んでくる。
まじか……
鳥の囀りに混じって金属音が。
これは剣と剣が
「まじか」
僕はすぐに金属音、戦闘が起きている場所に向かう。
「くそ!こいつマジで強えぞ!」
統一されていない装備を纏った男たちが、一人の騎士を囲んでいた。
「こいつの鎧みてみろよ!金銀で細工してあるんだぜ!幾らになるよ!」
男たちの素性は盗賊だ。戦い方から見て傭兵崩れだろう。
騎士の背後をとった盗賊が一気に斬りかかる。騎士の鎧は今どき珍しい完全装甲を纏っていた。肌の露出がほぼない。盗賊は鎧の隙間を狙っていた。
一閃で盗賊が吹き飛ぶ。
あの甲冑であの動き、バケモノか。
地面に伏した盗賊は立ち上がることはなかった。
「てめぇ!ぶっ殺してやる!」
言葉とは裏腹に盗賊たちの顔は恐怖で引き攣っていた。
「おいきさまら!王都のそばで悪事を働くとはいい度胸だ!」
僕は登場は盗賊たちの虚をついた。我ながら上手くいった。
「くそ!……その紋章は!?」
盗賊の一人が僕の胸の紋章に気づく。もう勝負は決していた。
「王直属査察官だ。追剥ぎは極刑と知っているのだろ」
僕は彼らに剣先を向ける。
「ふ、ふざけんな!王だろうが法王だろうが関係ね!」
あれ
盗賊たちが今度は僕に襲いかかってきた。それはちょっとまってくれ
僕はとりあえず剣を振るって威嚇をする。しかし歴戦の盗賊はそんなことで止まってはくれない。
「わああ!く、くるな!」
一瞬で盗賊たちが倒されていた。
今立っているのは僕と騎士だけだった。
「……感謝する」
とりあえず騎士に礼をしておく。
返礼をするために騎士が兜を脱ぐ。
「気にしないでくれ。貴殿も私のために馳せ参じてくれたのであろう」
女性だった。しかも舞踏会にいるような美女がそこに立っていた。豊かな髪を後ろでまとめ、化粧もほぼしていない。それでも並々ならぬ気品だった。
「え、いえ。当然です。ははは。ところで、なぜこのような場所に一人でいるのですか?」
騎士だからといって一人旅は危険すぎる。しかも女性とならば尚更だ。
「うむ、私も勇者殿と一緒に戦おうと思ってな」
まじか
「しかし街道がこのような状態だと思ったようにすすめなくてな」
実はこのような勇者の後追いをする者は、貴族の若者にかなり多い。
「あのですね、これは確認なんですが、保護者からの許可はとりましたか?」
査察官としてこれはきいておかねばならなかった。絶対後で親御さんから捜査の依頼がくる。だいたいの子弟は怖くなって近隣の街をうろついているのだが、さっきみたいな盗賊に掠われたりすれば、身代金を要求される。面倒くさすぎるのだ。
「うむ、父上には話は通してある」
「そうですか」
まあこの女騎士さんなら下手なことにはならないだろうし。
「査察官殿、悪いのだが次の街まで案内してくれないか?道がこの状態だと迷子になって
しまう」
「わかりました。僕も次の宿場に向かっていたので」
僕としても一人旅は心細かったので渡りに船だ。
「では参ろう。査察官どの」
思った以上に街道の状態は悲惨だった。
もうここいらでは道と雑木林の見分けがつかない。
「査察官殿、よくわかるな」
僕についてくる女騎士さんが感心しているが、僕はもう目印の山を見て歩いていた。
「しかし、魔物が一匹もでないな」
「勇者がこの辺りを支配していた魔族を倒したおかげですよ」
数カ月前までは武装した集団でないとこんなところはとおれなかった。
「かわりに盗賊がでるようになりましたけどね」
「あいつらはこの国家存亡の時になぜあんな事をするのだ!解せぬ!」
僕は何も無言で雑草を掻き分けていく。
「国民一丸となって魔王と戦えばこのような状況にはならなかったものを」
まったく正論だ。
「勇者殿だけに危険な目に合わすことはできない」
この女騎士さんは真面目でいい人なのがよくわかる。
「騎士さん、あいつらはもともと王国の兵士ですよ」
「!?まさか!」
彼女は信じられないかもしれないが本当のことだ。さっきの盗賊たちの装備に王国軍支給品を纏っている者がいた。
「なぜに追剥ぎなどをする?将軍たちは知っているのか?」
「あいつらも食っていかないといけないんですよ」
この国の国力では常備兵は負担が多すぎる。魔王の侵略を防ぐために傭兵を急いで集めたが、思うようにはいかないでいた。
理由は簡単なんだけどね。
「あいつらもちゃんと給金を払ってやれば軍にいたでしょうけど。もう何カ月前から無給
でしたからね。さすがに脱けるでしょうね」
「な、なぜ給金を払ってやらないのだ?」
「……国庫にお金がないんですよ」
だから勇者なんてものをでっちあげるしかなかった。
「バカな……王宮はあんなに立派で、王も貴族も栄えているではないか?」
どう説明すればいいものか。下手すると女騎士さんに何をされるかわからない。
「ほら!見えてきましたよ!あそこが目的の宿場町です!」
空に昇る煙が見えた。あの下にこのあたり最大の宿場町がある。
やっと目の前がひらける。大きな川とそれに接した家が幾つも連なっていた。二階建ての家屋が見えるところからして豊かさがわかる。
……
「どうした?」
おかしい。なぜあんなところに柵があるのだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます