第13話

「それどういうことよ」


広いホールにマルタの声が響き渡る。


「どうもこうもないわ。あなたのやり方が勘付かれただけよ」


クロエ、マルタ、正光の3人が集まるトライアド最上階のオフィス。


大きな天蓋が3人を見下ろし、その中にポツンと正光のデスクがあるだけだ。


そんなだだっ広い場所で何をもめているというのか。


「今の今になって一体誰に勘付かれたというんだ?」


正光の少し苛立ったような声に、クロエはひどく冷淡な調子で答えた。


「朝凪蓮華よ」


それを聞いた途端に、マルタは笑い出してしまう。


「朝凪蓮華ぇ〜?ハンっ、あの三流魔術師に私の術式がわかるわけないじゃない。どうせ篠崎響呼の入れ知恵でしょう?」


あんな格下の魔術師に、多くの魔術師たちの目を欺く自分の術がきづかれてたまるものか。


凪家だのと大層な家柄の流れを汲んでいるにもかかわらず、彼女にその才能はなく、せいぜい注意すべきところは師匠があの狂宮恭弥であるということだけだろう。


狂宮恭弥は危険だ。


この計画の邪魔になる唯一の存在だ。


マルタはそう考えていたが、正光は同じではなかった。


「お嬢様の言ったことはいつも正しいことだけだった。今回もそうかも知れん。注意するに越したことはない」


彼はマルタにそう言い放つと、席を立ち天蓋を見上げる。


朝凪蓮華は対象に入ってなかったとはいえ、話に上がった篠崎響呼も狂宮恭弥も、今日の集会に顔を出さなかった。


まさか、自分たちの計画に気づき、潰すための作戦でも練っているというのだろうか。


計画も最終段階になるにつれて不安からくる妄想妄言だと言われれば、それまでかも知れないが、朝凪蓮華は決して実績のない魔術師ではない、ということが正光の中でずっと引っかかっていた。


「花宮のお嬢様、朝凪蓮華についていくつか聞いておきたいことがある」


彼女はクロエの友人として、狂宮恭弥とともに隣にいた。


つまり、クロエは彼女の活躍を知っているはずだ。


もしかすれば、クロエが蓮華側に寝返った可能性があるかも知れないと思い、聞いてみたが、そんなそぶりはない。


だが、面白い話は聞けた。


「朝凪蓮華は私が知っている朝凪蓮華ではない」


ここ数日の間に、なんらかの変化があり、朝凪蓮華の実力はマルタをとうに超えているというのだ。


マルタは怒りをあらわにし、当然彼女を潰そうと提案する。


正光もクロエがそこまでいうならば、先に手を打って消さざるを得ないだろうという見解を示した。


世界終焉の開始まであと1日。


タイムリミットは残されていない。


クロエは少し考えていた。


狂宮恭弥が集会に出席しなかった。


それは蓮華が輪廻の円環を乱したために起こったパラレルだと思っていた。


クロエにはわかっていなかった。


(……狂宮くんっていつ泳げるようになったんだっけ?)

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